その日の夜。
と、言うか色々やっていたら夜になってしまったのだが。
本日二度目(一度目はなってはいないのだが)となるインターホンが鳴った。

「む?誰か来たみたいだよ?」
食べれる料理に喜びながら玄関の方を見つめる葉折君(言い忘れていたが今は夕飯を食べているのだ。勿論、僕の料理で。気流子さんに食いつぶされた食糧は貯金をはたいて買ってきた。気流子さんをなんとか説得出来て良かったものの、更に食いつぶされる勢いだった)。
「夕飯食べていますしね。無視してしまいましょう」
僕の夕飯が全部食べられかねないし。
僕らがこんな会話をしていても、インターホンは鳴り止まない。だけど今の僕は違うんだ!
インターホンに出てしまったが為に今こんな状況に置かれてしまっているのだし。まあ、楽しいから良いのだけれど。
「……音無君……なんか、インターホンがリズムを刻んでいないかい?」
「ふむ……曲が作れる勢いですだな……」
猫さんと仙人さんが口々に言う。
確かに、これで音程がついたら曲になるだろう。
そんな勢いでインターホンは押されまくっていた。そろそろインターホンが壊れるのではないだろうか。せっかく回線を繋ぎ直したのになあ……。

「音無君、諦めたらどうかな?」
全てを諭したかのように、猫さんが言う。むー……猫さんに言われたら仕方ないか……。
僕は渋々出ることにした。勿論、気流子さんに僕の分を食べてしまわないように釘を刺してから。

「はーい……どなたですか?」
玄関を開けると、男女の二人組がいた。
一人はニヒルな笑みを浮かべた、女顔の男。髪の毛が短めだから男だとすぐに分かるけれど、きっと髪の毛が少しでも長かったら女の子と間違えられるだろう。
もう一人はキャップの上にパーカーをかぶり、無表情で髪の毛はパーカーから少し出ている程度の女。どちらかといえばこの子の方が男の子と言われても違和感は無いと思う。
印象はそんな感じだ。

「初めまして。僕は琴博桜月。こっちは紫時雨。以後よろしく頼むよ、嘘誠院音無」
ニヒルな笑みを顔に貼り付けたまま、桜月君は自己紹介をした。
……何故、僕の名前を知っている。
それに、さっきから寒気がする。寒気?いや、何か嫌な感じと言うか、何と言うか……。
身体は自然と警戒態勢を作っていた。
嫌な予感がするのだ。今までのギャグとは打って変わったシリアスな嫌な予感が。

「……私達の殺意に気付いた……?」

ずっと口を開かなかった時雨さんが喋る。その声はとても平坦で、機械的だった。

……殺意?
殺す、意志?
僕に?
嘘誠院音無に?

何故。何のために。何を理由に。

「意味が分からないって顔をしているけどさ、その右手が全てを物語っているよ?」

桜月君はやはりニヒルな笑みを崩さない。
僕の右手には、魔法陣が描かれている。桜月君はそれを言ったのだろうか?……いや、これしかないか。
この魔法陣は召喚に必要なものだ。これが僕に描かれたのは召喚獣を作った時。
狂偽兄さんを、召喚獣にしたときの―――
「―――え?」
右手に視線を落とした途端に、僕の左頬を何かが掠めた。
鋭い痛み。触ってみると、血が出ていた。
「ッ!!」
「―――遅い」
僕が攻撃態勢に入るよりも速く、ナイフを持った桜月君が僕の懐に飛び込んできていて。


僕は、殺される?


身体は、動かなかった。
殺される事にも抵抗が無かった。
「音無ッ!!」
金属がぶつかり合うような音がした。それから、葉折君の声が聞こえて、僕は助かった。
桜月君のナイフを止めたのは……
「……レタス?」
今日のサラダの中身だ。それらは切られることなく空中で桜月君のナイフを受け止めている。
「―――ッチ……。まあ、いいや。また、いつか来るよ。今日は顔合わせが目当てだからね」
桜月君はそう言うと時雨さんを連れて夜の闇へ消えていった。



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