「……囚我、さん…………」

桜月君が露骨に嫌そうな顔をした。心の底から嫌そうな顔をした。
そんな桜月君に、我がお師匠様はケラケラと笑いながらいう。
「なんだよツッキー。普段のお前を見てる身としてはその顔もツンデレの一部にしかみえんよ。はは、ゾクゾクするね」
……変わってないなぁ……。

突然現れた、目の前の白衣を纏った二十代の男つまり囚我廃斗は、僕の尊敬すべき師匠でありながらド変態である。ドMでバイセクシャルだ。男だろうと女だろうと見境無い。気に入ればそれで良し。……そんな感じだ。
桜月君は、その顔立ちが女顔だったことが運の尽きだろう。師匠に何度も女装を強いられたに違いない。実際そんな事があった僕が言うのだから間違い無い筈だ。
「あー、そんでさツッキー。ちーっと悪いんだけど、これから師弟の感動の再会とか適当にしたいから外してくんねえかな?」
適当とか言いやがったこいつ。その時点で感動も何も無い。そんな視線を投げかけてみるが当然師匠が気にするはずもなく、そのまま続けて言った。
「ああ、お前等がナイフとかを交わして青春を謳歌している間に、蛍の坊ちゃんに色々話をしといたからツッキー子守もよろしくー」
師匠の後ろからひょっこりと仁王君が顔を覗かせた。無事で何よりと安心したいところだけれど、よくよく考えたらこれは敵の手に仲間が落ちている状態なのではないだろうか。
「こ、子守って……そんなこと僕がさせると思いますか?師匠」
「そうだよ。なんで僕がベビーシッターなのさ」
「僕はもう面倒を見られるほど子供じゃないですよう」
それぞれが、それぞれの思惑で師匠にブーイングした。師匠はそれを笑って一掃する。
「あー、はいはい。オトはこれから俺とラブラブするんだから我慢しろ。別に蛍の坊ちゃんに危害は加えないさ。ツッキーは……ほら、宇治金時の面倒も見てるしさ?蛍の坊ちゃんには飴ちゃんやるからそれで勘弁しといてくれ」
……宇治金時って誰だろう。そして凄く逃げたい。今、僕は満身創痍でさえなければ確実に逃げ出していたと思う。なんだよラブラブするって。男同士愛し合うなんてアブノーマルな趣味、僕には無いぞ。
しかし、桜月君と仁王君は師匠の言葉に納得したのか諦めたのか分からないけれど、頷いて歩き出してしまった。置いていかないでくれ。切実に。

「さて、オト。久しぶりだな……ハグでもするか?」

二人の姿が見えなくなると師匠はまずそう言って両腕を広げた。僕は当然それに「ノーセンキューで」と拒否の姿勢を示す。
「即答かよ……冷たくなったな、オト…………」
本気で悲しそうな顔をされた。流石にそんな顔をされてしまうと、心が痛むというか悪いことをしてしまった気分になるというか…………

「……そんな冷たくなったお前を今日から『涼しくなっ太郎』と命名してやろう」
「やめてください」

しまった、フェイクだった。なんだよ涼しくなっ太郎って。どんなネーミングだ。音無の欠片もない。しかも冷たいと涼しいではなんとなく意味が違う。
「でな、なっ太郎」
「定着させようとしないでください」
僕の口からボロボロと零れる文句を気にすることなく、「でな」と師匠は続けた。ふざけてはいるものの、かなり真面目な話をしたいらしい。なら真面目になればいいのに。
「信用出来ないだろうが聞いてくれ。俺はお前を保護しにきた。俺……じゃなくて、俺達か。ちーっと手違いがあったようだが、今日から俺達はお前と協力関係になる」
…………は?
保護?
協力関係になる?
散々、殺すとか何とか言っていたのは?
じゃあ、ついさっきまで、僕と桜月君が殺し合っていたのは何だったのだろうか。
「理解出来るわけがないか……まあ、手短に説明してやる。あのアホが何か企んでるかもしれないしな」
一瞬、師匠の目つきが鋭くなった。こんな顔を見たのは初めてだ。師匠はいつだってどんなときだって、アホ面かにやついた顔をしていた。
「……兄さん関連の話ですか?」
「ああ。下手すればお前の兄ちゃんは殺戮兵器になるかもしれない規模の話だ」
世界破滅からは少しスケールが小さくなった……気がする。しかし僕に実感をわかせるほどのスケールではないことは確かである。
「どうせお前が殺される理由云々の辺りは空っちが話しただろうから省くな。保護する理由まず一つ目。お前が死んでも多分お前の兄ちゃんは暴走する」
まあ分かり切ってた話でもあるんだけどな。と師匠は苦笑したが、何故分かり切ってた話なのか全く分からない。というわけで聞き返した。
「なんでってそりゃあお前……その、あれだ。……いや、なんでもない」
「?」
珍しく歯切れの悪い師匠である。結局誤魔化されたし。「そういえば仲が悪い振りをしていたんだったな」と呟いたが誰と誰の話かも分からない。……まあ、今は血が足りなくて頭が回らないし、今度改めて聞いてみるとしよう。
「それでだ。暴走したお前の兄ちゃんを利用しようとする輩がいるかもしれないんだ」
「それが、殺戮兵器ですか?……でも、何故」
「俺に聞かれてもなぁ?でもまあ、世界を掌握したいなんて野望を持つアホはどの時代にもいるだろ?」
結局世界規模に戻っていた。
しかも、誰がそんな野望を持っているかということは伏せておくつもりらしい。協力云々と言うのなら、全てを教えて欲しいものなのだけれど。



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