翌日、みんなの同じ服(注文してあったらしい)が届き、その日から本格的な修行が始まった。
修行は三日に一回、班対抗の模擬戦をし、他の二日間で改善や錬磨するという流れになった。猫さんの言った通り、服は長袖長ズボンにも関わらず快適な温度を保ってくれていた。魔力って便利だなと思う瞬間である。

今日は三回目の模擬戦、つまり修行九日目。
僕はひたすら雑木林を駆け回っていた。
「喰らえですだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「ああああああああああああああああああああッ!?」
雑木林を焼き払いかねない勢いで大量の炎を撒き散らす、ツインテールの少女つまり仙人さんから。
模擬戦のルールは簡単だ。
各班にいる戦闘員ではない人(一班なら雷さん、二班なら仁王君)を攫い、小坂君の家まで連れて行くか、戦闘員を全員倒せば勝利となる。
小坂君は審判と炊事を兼ねる形で、待機となった。三班である雪乃さんと猫さんは、とりあえず僕達にちょっかいを出してくるらしい。倒しても倒さなくてもいいのだけれど、二回の模擬戦の経験から、出来るだけ接触は避けたい。万が一接触してしまったら、倒した方が良いとも思う。倒せたら苦労しないのだけれど。
そんなルールがあれば、戦闘マニアの仙人さんが僕達を全滅させるために飛び回るに決まっている。案の定僕は狙われてしまったのだ。

「逃げ回るだけなら、もう仕留めに行くですだよ!!」
炎を撒き散らしながら仙人さんは言う。仙人さん相手に逃げ回らない方が無理な話なのだけれど、しとめられるのは御免だし、スタミナ的にもこれ以上逃げ回るわけには行かない。
仕方無く僕は走るのをやめて仙人さんの方を向いた。
「やっと大人しくなったですだな!さあ喰らえ、『ギガント・ファイヤー』ァァァァッ!?」
「大人しくそんなもの喰らうわけないじゃ無いですか……」
喰らったら確実に死ぬ。あれは死ぬ。
炎を繰り出される前に、仙人さんを鎖で拘束出来て良かった。突然拘束された仙人さんは、それで集中が途切れてしまったらしく溜めていた魔力が散っていた。
「やられたですだなぁ……」
そんな状況に、仙人さんは口角を吊り上げたのだった。嫌な予感がする。火に油ではなく火薬を投げてしまった瞬間みたいに、嫌で今すぐ逃げ出したい感じがする。
「やれば出来るじゃないですだか音無……儂は燃えてきたですだよォォォォッ!!」
瞬間、僕の鎖が炎と共に、花火のように弾けた。
弾けた。
鎖が。
僕の渾身の魔力が。

「こッ……このチート戦士がァァァァッ!!」
「あっ!?またですだか!?」

倒すどころかやり過ごせる気が全くしない。僕はマントを翻して(と、少しでもカッコ良く見せておく僕だ)全速力で逃げた。脱兎の如くなんてレベルじゃないスピード(と、思いたい)で。
走りながら策を練る。正面から立ち向かって勝てる人なんてそうそう居ないと思う相手を倒す……せめて足止めするにはどうしたら。
「……嗚呼、要は勝てば良いのか」
走っているというのに、呟きが漏れる。そうだ、これは戦いなのだから、戦法は自由なのだ。仙人さんが嫌いそうな姑息な手を尽くせば何とかなるかもしれない。……理想は、猫さんとぶつけることだけれど、其処まで上手くは行かないだろう。とりあえず今は、仙人さんを足止めすることだけを考える。
「喰らえですだッ」
「っうわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
いかん、走る速度を更にあげないといけない状況になった。仙人さんが繰り出した巨大な岩が、ゴロゴロと転がりながら僕を潰そうとしてきたのだ。少しでも岩の軌道が変わるように、鎖を駆使して木を薙ぎ倒しながら雑木林を突き進む。残念ながら岩の軌道は一ミリも変わらなかった。でも、その代わりに罠を仕掛け終わった。後は仙人さんを嵌めるだけだ。
「あっはっは、これはなかなか愉快ですだな!」
「僕はちっとも楽しく無いですよ!『鎖ノ嵐』《チェーン・トラップ》!!」
術を発動させる。瞬間、仙人さんを四方八方から表れた鎖が襲った。岩は鎖に貫かれて砕けた。
僕は岩から逃げるとき、円を描くように走っていた。だから当然、なぎ倒していた木も円を描く形になる。
これは師匠の受け売りだが、円は召喚士にとって最も重要な形だ。円を描く事は、領域を限定することになり、限定された円の中でなら召喚術は強力なものとなる。魔術師の魔法陣と同じだ。
今までの戦闘で、どうしてこれを使わなかったのかということだが、それはただ単に僕が忘れていただけで、運良く僕がたった今思い出しただけなのだ。

「わっはっは」

……なんて策も、このチート戦士には通用しないようだ。
仙人さんは、鎖を二本ほど掴んで振り回し、ぐちゃぐちゃに絡めて動きを止めていた。仙人の呼び名は伊達ではない。



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