目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。
「ここは……?」
起き上がろうとするけど全身が痛む。頭も釘を打ち付けられているかのようにガンガンと痛む。
仕方がない。体を起こすのは諦めよう。
寝転がったまま、記憶を辿る。
……確か、朝爆発音でなんとなく起きたら玄関に、僕を玄関にすら入れてくれなかった戸垂田小坂君が居て……眠かったから二度寝をしようとして。ええっと……その後音無君の心をちょろっと読んだら……。
ダメだ、記憶にノイズが……。
単に眠かったから曖昧なのかもしれないのだけれど。

「……う……かはっ……」
いきなり、少量だが吐血した。
記憶が曖昧な時に僕は何をやったのだろうか……。心当たりは……なんとなくある。

無い左腕を見ると服が少し破れていた。破れているところは少し凍結している。
間違いない。僕は氷の左腕を使った。

僕は左腕を失ってから、戦闘の際緊急時限定で氷で左腕を作ってきた。
直接身体と魔力を物質として繋ぐために、左腕を作ると何時もダメージが表れる。吐血はこのせいだろう。

「ん。起きたのか。……って、吐血してんじゃねーか!?大丈夫か?」
聞き慣れない声がした。身体を起こしてみると、小坂君が居た。
どうやらここは彼の家のようだ。なるほど、見慣れないわけだ。
「「一体何が……あ」」
何が起きたか聞こうとしたらハモった。
「……俺は、またお前等の家からとんでもねー音がしたから見に行っただけだ。家は半壊しているし、お前等は怪我して寝てるし……」
自分の見た光景をそのまま教えてくれた。記憶を読んでみたけれど嘘は無く、本当にそのままといった感じだ。
言いながら小坂君はそっぽを向いてしまったのだけれどどうしてだろう。
ツンデレ?照れ隠し?いや、何に対してなんだか分からないけれど。

「残念ながら僕も何が起きたのかよく分からないんだ」
嘘はついていない。ちょっと隠しただけで。
小坂君の記憶を読んで少し思い出したのだ。
あの後……二度寝をした後いきなり超特大級の岩が降ってきてそれを壊そうと左腕で……。
多分壊れなかったか壊れても砕けた岩が当たったかして僕は意識を失っていたのだろう。
それにしても、岩……。もしかしたら……。
「……なあ、お前は左腕が無くて……どうとも思ってないのか?」
記憶を巡らせていると小坂君がそんな事を聞いてきた。
「……猫神……」
「は?」
「僕は、猫神綾だよ。」
まずは自己紹介。理由は僕のことを呼ぶときに少し困っていた感じだったから。
「うーん……左腕かい?バランスがとりにくいとは思うなー……」
実は気を抜くと右に倒れそうになる。内緒の話。
「腕、戻したいとは思わないのか?」
どうやら『どう思っているのか』という意味の質問は、僕が考えていた意図とは違ったようだ。戻したいとは思わないのか……か……。
「考えたことも無かったね。戻ると思ってないからなー……。戻せるのかい?」
「……今の、俺には無理だ。でも技術と知識が有れば出来る筈だ」
小坂君はどうやら医師を目指しているようだ。技術と知識……か。
辺りを見回してみれば医学の本が有った。勉強熱心だな、と感心した。

「戻したいと思うなら、俺がいつか治す。だから……「じゃあさ、君が僕の腕を戻すのが先か、僕が死ぬのが先か、競争しようよ」

小坂君の提案は読んでいた。だから僕は競争するというそんな提案をしてみた。
僕は生まれながらの魔術師だ。魔力が尽きれば死ぬ。普通の人と同じようにも死ぬ。つまり死ぬ条件が多いのだ。氷の左腕の代償もあるのだし……。

きっと、僕が死ぬのが先なんだと思う。
だけれど、僕のそんな考えに反して小坂君は笑った。

「いいぜ、乗った。あんたは、殺しても死ななさそうだ」

僕の認識が気になるところだったけれど、凄く愉快な気分になった。
こんなに愉快なのは久し振りだ。



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