「ただいまー」 「…………まー」
それから、猫さんと雪乃さんが帰ってきたのは三時間後の事だった。 「おかえりなさ……何ですか!?その大量の荷物はッ!!」 玄関に出迎えに行くと、靴を脱ごうとする二人の目の前にはかなり大きい紙袋が五つ程あった。こんなに買ってきたのだろうか?一体何処からそんなお金が…………。 「いやー、やっぱり全員分ともなると、多いよね」 「…………余計なことを」 素敵笑顔の猫さんの隣で、物凄く雪乃さんが機嫌悪そうにしていた。眉間に皺はよりっぱなしだし、声は冷たく鋭くて低い。雪乃さんだって、普通にしていれば美人さんなのに、勿体無いと思う。いやはや、怖すぎる。逃げたい。すごく逃げたい。怖い。
「えっと……全員分って……?」 「とりあえず、これをリビングに持って行くの手伝ってくれるかな?」 「あ、はい」 雪乃さんが物凄く不機嫌である理由を知っているはずの猫さんは、エラい上機嫌だった。鼻歌を歌い出しかねない。……この人、今日起きるまでずっと生死の境をさ迷っていた筈なのにな…………。 僕の好きな人は、とてもミステリアスです。
「はい、全員に渡したから早く着替えてきてくれるかな?」 そう言って猫さんは、僕、小坂君、仁王君つまり男性陣をリビングから追い出した。僕達はそれぞれ服を持たされている。 「あいつはなんであんなに機嫌が良いんだろうな」 「さあ……何があったんでしょうね……」 何処かの部屋に行くのも面倒臭くて、廊下で着替えながら話す。服は当然のように上下両方ともあって、先に下をはいてみたらサイズはピッタリだった。一緒に住んでいるから、服のサイズが分かったのだろうか。少し驚きである。
「……戦闘服?」 「みたいですね……」 「格好いいと思います!」 着替え終わると、僕達の服装は物凄く似ているものになった。色やデザインが所々違うのは、誰のものかということを区別するためなのかもしれない。 小坂君は、深緑色でポケットが多くついたパンツに、同色のジャケット。僕は黒っぽい迷彩柄のパンツに、グレー(所謂アースカラーと誤魔化しておく)で内側にホルダーがついたジャケット。仁王君は、上下ともスタンダードな迷彩柄で、下はハーフパンツだった。 まあ、確かに格好いい。ミリタリースタイルである。 「僕のこのホルダーはナイフ用ですかね?」 「そうかもな。俺のポケットの多さは道具を常に持ち歩く為か?」 「人間救急箱ですね」 「上手くねえよ」 「あ、僕のジャケットは防弾素材みたいです」 「防弾!?」 「なッ……それ、俺にも欲しいぞ……」 仁王君のジャケットを触ってみると、僕達のとは素材が違うようだった。確かに仁王君には、自分の身を守るための魔力が無いからこの措置は当たり前だ。しかし、防弾素材なら僕達にも使ってくれたって良かったじゃないかと言いたくなる。 まあ、その防弾仕様がこの世界で何処まで有効なのかは分からないけれど。
「入ってきていいよー?」 リビングの中からそんな声が聞こえた。女性陣もみんな着替え終わったのだろう。僕達は脱いだ服を持って中へ入った。
リビングの中にいた女性陣も、様々な戦闘服に身を包んでいた。ざっと説明してみるとこんな感じだ。
まずは上機嫌な猫さん。猫さんは上下とも黄土色より少し濃いぐらいのアースカラーで、下はショートパンツ、上はショートパンツが隠れるくらいまであるロングのコートだった。初めて出会った時に着ていた、あのローブ(血まみれ)に似ていなくもない。 次に不機嫌そうな雪乃さん。雪乃さんは、オレンジに近いブラウンのミニスカートに、ベージュ系のミリタリーコートだ。実はこの中で一番色白である雪乃さんの絶対領域は、眩しいという次元を越えていた。この服が、更に美脚美白を際立たせていると言っても過言ではない。 少し成長した気流子さんは、小坂君と似た深緑色のミニスカートに、胸の辺りぐらいまでしかない同色のジャケットを羽織っていた(中は白いTシャツだ)。動きやすさを優先しているのか、見た目的に生地が柔らかそうだ。ただ、一つ思うのが、上の動きやすさを優先するならば、どうしてスカートなのだろうかと言うことだ。拳より脚の方が強いのは当たり前である。 仙人さんは、チャイナドレスではなくなったものの、カンフーとかで良く着ていそうな中国の装束っぽいものになっていた。一人だけなんか違う。そして、上はオレンジ色なのだけれど、一番鮮やかな色をしていた(余談だが、これの赤バージョンも用意したようだ)。まあ、格闘に特化している仙人さんにはぴったりかもしれない。ついでに、やはりチャイナ系がよく似合う。 その隣に居る空美さんは、今までの服とはあまり変わらず、上下とも薄い赤色だ。ショートパンツには焦げ茶のサスペンダーがついていて、それを左右に垂らしている。ただ、中に着ているTシャツの袖が少し特殊で、黒い布が指以外の手や手首を全て覆っていた。 最後に、雷さん。雷さんは細身の黒のパンツに、上は白いコートだ。一番大人っぽく、一番格闘には向いていなさそうだ。本人自ら、格闘はしないと言ったかもしれない。今の性格の雷さんは、とても格闘術を使うようには見えないのだ。どちらかと言えば、魔術や呪術を使いそうである。昼間のあれのせいで、あまり説得力が無いような気もするけれど。
「これからの季節のために、僕の魔力を少し織り込んで、着ていても暑くない仕様にしておいたからね」
一度、こんな風にみんなで揃えてみたかったんだ。と、微笑みながら猫さんは付け加えた。
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