次の日の朝。

冷蔵庫どころか地下の食料保管庫までもが空になっていた。


空。

空。

空。

空。

空。

空。

空。


あるのは役目を果たさない保管棚と虚しさばかり。

「ちょっ……なんですかこれええええええ」

僕が力無く膝を折ると、猫さんが現れた。

「……とうとう、だね」

いつになくシリアスな雰囲気を纏う表情に
つられて僕も緊張してしまった
「……と、とうとうって……まさか……!」

まさかも何も言ってみただけで、特に犯人の目処も立っていない。寧ろ犯人がいるのか?
食料一斉風化なんて恐ろしい超常現象も起き「てないから」
おっと、猫さんは心が読めるんだった。

「はぁ……全く、わかっていないのにわかったふり何かしなくていいんだよ。音無くん、僕にはわかるんだから……」
「すみません……」

こめかみに指を当ててやれやれのポーズ。
動作1つ1つが魅力を放つ。今日も素敵です。

「……犯人は、気流ちゃんだね」
「え」

な、何のためにこんな事……!
そう言えば一番五月蝿い人が朝からいないじゃないか!まさか逃「気流ちゃんならキッチンだよ」

「え?な、何で……」
「何でも何も、ここ最近気流ちゃん食欲無かったじゃないか」

いや、じゃないかなんて言われても、気流子さんの通常の食欲なんて知らないですよ。

「それに、気流子さんと食料失踪事件とどう関係が……」
「最初に忠告しただろ。『侮らない方がいい』って」
「…………」


ま さ か



脳裏に浮かんだ事が現実でない事を祈りながら、僕は気流子さんのいるらしいキッチンへと向かった。

と、リビングに入るや否や鼻にとてつもない幸福が訪れた。涎が止まらない。
そう言えば最近まともな食事をしていなかった。
途端に胃が空腹の鐘を鳴らす。
我慢ならん!

僕は勢い良くキッチンへの扉を開いた。

凄い早さで料理を口にほうばる気流子さんがいた。うわああんなに大きなハンバーグ見たこと無い……。一口かよ。凄い。

「ふお!ほほはひふー!いあっはー☆」
「日本語でおk」

手にした箸やらスプーンやらフォークやらをブンブンと振り回す気流子さん。
え?何て?
『おお!音無くん!』辺りは発音でわかった。
え?『Yeahheeer!』?『おお!音無くん!イヤッハー☆』
いやスペルなんて知らないけど。

どんだけテンションあげてんだ。

恐らく『おお!音無くん!いらっしゃーい☆』だろう。


「あの……気流子さん、これは一体……」

訪ねると、口に含んでいた物を丸呑みしてみせた。うわあ…っ噛まないと体に悪いのに。

「うん!お腹減っちゃって減っちゃって力が出なかったから、いっぱい作ったんだっ♪やっぱりお姉ちゃんの料理には勝てないや……えへへ!☆」

おお、それで最近元気が無かったのか。
なんか文章に勢いがなかったというか……。
突っ込み役の勘である。


いやそれにしても酷い有り様だ。
キッチンだけじゃない、リビングまでもがゴミや皿、空き箱等で埋め尽くされている。
どんだけ食ったんだこの人。

でもこれで暫く収まってくれたなら安心「さーワトソン君!もっと食料持ってきてよ!こんな量じゃ気流りん足りなーいっ!」
「すみません、良く聞こえませんでした」
「食料持ってきてよ!」
「え?何ですか?」

「食料!」
「え?」

「…………」
「〜♪」
MK5(マジでキレる5秒前)な気流子さん。ヤバい。ヤバい気がするけど、お金が無い以上こうしてはぐらかすしかない。
殴られようがお金なんて出てこない。

「気流ちゃん、実は最近買いだめしておいた食材があるんだけど」
リビングからひょっこりと顔を覗かせる猫さん。
手には巨大な袋。

キッチンに来ないのは汚れた食器やゴミが敷き詰められていて歩ける道がないからだろう。

「やったー!流石綾にゃん!ありがとーっ!♪」
「綾にゃん!?」
けしからん!けしからんぞ!

嬉しそうに座っていた椅子から跳躍する気流子さん。
一気にに猫さんの下へ。
「な……っ」

気流子さんの脚力に耐えきれなかった木製の椅子は粉砕した。
嗚呼、あの日玄関の扉を粉砕したのはこういう事か。

流石蛙と言った所か。


「きゃっほう!何作る!?何作ろう!」
「うーん……じゃあ、皆の朝ご飯をお願いしようかな」
「イエッサー!!☆じゃあサラダとコンソメスープとご飯辺りで良いかな!私今コンソメスープ飲みたいんだ〜!」

魅力的なメニューが聞こえた所為か、涎が自重してくれない。ダークな料理を食べ続けた今、普通な食べ物が何よりも至高だ。

涎を拭いながら、辺りを片付ける。

あああこのコップ気に入ってたのに!割れてる!取っ手がとれてる!
耐熱性ガラスって言ったって熱くなる訳だから、取っ手が無いのは相当キツい。
レンジから取り出せないじゃないか。

「あ、そうそう。ワトソン君、そこの食器棚倒しちゃったんだよー気流りん身長足りなくて直せないから、ワトソン君直してくれない?」

包丁を振り回す気流子さん。猫さんの美髪が持って行かれた。猫さんはとても吃驚した様子で、瞳孔が開いている。

ちょ……っ

あ、いや
食器棚はなかなか大きい。

僕1人だとちょっとキツいかな……。
葉折くんに手伝って貰おう。

「葉折さんはまだ寝てるんですか?」



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