「どうしたんだい?音無。顔が死んでいるよ?」
何も知らない葉折君がそんな風に、気楽に話しかけてくる。……ああ、哀れな子羊を……神よ、哀れな子羊を救いたまえ……。
「……心頭滅却すれば火もまた涼し……」
「いきなり修行僧みたいな事を何故ッ!?」
「仏説摩珂般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多自……「般若心経を唱え出さないでくれるかな!?」
無心になるんだ……無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無心無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無……!
煩悩撲滅煩悩撲滅煩悩撲滅煩悩撲殺!
「あ……あれ?音無に後光が差しているような……」
「さあ、葉折君も一緒に悟りを開きましょう……仏説摩珂般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般……「ごめん、それはなんかイヤだ」

そうか……葉折君は悟りを開かないのか…………。

ならば、死ぬのみ。

「みんなーご飯出来たよー?」嗚呼、死を司る女神の声が聞こえる……。


ぞわり。と、一気に鳥肌が立ち、寒気が走った。それは、まるで日本刀を首に突きつけられたような……または、背中に銃口を突きつけられているような、そんな感じがする。……これが、戦争……(たぶん違う)。
「……猫さん、今日のご飯は何ですか?」
意を決して聞いてみる。
「ん?今日はオムライスだよー」
陽気な声で魅力的な笑顔の猫さん。ああ……惚れ直しそうだ。まあ、今はその笑顔も声も死神のそれにしか聞こえないが。

「勿論、葉折君の分もあるから遠慮は要らないよー」

優しい気遣いをありがとう。
優しさは時に人を苦しめると改めて知った瞬間だった。
……くっ……せめて一人分足りなければ葉折君に押しつけられた物を…!


さて、今日の暗黒物質はこちら☆
まず、本人曰く『オムライス』。
当たり前のように真っ黒である(これはきっと火力に猫さんオリジナルの電力を加えてあるからだろう)。そして、皿が少しずつ溶けているような気が「早くしないと溶けちゃうよー?」そこは『冷めちゃう』の間違いだと言ってください猫さん。
ケチャップのような物はちゃんと色が付いている。きっとコレは普通のケチャップだろう。良かった。
そして、『サラダ』。
何故だろう。普通は生で手を加えない筈だからこれなら食べられる筈なのだが……。なんか、青い。なんか蛍光色。

僕らに、死刑宣告をされた瞬間だった……。



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