ボロボロになった暁の手当てを風見とやっていると、他の連中が続々と帰ってきた。中には知らないやつとか、戦ったことがあって気まずい奴とかいて、案の定微妙な空気が流れている。
「っはー、重かった。全く引きこもりに男一人運ばせるなんてどういう神経をしてるんだろうな、オトは……」
 これは意識の無い音無を荷物のように乱暴に扱った知らないやつの言葉。
「……甘味が……足りない」
「ロールケーキはお預けだよ、時雨」
 これは子守りを任されていたらしい何となく記憶の端にいる奴の言葉。
「空美……怪我はないか? お前に何かあったら私はそいつに報復しにいかなければならない」
「大丈夫、私はボーッとしてただけだから」
 これは暁とやりあったり一度俺と気流子を監禁したりした奴とその妹の会話。
「プー君、プー君。なんか皆それぞれくつろぎ始めてるから微妙な空気は流れてないよ」
「俺の心の中を読むんじゃねぇ。読心術遣いは一人で十分だ」
 自由か! と、叫びたくなったのだがそんな気も失せた。とりあえずどうしてこうなったのか説明が欲しい。……いや、確か音無を殺す必要が無くなったからとか何とか言っていたな。だからってなんで俺の家で和気藹々してるんだ。
「一通り話を纏めるか。ほれ、オト起きろ」
 俺の心境を知ってか知らないでか、知らないやつが音無をビンタしながら場をまとめ始めた。これが組織の創始者の一人で、第二支部の長で、医療とかその辺で数々の功績を残している囚我廃斗だと俺が知るのはもう少し後だ。



 師匠にビンタで起こされると、組織だとかそういうのを関係なしにしたメンバーで情報交換が行われた。情報交換というよりも状況の整理って言った方がいいかもしれない。
 猫さんと雪乃さんと雷さんが居ないことや、気流子さんがどこか心ここにあらずって感じなのが気になったけれど、状況整理は順調に進んだ。
「……つまり私は我殿に踊らされていたわけか」
「そーなるんかな。いやぁ、海菜っちがオトを見つけ出さなくてよかったわー」
 海菜さんが吐き捨てるようにいうと、師匠はケラケラと笑った。睨み付けられてもヘラヘラする。臆しない精神だけは素晴らしいとは思う。ウザいけど。
 師匠に聞いたように、僕は殺される必要が無くなったようだ。これからは、解けてきている召喚獣の術式をどう保つか、どうやって狂偽兄さんを暴走させないか考えていくようだ。それにはまず我殿雹狼と、今は息を潜めている月明を何とかしなくてはいけないのだけれど。

 話が一段落ついたところで、僕は師匠に疑問を投げ掛けた。
「……あの、猫さんと雪乃さんと雷さんは?」
 一瞬空気が凍ったのが分かった。どうやら失言だったらしい。でも、発言は取り消せない。
「……私も、知りたい。あの状況、理解不能。不可解」
 僕の質問に続いて、ずっと黙って桜月君にちょっかいを出していた時雨さんが師匠に聞いた。気流子さんも無言で説明を要求している。やはり何かあったらしい。しかも、あまり良くないことが。
「二人がさっさと二階に引きこもった。それも何か理由があんのか?」
「え? 居るんですか?」
「ああ。雷は居ないけどな。あと二階に行こうもんなら雪乃に何されるか分かったもんじゃないぞ」
「あれは鬼気迫るものがあったですだ……」
 二人の姿を目撃している小坂くんと仙人が口々に言った。猫さんが絡むと雪乃さんが怖くなるのはいつものことだけれど、仙人が怯えるとなれば相当なものだ。
「あー、あれな。オトは人形化とかそーいう話知ってるだろ? 猫神のおじょーちゃんはそれに落とし前をつけたんだよ。巨乳のねーちゃんが動く前にな」
「?」
 いってる意味がよくわからない。巨乳のねーちゃんが確か猫さんの事だから……猫神のおじょーちゃんは誰のことだ?
「猫神のおじょーちゃんは大分前に俺のとこに来て話を持ちかけてきたんだよ。『取り引きをしましょう』ってな。内容が余りにもエグかったんで却下したったわ。別に俺は猫神のおじょーちゃんに頼みたいことも無かったしな。ははは、ちんぷんかんぷんって顔してんな、オト」
「だって師匠分からないように言ってるじゃないですか……」
「そうだな。プライバシーに関わるからな。簡単に言うと、猫神のおじょーちゃんは自分の能力を使って自殺を図ったんだよ。お人形の破壊も兼ねてな。……で、兎のねーちゃんは巨乳のねーちゃんのアフターケアをしてるわけだ。巨乳のねーちゃんは猫神のおじょーちゃんの自殺装置にされちまった訳だからな」
 僕は思わず絶句した。多分、師匠が言ってることはこうだ。猫神のおじょーちゃんが流亜さんのことで、お人形が雷さんのこと。いつか教えられた人形化の話と組み合わせると、雷さんは猫神の人間だったことが分かる。一度殺されたことも。そして、流亜さんはそれを知っていたから師匠に協力を求めた。断られたけれど。協力を諦めた流亜さんは、一人で人形の処分をする。自分も死ぬ気で。そして思惑通り事が進んで、雷さんを殺して自分を姉である猫さんに殺させた……。自分の妹を殺してしまった猫さんは……いや、考えるのはやめよう。嫌な予感しかしない。今、家の中の温度がどんどん下がってきているような気がするのもきっと気のせいだ。きっと……。
「……氷?」
「全員身を守れですだ! なんかヤバい気がするですだよッ!」
 眠っている仁王君がぽつりと寝言を言い、仙人が慌てて叫んだ。
 僕がアクションを起こすまもなく、氷が家を破壊した。



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