胸騒ぎがした。

今日は実践練習の日だ。彼奴等が森で暴れまわって居ることは一向に構わない。
だが。
だが、流石に今日は暴れすぎでは無いだろうか?……特に、仙人。
彼奴には間違っても山火事は起こすなと言ってある。だから、爆発系の技を使ってもこんなに地響きが酷いことは無かった。

ズドンッと、また地が揺れた。
窓の外で馬鹿でかい爆発が見えた。

かなり、此処から近い位置に。
「…………ッ、あの馬鹿、何をしてやがる?」
胸騒ぎはおさまらない。なら、自力で胸騒ぎをおさめようと外へ飛び出した。万が一の事を考えて、救急セットもしっかり持った。メスも魔法陣もある。
これなら何があってもとりあえず対応出来るはずだ。

「何処に行くつもりかな?」

出来なかった。
玄関を飛び出したと同時に、巨木に行く手を阻まれた。いつからこんな巨木があったんだ。……大方想像はついているが。
「……誰だ、お前」
壁に寄りかかり俺に話し掛け、恐らくこの巨木を出現させたであろう犯人に問いかけた。
「初めまして。俺は風見風……組織の一員だよ」
犯人つまり風見は柔和な笑みを浮かべて右手を差し出してきた。握手を求めているのかよく分からない。俺にどうしろと言うんだ。
どうでもいいことを言っておくと、一人称と声から男と判断して良いのだろうが、此奴、とんでもなく女顔である。もう女にしか見えない。女で良いだろ。髪の毛は長さが肩をこえていて、軽く一つに結んで前に垂らしている。服装は和服。当然ながら絶壁だ(そんな所を見ている自分に絶望した)。

握手に応じない俺に対し、風見は「つれないなぁ」と軽く苦笑した。そして、壁から離れて俺に一歩近付き両腕を開いて言った。
「別に俺は戦う気なんて無いんだ。だから、仲良くしよう?戸垂田小坂君」
輝かしい程の笑顔だ。
「……敵の言うことを簡単に信じるのはただの馬鹿だろ」
あるいは裏切り者か。無論、どちらにもなるつもりは無い。

「困ったな……ウェルカムな雰囲気でいけばいいと思ったのに」
一歩下がった俺を見て、風見は口元に手を当ててうむむと唸りだした。真剣なのかどうなのかよく分からない。そもそも此奴は何をしたいんだ。

「……戸垂田小坂君!略してプー君!!」
「おい待て何処を略したコラ」
ビシッと指をさされた。しかも決め顔で。いや、そんれよりもプー君って何だ。某赤い服を着た黄色い熊しか連想出来ないぞ。
「君のことを俺はこれから親しみを込めてプー君と呼びます!」
「やめろ馬鹿」
親しみじゃなくて悪意の間違いだろうに。

「プー君」

それでもやめずに、今度は真剣に風見は言った。お願いがあると。
「俺を手伝って欲しいんだ」





「……ちょっと待て、お前らの目的は音無と囚我廃斗を二人きりにするために、俺達の足止めをすること何だよな?」
一通り話を聞いた後で俺はまず質問をした。ちなみに今、風見と二人で森を歩いている。もう状況がよく分からない。
「そうなんだよ。囚我先生ってばワガママでさー」
全く困っちゃうよ。と、人懐っこい笑顔で風見は言う。どうやら困ったのは此奴では無さそうだ。

「……で、何でお前はその足止めを止めさせたいんだ?」

風見が俺に頼んだ手伝って欲しいこと。それは、今戦って居るであろう組織と俺達の仲裁だった。戦闘を全てストップさせたいらしい。意味が分からない。
「話し合いで解決させようって魂胆か?でもお前らの目的って音無の暗殺だろ。今更そんな事も出来ないだろ」
「そこなんだよ」
「そこ?」
「そう。そこ。嘘誠院音無の暗殺って話が、まずナシになっているんだ」
「…………は?」
一瞬思考が止まった。
音無の暗殺はナシ?急に?

「……囚我先生が言ってたらしいんだけどね。この前嘘誠院音無が死にかけた事によって、嘘誠院狂偽の暴走の可能性が上昇した……とかなんとか。ざっくり言うと、嘘誠院音無を殺したら取り返しがつかないらしいんだ」
そりゃあ人が死んだら取り返しのつくことにはならないだろ。とは敢えて言わなかった。音無の兄ちゃんが暴走したら世界が滅ぶとか意味の分からないスケールに達しているからかもしれない。
「ただね」と、風見は続けた。

「俺達にはこの話、全くされて居ないんだ」

……うん?
「俺は姉さん経由で聞いたから偶然知ってるんだけど……海菜さんとか桜月とかは多分知らないんだ。これっておかしいと思わない?」
「お前らの内部事情の愚痴を言われてもな……」
そんな小さい話じゃないよ。と、すぐに風見は返した。同時に近くの木が何かの衝撃波によってミシミシという音を立てた。戦闘地点が近い。
「どっかの馬鹿が情報を操作したんだよ。……まあ、宛てはついてるんだけど」
ため息をつきながら風見は言い、突然笛を吹き始めた。「伏せて」「っ!?」木の根が俺を地面に抑えつけた。
「……なにしやがる」
「手荒で悪いとは思ったけど、あのままじゃ黒こげになるところだったんだよ?」
「…………」
感謝してよね。と言わんばかりの態度で風見が指差した先には、こんがりと炭になるまで焼かれた木があった。

「我殿雹狼……って言われても分からないか」

笛で植物を操るらしく、木を元に戻してから風見は言った。解放されたため俺は立ち上がる。
我殿雹狼という名前には聞き覚えが無かったが、次に風見が言った一言が俺の興味を引くのは十分だった。

「もしかしたら、月明が噛んでるかもしれないって姉さんは睨んでるらしいんだよね」



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