「それは危険ですだな――『メテオ』!」
当てることではなく、距離をとることを目的に燃える岩を落としまくった。太ももの傷は浅いが、これだけでも十分動きは鈍ってしまう。
だが、その思惑も上手く行かず、刀一本でバラバラに岩は砕けて消えた。空間を斬る能力。厄介すぎる力だ。
もっと言えば、多分此奴の能力は儂にとって相性が悪い。基本的に武器を使わない肉弾戦を主とする時点で、刃物は十分脅威的なのだけれど、魔術を使っても、立場が逆転することが出来ないのだ。
儂の魔術は、主に爆発するタイプ。当てることで効果を発揮するものだ。つまり、海菜の能力的に一番やりやすいタイプとなる……筈。よっぽどの事が無い限り、攻撃を無効化出来るのだから。
逆に、猫神や嘘吐きのようなタイプはやりにくい筈だ。
猫神は一見儂と同じ様に当てることで効果を発揮するタイプのようだが、実際はじわじわと浸蝕させていく呪いのようなタイプだった。段々凍らせて逃げ場を潰していく戦法。何気に性格が悪いと思うのは此処だけの話だ。
嘘吐きの方は殆ど論外で、斬られるものが無い。本人以外は。本気さえ出せば、イレギュラーな事が無い限り打ち破れない筈なのだ。気流子もそうだが、どうして本気を出して魔術を使おうとしないのだろうか。良いものを持っているはずなのに。……雨宮姉妹はよく分からない。
閑話休題。結局はその二人の戦法を真似てみれば良いだけという、至極簡単な話だ。そう、とても単純なのだ。考えなくとも答えは出ているのだ。実行できるかどうかは別として。

「ッ……『アース・アロー』!」
そんな事を考えている間にも海菜は日本刀を振るい続ける。防戦一方では埒があかないと判断し、儂が放ったのは岩で出来た無数の矢だった。
「残念だが――」
海菜は無数の矢を避けようともせず、正面から刀で斬る。
「この類の攻撃が私に届くと思わないことだ」
刀に直接斬られた矢は勿論、それ以外の矢も皆二つ以上に分離してバラバラと地面に落ちた。実は、矢に細工をして、触れたら燃えるような呪いを忍び込ませるという試みをしたのだったが、どうやら失敗のようだった。何も起こらない。
「……見よう見真似で出来たら苦労しないですだよね…………」
再び無数の矢を作る。今度は、魔力の量をいじってごり押しで呪いを再現するつもりだ。
結果だけを言えば、矢は発動する前に魔力ごとこの空間から断ち切られてしまったのだけれど。簡単に言えば、矢は消えた。一方残らず消滅した。もう意味が分からない。
「あからさまに魔力を注入すれば、迂闊に攻撃するはずが無い」
咎めるような口調で言われた。否、ような、ではなく実際に咎められたのかもしれない。
「呪術みたいなものが使えれば状況を打破出来ると思っただろうが……呪術はもっと繊細で隠密性が高い」
お前には無理な技だ。と、ハッキリと言われた。
「……仕方ない。諦めるしか無いですだな」
薄々分かっていた事だ。せめてやり方ぐらいでも教えて貰わなければ出来るはずがない。元々、今の儂の力は儂のものでは無いのだし。
「意外にも諦めが早いな。そんなに諦めが早いのなら、抵抗することも諦めて欲しいところだが……?」
「それは無理な注文ですだな」
儂が無抵抗と分かれば、何らかの動けなくなるような措置をした上で、次の誰かを狙いに行くはず。此奴の目的、足止めから考えると、多分、読んで字の如く本当に足を止めて儂等を動けなくしたところで、最後に残った音無を集中砲火みたいな策だろう。少なくとも儂ならそうする。
それに、組織は気流子と小坂を誘拐したことがある。目的は分からないが、今回もそうする可能性がある。
今、一番近くに居るのは小坂だろう。
ますます此奴を動かすわけには行かなくなるわけだ。

「……みせてやるですだよ」
海菜と真っ正面に対峙して言う。
「伊達にお前より十年長く生きている訳じゃ無いですだからな」
攻撃が斬って消される?なら、反応出来ない速度で攻撃をしてしまえばいい。
『仙人』の肩書きと、無駄に蓄積された百年以上の記憶は伊達ではないはずだ。
突破口ぐらい開いてやる。
それが、儂の意地だ。



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