「あー……やっぱり打撲してるな」
僕の背中を見ながら小坂君は言った。
「見て分かる感じですか?」
「若干紫っぽくなってる」
内出血も否めないと小坂君は続けた。川で派手に転んで打撲と内出血なんて、もう笑うしかないような気がする。
しかも、やっと組織戦の傷が癒えたところでこれだ。そのうちMr.傷だらけなんて、不名誉な称号がつくかもしれない。絶対嫌だ。格好悪いし。
「まあ、何もしなくてもすぐ良くなるようなレベルだし、大丈夫だろ」
「治療士にしては適当じゃありませんか小坂君」
「どうせこれから毎日派手に暴れるつもりなんだろ?なら、このぐらい自然治癒に任せとけ。じゃないと、いざってときに物が無くなる」
「……小坂君はどのレベルの怪我を想定内にしていますか?」
「最悪、骨折か深い刺し傷だな」
想定内のレベルが高かった。しかも骨折するなよとか言いながら、しっかり骨折を想定しているのかこの人は。確かに、僕がやりかねないけれども。

「……そういえば、小坂君にはまだ謝って居ませんでしたね」
「はあ?なんだよいきなり」
小坂君は一応、ここに居る中では唯一の一般人だ。僕が隣人だっただけで、こんな意味の分からない殺し合い(?)に巻き込まれて、勝手に居候が増えて、更に治療士を理由に力を酷使させてしまっている。あの日、小坂君に怒られて、仙人が僕の家を破壊してから、小坂君には頼りっきりだ。これがいいこととは、あまり思えない。
「……別に」
そんな事を言ってみると、小坂君はボソッと呟くように言った。なんとなく振り返って小坂君の方を見てみると、目を合わせてくれなかった。
「迷惑なんて思ってねーよ。…………俺も、近所付き合いみたいなのが出来て楽しいしな…………」
そっぽを向きながらそう言う小坂君の顔が赤くなっていたことは黙っておこう。なんかこっちまで恥ずかしいというか、照れ臭いし。

「ぎゃーっ!?音無君なんで脱いでるの!?露出狂なの!?服着て!服!!」
突然、そんな叫び声がリビング入り口から聞こえた。そっちを見てみると、緑色の塊が後ろを向いて立っていた。つまり気流子さんがいた。露出狂とは失礼な。
「この家は今、お年頃な女の子が一杯ってことを忘れちゃ駄目だよ音無君!デリカシーって大切!デリカシー、イズ、いんぽーたんと!!」
服を着たら、正座をさせられて、気流子さんに真面目に怒られた。まさか気流子さんにデリカシー云々を言われる日が来ることになろうとは。見た目の成長と共に、内面も成長したのだろうか。でもまあ、気流子さんは僕と同い年なのだからこの反応は当たり前と言えば当たり前である。
「次、こんな事があって、しかもお姉ちゃんがいたら……命は無いと、思ってください……」
真面目なトーンで釘を刺された。そういえば雪乃さんは根っからの男嫌いとか言っていたような。
「そういえば猫さんと雪乃さん、帰って来ませんね…………」
「ああ、確かに」
時計を見ると、二人が出て行ってから既に二時間ぐらい経っていることが分かった。時間って早い。服を見るとか何とか言っていたから、このぐらいかかるのは当たり前なのだろうけれども。
「うん……多分、お姉ちゃんはここに居辛いんじゃないかな」
気流子さんが寂しそうな顔をして言った。ただ、それ以上の事はやっぱり言おうとはしない。雨宮家の事情を、僕が知る権利なんてあるはずもないのだけれど、気になってしまう。はぐらかされてしまうのが見えているから聞かないけれど。

「ただいまですー。人数分の魚、とってきましたよー」
「ただいま、です」
なんて事を思っていたら、買い物に行った二人ではなく、魚をとりに行った二人が帰って来た。結局、女性二人に任せてしまったのは申し訳ないどころの話ではない。すみません。
「空美ん、雷ちゃんおかえりーっ」
さっきまで寂しそうな顔をしていた気流子さんの表情が一気に笑顔へと変わり、気流子さんは玄関へ走って行った。一喜一憂の激しい子である。それが彼女の魅力なのかもしれないけれど。
ところで、いつ空美さんのあだ名を『空美ん』と命名したのだろうか。気流子さんは『ん』をつけるのが好きなんだなーと思うばかりだ。空美ん。まあ可愛い響きではある。
あだ名がワトソンだのワトゥサだのワト無だったりする僕としては、羨ましかったりするのは内緒の話だ。



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