女装男は今まで偽りながら過ごしてきていた。
それは周りの者全てに対してだろう。

最初、女装男が暗殺者だったと聞いて確かにゾッとしたが、次第に奴の今までの苦労とか心情とかを考えるようになっていた。
彼奴は嘘偽り無く音無を溺愛していた筈だ。ガチホモだとか変態だとかは置いておいて、あれは純粋な彼奴の気持ちだろう。
そしてこのカオスで落ち着きのない生活を彼奴は楽しんでいた筈だ。心地良く思っていた筈だ。

それだけに、彼奴は苦しかっただろう。

人間、誰にも言えない重大な事を隠し続けているのは、相手が大切であればあるほど苦しいものだ。
自身の罪悪感にとらわれ続けるのだから。

罪悪感にとらわれながら組織に背き生活を続けた。
そんな彼奴が音無を暗殺するわけが無いだろう。

これが俺のポジティブで綺麗な考えだ。
人間愛。自己愛。自己犠牲。素晴らしいことじゃないか。俺は少年マンガみたいな暑苦しいノリが好きだ。

さて、女装男については解決したが……まだ音無が暗殺されることについての問題がある。
女装男が音無を暗殺しなかったなら月明家は他の刺客をよこすだろう。その他の刺客が来たとき、俺達は音無を守りきれるだろうか?
1人や2人ならなんとかなるだろう。だが集団で来られたら無理かもしれない。
よく考えればまともに戦えるのは音無だけなのだから。
せめてチャイナ娘さえいれば……。

「切羽詰まって何を考えているんだ、俺は……」
猫神を殺しかけた奴に助けを求めようとするだなんて。
笑うしかない。
「仙人……なんか引っかかるんだよね」
俺の呟き……または脳内に対し猫神がそう漏らした。
確か猫神はチャイナ娘は全く読むことが出来ないとか言っていた。更に、トドメを刺されなかったこともある。その二つが猫神に何かを囁いているのだろう。俺には全く分からないことだ。
そもそも自分を殺そうとした奴の事なんか考えたくもない。

「『そもそも考えたくもない』……か……。やっぱり僕の感覚はおかしいのかな?」
猫神は苦笑いしながら言った。
俺は何も答えないことにした。





けろっ!
重苦しい空気が流れています!気流リン苦しいっ!!超気まずい!!
仙人ちゃんに続いて葉折んも……っていう状況で、若干興味を持ちきれない気流リンが悪いのだろうけど。
正直に言っちゃえば、みんななんで悩んでいるのか分からない。

グダグダうだうだ言わないで帰ってくればいいのに。迎え入れてあげればいいのに。
まだ、帰るところがあるのだから。

「けろーん。空気に流されて気流リンもシリアスもーどっ」
階段に座り込みながら1人で喋る。悲しくはない。
ところで、シリアスとシリアルって一字違いだし似すぎていると思う。気流リン的にはシリアルがいい。食べるって大切。
ただ、シリアルモードってどんな状態なんだろう。シリアルを一心不乱に食べているのだろうか?シリアルナンバー的なにかが関係しているのだろうか?なるほど分からない。一字違うだけで全く違う。日本語ってむつかしい。

気がつけばシリアスでは無くなっていた。あら不思議。
ふむ。
シリアルと言えば牛乳だと思う。
牛乳をもっと飲めば、猫さんみたいにボンッキュッボンッになれるかな?
密かに音無君につるぺたと言われて泣きたいくらい傷ついている。
よ……余分細胞なんか要らないもんっ!!太るだけだもんっ!!……うう……。

嗚呼、1人で喋るのは悲しくないけど体型のことを考えてたらすごく悲しくなった。世の中ってすごく理不尽。

そういえばの話だけれど、葉折んが来たときに居たケロ君1号は気がつけば何処にも居なくなっていた。
私は知っている。あれが、幻覚だと言うことも、誰が作ったのかと言うことも。
「―――……」
いつぶりになるのか分からないけれどその人の名前を呟いてみる。
勿論、返事もなければこの行為自体に意味はない。

さてと。
しみったれた空気をぶち壊しに行こう。丁度お腹も空いてきた。

……みんな、考えるのやめてくれないかな?
「考えるの止めたらそれはそれでダメだねっ!けろーんっ☆」

勢いよく立ち上がって、跳びながらリビングの扉を開けた。

「こっさかくぅぅぅぅん!!気流リンお腹空いたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

なにも知らないお馬鹿を演じながら。



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