「鎖ノ罠《チェーン・トラップ》!」
「おっと」
先制攻撃を繰り出すけど、あっさりとかわされてしまう。
文字通り空を飛んで(跳んで)きて、何故か僕と対峙している猫さん。
浮かべる微笑の、なんと眩しいことだろうか。
しかし今は、その顔を直視できないだなんて甘っちょろい言葉を吐く余裕もない。
修行といえど本気で戦わないと、こちらがやられてしまうのだから。
いや、修行だからこそ、ちゃんと戦わないと修行にならないんだと思う。うん。
当たり前のことを真面目に考えて、何をしているんだ僕は。
「隙あり!」
「だああああ」
猫さんの鋭い一撃が、脇腹を掠めていった。
本気で戦わないと危ない。とか言っていたのは誰だ?僕だ。
「チェーン・ト」
「ファイヤァァァァァァァッ!!!!」
「あっつぁぁぁぁあ!?」
頑張って反撃をしようとしたのに、召還したばかりの鎖が全て灰になってしまった。
おまけに指先に軽い火傷を負ってしまった。

仙人さんの駆け抜けて行った方向を見ると、モーニングスターを振り回した雪乃さんが仙人さんを追いかけまわしていた。
仙人さんは炎の拳でモーニングスターを弾いているようだ。何があったんだ……。
「あっつ」
呆然としていると、後ろからそんな声が聞こえてきた。
猫さんが火傷でもしてしまったのだろうか。
そうだとしたら即刻、帰って小阪君に診てもらわないと……!
「大丈夫ですか?」
「…………」
猫さんは肩を押さえて蹲っている。
そんなに酷いのだろうか。痕が残ったりなんかしたら大変だ。
「見せて下さい!」
猫さんの、傷口を押さえる手をどかす。
そこには、痛々しい傷が……なかった。
かわりに長い袖がひらひらと風に揺れている。
「…………あ、れ」
どうやら僕は誘き寄せられたらしい。

「ッ」
「動かないでくれるかい?」
とっさに間合いを取ろうとすると、すかさず腕を掴まれてしまう。
しまった……この状態で攻撃なんかされたら、ひとたまりもないぞ。
眩しい笑顔が、今はやけに真っ黒に見える。ブラック猫さんだ。
「卑怯ですよ……!」
猫さんにつられて、こちらまで小声になってしまった。
お互いに小声でも十分会話が出来るような距離にいるのだけど、……とても、近いのではないだろうか。
いや、感謝以外に何も御座いません。
「静かに。……気持ち悪いかもしれないけど、ちょっとの間だけ我慢してくれるかな」
苦笑交じりにそう言うと、目だけで周囲を見渡し始める。
気持ち悪い?え?何を言っているのだろうかこの人は。
読心術を使えるはずなのに、肝心な所は全く伝わらないのだから悲しいじゃないか。
凄い勢いで雪乃さんに睨まれた気がするのは、きっと気のせいだ。

「……相手に感付かれるとまずいな……」
聞こえるか聞こえないかわからないぐらいの声で、そんなことを呟くのが聞こえた。
さっきからやたらと辺りを見回しているけど、何があるというのか。
忌忌しき事態だというのはなんとなく分かるのだけれど。
「どうかしたんですか?」
「あくまでも僕の怪我の様子を診ているように振舞って欲しい。敵に感付かれないようにね」
敵?やっぱり敵がいるのか。組織の連中か、凶暴な動物の群れか……。
どちらにせよ、早いうちに手を打っておいたほうがいいんだろう。
「落ち着いて、聞いて欲しい」
自分にも言い聞かせているような口調で、猫さんが重たい口を開く。

「ありえない数の敵に、囲まれている」



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