違う。
桜月君は、実は僕を殺そうとなんかしていない。
血が足りなくなった脳味噌は、唐突にそんな答えを導き出した。しかし、考えれば考えるほどその答えは真実性を増していく。的外れな考えでは無いのかもしれない。

別に、桜月君は本気で僕を殺そうと思っていれば、こんなに戦闘が長引くはずが無いのだ。僕が、切り裂かれた痛みに耐えながら戦っている必要も無かったのだ。
僕には桜月君を今やっているように拘束して、攻撃するという手段があるけれど、桜月君の攻撃を防御する手段は持ち合わせていない。だから此処まで血を流しているわけなのだけれど。
だったら。
だったら、こんな状況になる前に桜月君はさっさと僕にトドメを刺せた筈だ。防御が出来ないのだから。やりたい放題と言っても過言ではないのだから。
「…………」
僕は、召喚していたもの全てを場から消した。拘束されていた桜月君は自由になる。
「……いきなり戦意喪失とはどういうことかな?死にたいの?」
ならなんで今まで抵抗してたのさ、と責めるように桜月君は言った。
「……今、僕が生きていることが、そのまんま理由になると、思い、ますよ」
「はあ?意味分かんないね」
皮肉っぽい笑みを浮かべて桜月君は右手のナイフを僕の首もとに押し当てた。しかし、押し当てただけでそれ以上はない。やっぱり殺そうとはしていない。

「…………つまんないの」
「……うわわッ!?」

やがて、桜月君はナイフを投げ捨てた。それと同時に僕を軽く蹴り倒した。不意打ちと貧血のダブルパンチを喰らった僕は、なんの抵抗もなく後ろ向きに倒れる。……川の中へ。傷口が染みたり、水の冷たさに吃驚したり、鼻に水が入ったり、傷口がじくじくと痛んだりした。痛い痛い痛い痛い。
「いきなり何をするんですか……」
「起き上がる気は無いのかい?」
ほら。と、手を差し伸べられた。僕はその手を取ろうとして、其処で断念する。殺されないことに確信を得たためか気が抜けたのだろう。身体に全く力が入らない。なんだか段々眠くなってきた。
「おいおい、此処で寝られても困るんだけど」
「……誰のせいだと思ってるんですか」
見ていられなくなったのか桜月君が僕の身体を引き起こしてくれた。敵に介抱される図。うん、よく分からないことになっている。

「……それで、貴方の真意は?」
立っている気力は無かったため、木にもたれかかって座りながら僕は問う。殺そうとしてきたかと思えば、こうやって気遣い感じる行動をするその矛盾を。
「そんなの、僕が聞きたいくらいさ。……嘘誠院音無。君は気付かなかったのかい?」
「…………?」
バカにするような口調で言われたけれど思い当たる節が全く無い現実。さあ、僕はどうしたらいいのでしょうか。分かりません。
「向こうの方角。君のところのあのチートと、海菜さんが戦っていたわけだけど……それが、突然終わった。二人の魔力はまだまだ残っているのに」
そう言って桜月君が指した方角は確か、僕達の家がある。魔力云々と言われても、実は魔力探知が苦手で全く分からないのは内緒である。
「海菜さんが戦わない意思を示したら、僕はそれに従うしかない。……一応上司だしね」
至極つまらなさそうに桜月君は言った。そんなにあっさりと、他人の意思が分かるものなのだろうか?別に仙人と戦うことをやめても僕を殺さない理由にはならないと思うのだけれど。
「…………」
「……そうだよ。これは後付けさ。僕は端っから君を殺す気がない」
黙ってじっと見つめていたら、観念したのか桜月君は素直に話し始めた。最初からそうしていればいいのに。
「理由とか聞かれてもよく分からないけど……まあ、我殿のアホと協力しなきゃいけないのが嫌なんだよね。君と馴れ合うのもごめんだけど」
「……我殿?」
知らない名前を思わず聞き返す。が、答えてはくれなさそうだ。そんなに嫌いなのだろうか。どちらが、ということに関しては触れないことにする。

「お前の判断は正しいよ、ツッキー。後で誉めてあげるぜ。……なんなら俺のオタカラをプレゼントしても構わないぜ?」

何処からか、懐かしい声がした。
それと同時に桜月君の表情が激変したのを僕は見逃さなかった。



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