「……まあ、余計な詮索は後回しにした方がいいかもしれない」

第三支部の目的について詳しく言わないまま、海菜はそう言って日本刀を仕舞い踵を返した。
「確かに、囚我先生と二人きりにする前に嘘誠院音無に何かあったら困るね」
「そういう事だ。私は先に行っている」
まずはぐちゃぐちゃになっているこの状況を整理しなければどうしようも無いようだ。敵対ではなく共闘に……簡単に出来ることではないが、戦闘がおさまればそれに越したことは無い。怪我人は少ない方が良い。
「とりあえず俺はまた暁の中で見物でもしてるかな」
ずっと黙っていた仙人(狐)はそう言って欠伸をした。他人事だからか呑気な奴だ。
「ああ、そうだヘタレ。俺と暁の人格交代が終わったら、こいつのこと“仙人”って呼ぶの禁止な」
「は?」
「カカッ、俺に助けを求めておいてなーにが仙人だ。呼び捨てだ呼び捨て。あのカエルと同じ様に“暁”で丁度いいんだよこいつにゃ。それに、少し面白そうだからな」
カエル……多分、気流子のことだろう。別に間違っては居ないが残念な呼び方である。
そして、この狐は仙人……暁に対して嫌がらせをしたいだけなのだろうが、何が面白そうなのかはよく分からない。俺は嫌がらせをして喜ぶような性癖を持ち合わせては居ない。されるのも勿論嫌だが。

「ああーっと、そうだそこの女顔」
「ん?俺のこと?」
炎のような耳や尾を消そうとしてやめて、今度は風見に話しかけた。
「暁とヘタレはしばらく休憩すんぞ。俺の勘じゃ、そろそろガチホモ乙女達が何か仕掛けて来るだろうからな」
的確な表現だがもっと言い方ってものがあると思う。口には出さないが、俺は突っ込んだ。ガチホモ乙女は酷い。元の名前より長くするぐらいなら、本名で呼べばいいものを。
そんな事は置いといて、この狐、なかなか嫌なことをいいやがった。月明が何かを仕掛けてくるかもしれない。つまり、音無を殺しにかかる可能性が高い。確かに、俺達と組織で潰し合いをさせてから、殺しにかかった方が成功率も効率も増す。俺が月明の立場だったらそうしているだろう。……こんな考え方したくはないが。
「……そうだね。二人とも魔力をかなり消費してるし、俺達はプー君の家に戻って休憩してようか。海菜さんに任せておけばこっちはなんとかなるかな。双子達が居ないし…………」
狐の言葉に風見は素直に頷いて、家がある方、つまり来た道を引き返し始めた。他の奴らが気になるけれど、多分俺が行ったところでどうにもならない。悔しいけど、あいつらの戦闘に割って入るほどの力は俺にはない。

人格交代をし、受けたダメージの影響か眠ってしまった暁を担いで、俺と風見は戦場を引き返して行った。





「う…………、はあっ、……はあっ…………」

体中のあちこちが痛い。初めて会った日に見たものと似たような魔術で、僕はマントごと風にあちこちを斬られていた。肌が露出してアバンギャルドに……なんて展開は今のところ、無い。
「……はっ、君みたいな雑魚ならすぐに終わると思ったのにな」
僕も堕ちたな。と、桜月君は皮肉を言って笑った。うん、なかなか突き刺さる言葉だ。……なんて軽口を叩いている時点で突き刺さっていないことが露見しているのだけれど。

「雑魚だと思って甘くみないで下さい……調理次第でどうとでもなるんです、から!『鎖ノ罠』《チェーン・トラップ》」

意味の分からない発言をしながら僕は七本の鎖を出現させ、桜月君へ放った。実はこの戦い、相性で言えば僕の方が少し有利なのだ。
トランプやナイフなら風で飛ばされてしまうが、鎖ならそんな事は起きない。多少軌道をずらされても関係ない。つまり、こちらが攻撃を仕掛けたら桜月君はとりあえず逃げるしか道はないのだ。その隙を狙えば、僕にも勝機は見えてくる……はず!

「言うは易し、本っ当に……!」
なんて、そんなは事とっくに頭の中で出ていた結論である。簡単に出来ていたら世の中苦労なんてしない。
鎖はなんとか桜月君をとらえた。
「ぐっ……うう…………」
しかし、ノーダメージでとはいかなかった。桜月君の操る風が、容赦なく僕の背中や足を斬り、適当なところを殴打していく。さて、僕はあとどれぐらい耐えられるだろうか。
「……実はさあ、君自体バケモノなんじゃないの?それだけ斬られておいて倒れないとか…………ッ」
「…………、軽口を叩いていいんですか?……あなたは今、僕の手の中です、よ」
タフさを評価して貰ったばかりだけれど、意識がそろそろ危うい。決して外には出すまいと強がってみるけれど、果たしてこれに何の意味が有るのだろうか。
よくよく考えたら、僕が今桜月君と戦っている理由も分からない。僕は何故、痛い苦しい思いをしてまでこの人と戦っているのだろうか。……ああ、そういえばこの人は僕を殺そうとする側の人間なんだった。そうだそうだ、思い出した。血が足りない脳味噌だと、思考がやけに鈍ったように感じる。

「…………ん?いや、違う……」



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