どうして。

そんな言葉が私の頭の中を渦巻く。どうして。どうして。
千年も生きたなんて言ったのに。
やろうと思えば竜だってねじ伏せるなんて自慢したのに。
私の攻撃を何一つ喰らわなかったのに。
色々と片腕一本で蹴散らしてきた武勇伝があったのに。
最強だなんて謳われていたのに。
どうして、こんなにもあっさり。

首を食いちぎられた長老はぴくりとも動かない。狐の口型に抉れた傷口からは血が溢れていて、止まる気配がない。
「なかなか美味だったな。……喚くな小娘。お前も直ぐに後を追わせてやるよ」
狐が何かを言っているけど聞こえない。抉れた傷口を防ごうにも防げなくて、私は叫ぶことしか出来ない。
どうして、村の子達はみんな魔術を使えるのに、私だけ使えないのだろうか。私に魔術が使えたらこんな傷、すぐに治せるのに。
「う……ああ…………」
何も出来ない。
その一言が頭の中を支配し始める。嫌だ、私のせいで長老が死ぬ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私が無能だから何も出来ないから魔術の一つも使えないから長老を助けられないから見ているしか出来ないから叫ぶしかできないから無能だ無力だ非力だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だだ嫌だ、嫌、だ。

「…………ちがう」

駄々をこねている場合じゃない。私が無能なら、有能な人に任せろ。無能は無能らしく、大人しく。
「やっと諦めたか。それじゃあ早速」
「うるさい」
大人しく、目の前の狐を、憎き狐をぶっ潰せばいい。憎しみを、そのままぶつければいい。

「よくも……よくもッ!!」
「なッ……!?」
右の拳を、手加減なしに振るう。拳は狐の胴体を地面までエスコートして止まる。骨が砕ける音がした。ところで私は、よくもの続きは何と言おうとしていたのだろうか。
私の中に、凄く感情的な私と、酷く冷静な私と、攻撃する事を喜んでいる私が居る。よく分からない。自分がどれなのか、分からなくなってくる。
「がッ……あッ……小娘が、小娘風情がァァァァッ」
変な方向に身体が曲がった狐は、動くことを諦めたのか炎を吐き出した。
紅蓮の炎。妖狐の炎はふれたものを焼き尽くすとか、そんな伝説がある。流石に其処までの力が無かったとしても、魔術すら使えない生身の私がこれを喰らえばただではすまない。
で?
「だったら、なんだ!」
感情的な私と、暴力的な私が混じり合った感覚がする。私は炎なんて気にも留めず、もう一度右の拳を振り上げ。狐の顔が恐怖と驚愕に歪もうと、許しを請おうと、知ったこっちゃ無い。命を奪ったならその命で償え。だから死ね。さあ、死ね。

「待て」

第三者の声がした。
その声で私の動きは止まり狐の寿命が延びる。
「待て、暁」
聞こえるはずが無いと思っていた第三者の声。それは首を食いちぎられた長老の、声だった。
「長……老?」
「期待するな、儂は直ぐに逝く。その前に、お主には残しておくものがある」
うつ伏せのまま長老は言った。決して自分が助からないと割り切っているところが長老らしい。
首を食われたというにも関わらず、長老はスラスラと言葉を続けた。その言葉は用意されていたのか酷く、機械的、説明的に聞こえる。その分、一言一句落とさず聞かなければならないような気もした。
「暁。お主には、類い希なる破壊衝動と、強すぎる力がある。危険すぎる故に、儂がお主を呪って魔術が使えないようにしてきた。……だが、それももう限界のようじゃ。だから、儂はお主に最後の呪いをかける

……仙人の呪い、じゃ」
「…………呪い?」
呪いとはどういう事だろうか。しかも、仙人の呪いって。ニュアンス的には呪われたら仙人になりそうだけれど、そう簡単に仙人になんてなれるはずがない。なれてたまるか。
「正しくは千人……かの。呪いにかかったら、まずお主の時間だけが酷くゆっくりと流れるようになる。大体、12倍ぐらいじゃろう。12年に一回しか、お主は歳をとれなくなる。儂がそうだったように、千年近い時を生きろ」
私は思考を放棄した。意味がわからない。わかりたくもない。
「その、時の中で、お主は自分の破壊衝動を抑えられるようになりなさい。強すぎる力も、使い方を弁えられるように…………。それが分かるまで、お主は何かを殺せばそれがお主の人格になる。苦しい想いをしたくないのならただひたすら耐えろ、暁」

一方的に言うと、長老はそれ以上何かを言うことは無かった。そして、動くことも無かった。
それとほぼ同時に、狐も動かなくなるのが視界の端に映った。



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