「…………」

小坂君に殴られた衝撃で、僕の膝の上で寝ていた猫さんが起きてしまった。
でも凄く眠そうな様子で、そういえば朝二度寝を試みたりしているなと思いながら、膝の上で寝ぼけている猫さんを眺めていた。
……いかん口元が緩むにやける。

猫さんが好きすぎて生きるのがツラいと言っても過言ではない状況だったのに、更に猫なんて和む……くそう!

「えっと……おはようございます、猫さん?」
さっきまで僕はあんな状況だったし猫さんに読心術を使われてしまうほど心配されていたのかもしれない。安心してもらうためにも笑顔で言ってみた。
「ん……おはよう」
まだ少し眠そうだったけれど、状況を理解してくれたらしく猫さんは笑顔で返してくれた。嗚呼麗しい。
猫さんはそのまま「ごめんよ?」と言って膝から降りてしまった。少し……否、かなり名残惜しい。謝らなくていいからもう少し膝の上にいてください。撫でさせてください。
「……飯、出来たぞ」
僕を軽く蔑むような目で見ながら小坂君は言った。そんな目で見ないでください。猫さんならまだしも……げふんげふん。
「気流ちゃんに全部食べられてないといいね」
長い尾をしゅるりと一回転させながら猫さんは苦笑したように言った。
猫さん、それは完全にフラグです。
冗談では済まないからやめてほしい。気流子さんならやりかねないし。

「モガ……ひふへーは。へふひんへほ…モグモグひふはへふひんへほ、はへはひほー。ゴクッ」
「飲み込んでから喋って下さい気流子さん」
あんぱんを食べながら気流子さんが不機嫌そうに言った。恐らくさっき言ったのは『失礼なー。いくら気流リンでも食べないよー』だろう。あんぱんを食べながら言われても説得力は皆無に近いけれど。

しかし、パスタ三人分は本人の言うとおり食べられては居なかった。少し以外。ちょっと驚愕。

ちなみにパスタはキノコのクリームスパだった。味もいつしかのオムライスのようでは無く、ちゃんと美味しい。
いや、ちゃんと美味しいと言うのもおかしいのだけれど。一度小坂君にもあの料理を食べていただきたいと思った。少し酷かもしれないけれど。
「少しどころじゃないかーあはは」
思い出しただけで脂汗が出て来そうになる。冷や汗は出まくる。滝のようにでる。……恋愛の中での壁かな。愛の力で解決ッ!!……いやいや。

それにしても、美味しい。
「……小坂君はいいお母さんになれそうですね…………」
何気なく呟いてしまった。まあいいか。
「確かに、家事全般出来て綺麗好きだもんね。うん、いいお母さんになれるよ」
「小坂君のかっぽうぎ姿、気流リン似合うと思うよー」
猫さんや気流子さんも乗ってきた。
褒め(?)られる小坂君と言えば…………
「いやいやいやいや!!おかしいだろお前等!!俺は男だからな?母親にはならないからな!?かっぽうぎなんて着ないからな!?!?」
顔を真っ赤にして叫んでいた。突っ込みお疲れ様です。
「照れちゃダメだよー小坂君!褒められたらありがとう!常識だよっ!!」
「一言余計なんだよ!!しかもお前に常識を語られたくない!!」
「失 礼 な!気流リンをどんな目で見てるんだーッ!!」
「カエル」
「電波」
「気流ちゃん」
「うわぁぁぁぁ猫さんんんんん!!」
どんな目で見ているかと聞かれて『気流ちゃん』は卑怯です猫さん。
それでも一番優しい言葉だったために気流子さんは黒猫の猫さんを抱き締めた。羨ましい。
因みに『カエル』が小坂君で、『電波』が僕だ。カエルは酷い……。
「電波もどうかと思うよ……」
強く抱き締められて、猫さんは苦しそうだ。
「気流子さん、猫さんが死んじゃいます。離してあげてください」
「えー?もふもふしてるんだよー?」
「……ッ……。そういう問題じゃありませんよ、気流子さん」
「僕もここで殺されるのは嫌……かな……」
「ぶー……」
猫さんに言われたら離すしかないだろう。気流子さんは渋々猫さんを離した。
もふもふ……もふもふしているのか。嗚呼……気流子さんみたいなキャラだったら……げふんげふん。

「ふうん?家族みたいなんだね……?」

気がつくと誰かが窓の前に立っていたようで。
「……制服?誰だ、お前」
その声に反応して小坂君がゆっくりと立ち上がる。

「私は『アリス』―……嘘誠院音無。貴方を殺しにきました」
女子高生のような外見のアリスさんは、はじけるような笑顔で言った。

……どうやら楽しい平和な時間はとっくに終わってしまっていたらしい。



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