「へーえ……猫神もあんなになって怒るんだねぇ」
 雪乃さんの助けに入った方がいいのかとか、どうやったら猫さんを止められるかとか、師匠にどんな報復をするかとか考えていたら、突然後ろからそんな声が聞こえた。同時に背筋に寒気が走る。
「…………ッ!!」
 その声はずっと心配していた人のものだったから、少しだけ声を聞いて安心した。でも、すぐにその声は僕の知っている声とは微妙に違うことに、本能で勘づいてしまった。少ししてから、殺意が込められているからだと気付く。一応殺意を持って行動することは、彼の本職ではあるから、それが本来の声になるのだろう。でも正直似合わないと感じた。殺意なんて持っていないでほしい。
「やあ、音無。久しぶりだね。元気にしてた?」
 うっすら口元に笑みを貼りつけて葉折君は言う。女装も化粧もしていない葉折君はなんだか新鮮で、それ以上にかっこよかったのだけれど、全身から放たれる殺気がそれらをすべて打ち消していた。怖い。
「はは……まあ、僕としては元気でいてもらっちゃ困るんだよね」
「……貴方は、誰、ですか」
 葉折君と分かっていてもついつい聞いてしまった。そのくらいなんか違う。こんな葉折君は嫌だ。
「……月明か。残念だけど君たちに仕事は無いよ。ノロマに残り物なんてないのさ」
 対峙する僕と葉折君の間に入って桜月君が言った。皮肉が大好き(師匠情報)な桜月にしては珍しくストレートな物言いだ。「帰れ」が必ず語尾についているような気がする。
「あはは、嬉しいことに終わってないんだなぁ、それが、さッ!!」
 僕は一瞬何が起こったのか理解できなかった。それが終わった後でようやく何が起こったのか認識できる。
「手癖の悪いやつ。話の途中でナイフ振り回すなんて育ちの悪さが伺えるよね」
「君の狭い常識の中で語らないでほしいね。僕の家ではこれが普通だよ」
 お互いのナイフ(葉折君は葉っぱだが)が交差した状態で、お互いを嘲笑しながら二人は言う。葉折君は僕を狙っての攻撃で、桜月君は僕を守ってくれたようだ。
「……死にたくなければ構えておくんだね嘘誠院音無。今のこいつに躊躇いは無いよ」
「……そうみたいですね」
 僕はナイフではなく鎖を構えた。ナイフでは敵わないと思ったし、何より葉折君を傷つけたくなかった。甘いと言われるだろうけれど、そう簡単に情を切り離せるわけがない。僕は人間だ。
「だらっしゃぁぁぁぁっ!」
「おっと、兄さんの邪魔はしないでくださいっす。あなたの相手はこっちっすよ」
 葉折君を後ろから襲撃しようとした仙人を九十姉妹が阻止した。完璧に近い不意討ちだったから通用すると思ったのだけれど……当然ながら一筋縄ではいかないらしい。
「月明のメインである僕と、弟妹の両双子が来てる。それから数人サブも来てたかな。とにかく、君たちに助けが入るとは思わないでくれ。……皆殺しだ、月明の名にかけて」
 低い声でそう言うと、葉折君はいつの間にか用意していた大量の葉っぱ(別名刃っぱ)を一気に放った。



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