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四人の中で、一番機動力があると自負していた儂は、一人家に居る小坂の元へ走った。魔力を極力抑えなければいけないのはなかなか不便だけれど、敵に見つかって袋の鼠にされるよりはマシだろう。 「――――む?」 なんて事を思った瞬間に、せき止められていた水が勢いよく飛び出すかの如く現れた魔力を感じた。この魔力は多分、音無。……敵と遭遇してしまったのだろうか。助けに行きたいのだけれど、今は小坂の方を優先しなくては。 儂は走る速度を上げた。後十メートル程で森を抜けられるはず。そうしたら小坂に今の状況を伝えて、……それからどうしようか。
「むおわっ!?」
とりあえず状況を伝えてからで良いか、と思い至ったとほぼ同時に、儂は何かに後ろから襲われた。 ギリギリのところでそれに気付けたのが幸いだった。 前に飛び込んでそれを回避してから、襲ってきたものの正体を知るために振り向く。 「…………昼夜、海菜だったですだか」 白く光る日本刀を右手に持った、空美と瓜二つのそいつが立っていた。儂が元々立っていた場所は日本刀によって斬り裂かれていて、攻撃に気付けないままでいたらと思うとゾッとした。 「……お前は黒岩暁だったか」 「流石に、敵には仙人と呼べなんて、言えないですだな」 「何の話だ」 首を傾げられたが何も答えないことにした。味方にすら詳しく説明していないことを、そう易々と敵に教えられる筈がないのだ。プライバシーの保護は重要である。
「音無じゃなくて残念だったですだな」 会話が途切れたところで、儂は唐突にそう言った。出会ってしまった以上、儂はコイツの足止めを全力でしなければならない。 ただ、戦わずして足止め出来るのならばそうしたいと思っている。実力はイマイチ掴めていないが、司令官という称号を得ている程だ。会話でどうにか出来ないだろうか。 「別に、嘘誠院音無では無かったからと言って、私のミッションに支障が出ることはない」 むしろ好都合だ。と、日本刀を構え直して海菜は言った。早速、会話で済ませる目論見は消えてしまったようだ。 「……そうですだか」 儂も構えた。 構えた後で、儂には平和な手段が似合わないな、と思った。いつだって儂は無理矢理、力で解決してきたのだから。 個人的に少年マンガのノリが好きだから、動き出す前によくありがちなセリフを口にすることにした。 言った後で、案外恥ずかしいことに気付いたけれど、言ってみたかったものはしょうがない。
「そのミッションとやらをクリアさせたいのなら、儂を倒すことですだな」
羞恥を隠すように、炎の出力を最大限にして、儂は海菜へ突っ込んだ。海菜はそんな儂を無言で見つつ、日本刀を儂の軌道に置く。間合いはそう置かれていない。直ぐに詰められてしまう距離で、あろうことかロケットダッシュをした儂は、目の前の日本刀へ逃げることなく思い切り突っ込んだ。 「!?」 驚いたのは、海菜の方だった。 まあ、無理もない。一瞬も躊躇うこともなく突っ込んで来る奴なんてあまり居ない。儂みたいな馬鹿でない限りは。 日本刀ごと海菜へ体当たりを決めた儂は、そのまま勢いに任せて後ろの木へぶち当たる。一本だけでは勢いは止まらず、二本ほど折ってしまった。 「ば、馬鹿なんじゃないか」 動揺した声で、海菜は儂に言った。日本刀は儂に刺さっていない。海菜は儂がぶつかる前に、刀が刺さらないように回したのだ。まあ、肩が少し切れてしまったのだけれど。 「フン、殺意が無い奴に言われたく無いですだよ」 後ろに跳んで、距離を置いてから言ってやった。全く、儂等が組織に乗り込んだときの殺意は何処へ行ってしまったのだろうか。正直、拍子抜けだ。 「さ、お前の目的はなんですだか。吐けですだよ」 「……優位に立った訳でもないのに、何故偉そうなんだ。……でもまあ、それぐらい教えてやろう。私の目的は」 其処で一呼吸置いて、刀で空を斬ってから海菜は言った。 「お前と同じく足止めだ。殺す気は無い」 儂の両隣の木が一直線に斬られて倒れた。 「もっとも――」 また、海菜が刀を横に振るう。儂は下がって攻撃を回避しようと思ったが、それは若干失敗した。 「ッぐぅ」 地を蹴った際に前に突き出される形となった右足の太もも辺りが斬撃を喰らった。 「生きてさえ居れば、傷つけることに容赦はしないが」
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