「月明だと……?」

真っ先に、音無にぞっこんなあの変態女装野郎の顔が思い浮かんだ。……あいつは今、どうしているだろうか。
「うん。そうなったら別の問題が絡んでくるかもしれないんだけど…………」
其処まで言って風見の言葉は途絶えた。否、中断させられたと言った方が正しいだろう。
俺達の耳に、断末魔のような叫び声が飛び込んできたのだから。
「あの声は……!?」
「誰の声か分からないけど、急ごう!」
言われるまでもなく、既に俺の身体は声がしたほうへ走り出していた。


「う、あ、ああああ…………ッ」
「……思っていたよりも呆気なかったな」

進むにつれて木々の焼け具合は次第に酷くなっていき、最早焼け野原と化した場所へ出ると信じられないような光景が目に飛び込んできた。
昼夜海菜と仙人が対峙している。それだけの図であったが、仙人の体は傷だらけで右足には一番深い傷が刻まれていた。そこからは絶えず赤い血が流れ出していて、今すぐにでも治療しないと仙人が危ない!
一方で、対する海菜は無傷だった。
あの、仙人に対して、無傷。それでいてあんな深手を負わせている。
組織とは、こんなにも強いものだったのか。そんなことを思い知らされた。

「……まだ、儂は動けるですだよ」
「強がるな。その傷じゃあ無理だ」
「まだ、終わってないですだ……!」

よく分からないが、仙人から気迫を感じた。そして、近付くな。と言われたような気がした。言われなくても状況に気圧されて情けないことに俺は動けなくなってしまっていたのだが。
「まだ、お前を倒す手はある、ですだ…………。…………助けろですだ。……狐!」
仙人は叫んだ。助けろと。しかしそれは俺に対する言葉ではなかった。そして、仙人はそのまま炎に包まれた。発火した、と言っても過言ではない。
「自分の身を自分で……?」
訝しげな声で海菜が呟いた。問答無用で斬ろうとはしないらしい。安心した。
俺は、動けないで居た。
目の前で炎に包まれどうなっているのかも分からない仲間に手をさしのべることが出来ない。重傷を負っているのに。

やがて、仙人を包んでいた炎は消えた。いや、消えてはいない。小さくなった状態で、仙人が炎を纏った形になった。
その姿は、九つの尾を持つ狐のようにも見える。
「……仙人…………?」
確か仙人が助けろと言った相手は狐ではなかっただろうか。

「ははっ……本当にやりやがったなこの小娘。おっほ、自由だ自由!十年ぶりに俺自由に動けてるぞ!ひょっほう!!」

…………。
狐が擬人化したような姿になった仙人が言った言葉は、余りにも場違いだった。……いや、こいつは仙人なのか?仙人にしては、えらく口調が違う。
「そんじゃあご要望に答えて……俺の力の使い方見せてやるからちゃんと覚えろよ、暁」
仙人は続けてそう言った。その顔はとても楽しそうに笑っている。笑っているがかなり意地の悪い笑顔だ。それにこいつ今、なんて言った?暁?暁は自分の名前では無かったのだろうか。
「えーっと?悪いな、昼夜のお嬢ちゃん。一撃で終わらすからちーっと付き合ってくれ」
「…………お前は……誰だ?」
仙人(?)は海菜の質問に答えなかった。代わりに、炎を纏った拳で海菜を日本刀ごと殴り飛ばした。……殴り飛ばした!?
「…………!?」
殴り飛ばされた本人が一番驚愕しているのだろうが、俺も風見も、負けず劣らず驚いた。
海菜の能力は、何でも斬るものではなかっただろうか?
なのに、何故日本刀ごと殴って仙人の拳は無事なんだ。何故、一滴の血も流さず海菜が飛ばされているんだ。

「動くなよ、昼夜のお嬢ちゃん。その刀は今俺が呪ってやったからな。下手に使えばすぐ灰になるぜ」

意地の悪い笑顔で、唯一状況を理解しているであろう仙人(?)が言った。
本当に、こいつは一体…………
「そんじゃあ……」と、仙人(?)はどっかりと腰を下ろし言った。「質問に答えてやるから、早いとこ足を治してくんねえか?えーっと……ヘタレ」
勿論俺は、少し魔力を込めてメスを投擲した。





「つまり、お前は十年前に暁と一体化した狐で?猫神を殺そうとしたのがお前って事でいいのか?」
なんとか治療が終わり、一通りの説明も終わったところで俺は尋ねた。もう魔力はすっからかんだ。動ける気がしない。……魔力の少なさも考え物だ。今はそんな事どうでもいいのだが。
「正確に言うと、暁が呪いの力で俺を取り込んで、あの巨乳のねーちゃんを殺しかけた人格を作り上げたんだな」
巨乳のねーちゃん。つまり猫神のことなわけだが、それが仙人の口から飛び出すあたりに違和感を覚える。人の覚え方が酷すぎるだろ。
「かかかっ、暁のアホはその人格をぶっ壊して俺に戻したって訳さ。相変わらずとんでもねー事をしやがる……って、俺の話は良いんだよ。今必要なのはそっちだろ?」
どうやら仙人はお得意の根性と力技で自分の一部になったものを無理矢理違うものに戻したらしい。相変わらずという事は、以前にも何かをやらかしているという事なのだろうけれど、今は追求しないことにしよう。……ところで仙人は一体今いくつなのだろうか。

「うん。そっちが話している間に海菜さんには説明を済ませておいたよ。だから、とりあえず四人で話を纏めようか?」
仙人の言葉に、風見が柔和な笑みを浮かべて言った。その後ろにいる海菜はどこか不服そうな顔をしている。
「音無は殺さない。殺したら危ない。それは分かった。……で、問題はお前ら組織の内部事情なんだよな?」
「うん。俺達第一支部と第二支部に干渉出来るのは第三支部しか居ないから、敵はハッキリしているんだけど……問題は目的がなんなのか、かな」
第三支部はどうやら音無を殺したがっているらしい。それはつまり、音無の兄ちゃん(魔王狂偽)を暴走させたがっていることと見なして良いわけだ。世界を滅ぼせる力を持つ奴を暴走させる。世界を滅ぼすことに何の意味があるのだろうか?
「……目的ならなんとなくハッキリしそうなものだ。第三支部に月明が繋がっていればの話になるけど……」
不服そうな顔のまま海菜が呟いた。これは、殺し屋の世界の話になるのだろうか?やはりスケールが壮大でよく分からなくなってくる。



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