体力と脚力とは関係ないらしく、綾はチャイナ服の少女を超え、それなりに高く跳んでみせた。
ただ、その行為は、いわゆる自殺行為だった。
「させるか、ですだっ」
予想通り。黒岩暁の持っていた即席モーニングスターが、綾の背中めがけて襲い掛かる。
こんなに隙を見せられて攻撃しない方がおかしいのだから、当然っちゃ当然だ。
ここで妙に体制を崩せば地上へ真っ逆様、そのまま攻撃を受けても真っ逆様。
勿論、そんなことはさせないのだけど。
「見えないからと、忘れてもらっては困るわね」
体を回転させ、遠心力でモーニングスターを地面に叩き落とし、回転力を残したまま黒岩暁に縦に蹴りかかる。
それを最小限の動作で左にかわすと、彼女は「わっはっは」と笑ってみせた。
不意をついたと言うのに、なかなか素晴らしい反射神経を持った少女だ。仙人と呼ばれるだけある。

「随分と綺麗にかわすのね。まるで予測していたようだわ」
「親友の危機を見て見ぬ振りするようなやつは、親友とは認めないですだよ」
まあ、合格ですだな。そう言うなりなんなり、地面に埋まったモーニングスターを軽く引っ張っただけで引っこ抜いてしまった。
せっかく時間稼ぎになると思ったのに……まったく凄まじい力だ。
「時間稼ぎになるとでも思ったですだか?実におめでたい頭ですだな!」
目に殺意を抱えた少女が、引っこ抜いたモーニングスターを振り回し始める。この修行は、いつから戦争になったのだろうか。
とにかく、あんなものが当たったらひとたまりもない。私は生憎妹のようなタフネスは持ち合わせていないのだ。
「……自称仙人の貴方に、言われたくありませんね。アイルビーバック」
「敬語だったり偉そうだったり、キャラのぶれるやつですだな。逃がさん!」
氷霧に紛れこもうとすると、すかさずモーニングスターが飛んできた。
あ。今の風圧で霧が消えた。……くそ
「わっはっは」
「……わっはっは」
互いに隙を伺う。相手が隙を見せない。私も見せない。動けない。
どちらが先に動くのか……。多分それは相手だろう。
なんて言ったって、仙人なのだから。

「儂は、嘘吐きが嫌いです、だッ!」
予想通り、モーニングスターと共に、彼女が来た。
私はそれを素早くかわし、吹雪を発生させる。
嫌い?興味ないわね。
「目くらましにもならんですだなあ」
それが目的じゃないもの。とは言わない。
「『雪人形』《スノーマン》」
「なるほど、雪だるまを作る事が目的だっただか」
巨大な雪だるまが、黒岩暁目掛けて突進していく。
彼女はそれを避けようともせず、全身で受け止めた。一瞬で雪だるまが溶けていく。
やっぱり、温度には勝てないか。
「くっ」
私はもう一度、雪人形を作り出した。今度は五体。
四方と上空からの、袋の鼠作戦を遂行した。
しかし二体は向かっていく途中で崩れ、もう一体は上空でモーニングスターに散らされた。残りの二体は黒岩の目の前で腹に風穴を開けられ、散った。
「馬鹿か!氷ならまだしも、雪なんて近づいただけで蒸発する温度ですだよ」
計六体の雪だるまが完全に消滅した頃、黒岩暁の体には水滴一つもついていなかった。
代わりに、彼女がいる付近……つまりドームの中心付近に大きな水たまりがいくつも出来上がっていたのだった。
蒸発していないじゃないか。嘘吐きはどっちだ。
大袈裟に表現するタイプの人間なのだろうか。

まあ何にせよ、任務成功。だ。
あとは綾を待ちながらやり過ごせばいい。



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