「…………ッ!!」
反応が遅れた為に、回避だけでは間に合いそうに無い。攻撃出来なくてもいいからせめて足止めをしないと……!
少しの間だけでも二人を止められるように、フェイクで氷の塊を飛ばしつつ、地面ごと凍らせていく……が。 「また……!?」 また、僕の氷ははじけて消えた。
「打撃攻撃じゃないとダメだよお姉ちゃん!!」 「……相手が悪い」 嗚呼、僕は両親に殺されるのかと思った瞬間、流亜がロッドでお父さんを横薙ぎにし、裕が凍らせた右腕でお母さんを思い切り地面に殴りつけた。 二人とも、既にボロボロである。 「伯母さんもお母さんとお父さんと同じ状況なんだよ!まだ私達の力だと魔術が相殺されちゃうみたい!!」 ロッドを巧みに操り、流亜はお父さんに次々と打撃を繰り出した。
……なるほど、僕達の力はまだ大人に適わないのか。多分、氷属性の魔術でなければ少しは攻撃できるのだろうけれど…………。 「……雷憑りか…………」 ふと、家を出る直前に見た魔術を思い出した。 打撃攻撃なんて言われても、多分僕の筋力と体力では無理だ。僕が足手まといにならないためには、この魔術を使うしかないだろう。……でも、この魔術は身体の一部を生け贄にしなければならない。今すぐ使うという訳にもいかない……。
「うぅ……あ゛ぁ゛っ!!」 「ぐッ!?」 突然、裕に頭を思い切り地面に叩きつけられていたお母さんが頭を地面につけたまま、裕の頭に蹴りをかました。 予想外の攻撃は、容易にヒットした。形勢逆転、今度は裕が地面に叩きつけられる番だった。 「裕ッ!」 お母さんは裕が立ち上がる隙を与えずに脚を振り上げ思い切りかかと落としを裕の頭に決めてから、その反動で立ち上がった。なんとも気持ち悪い動きである。 立っているだけの筈なのにその立ち姿はどこか歪に歪んでいる。空気すら歪み始めているような気すらしてきた。 つまり僕は、目の前の元お母さんの空気に呑まれてしまっているという事だ。
なんとかして一回逃げないと。 さっきの一撃でどうやら裕は気を失ってしまったらしく動く気配がない。このままでは裕が一番危ない…………。
「お姉ちゃん!ロッドに氷を!!」 細かい動きで確実にお父さんに打撃を与えていた流亜が叫んだ。同時に流亜の考えが頭に流れ込んできた。 「なるほどね……ッ」 僕は、流亜の注文通りにロッドの先端に大きな氷の塊をくっつけた。 それを流亜が流亜の能力、『魔力補助』で増幅させると即席の巨大な氷のハンマーが出来上がった。
「喰らえ!!メガトンアイスハンマーッ!!!!」 男は、猫神は一度死ぬと記憶を全て失って殺人人形として生き返ると言っていた。それは遠回しに、別人になると言っているようなものだ。つまり、攻撃に躊躇する必要は皆無だ。向こうが僕達を殺そうとするなら尚のこと。 流亜は躊躇無くハンマーをフルスイングした。そのインパクトの瞬間に、僕はハンマーの氷を爆散させる! 爆散した氷は更に流亜が増幅させ、軽い吹雪の状態になった。 軽い吹雪でも、足止めには十分なようで僕は裕を肩に担いで(流亜が魔力補助を使ってくれたお陰であまり負担にはなっていない)全力で走り出した。
・ ・ ・
「も、もう……無理…………」 家まで走った所で僕は力つきた。横っ腹が痛い。呼吸も苦しい。 距離的には200メートルも無いと思うのだけれど、感覚的には1キロはあったんじゃないかと思うぐらいだ。体力が無さ過ぎる。 急に止まってはいけないと分かっていても、中に入って鍵を閉めると僕は玄関にへたり込んだ。 「とりあえずお兄ちゃんはソファに寝かせとくよ?」 「あ……ああ、ありがとう……」 呼吸一つ乱さずに裕を運ぶ流亜を見ていると、姉の威厳ってなんだろうと思えてくる。……いや、今はそんな事を悠長に思っている場合ではない。 あの両親ではなくなった二人をどうにかする方法を考えないと…… 「……そうだ、魔術書がある」 あの本を見れば雷憑り意外で僕にも出来そうな魔術があるかもしれない。 本を見るために僕は立ち上がり、動き出した。
「…………え?」
その瞬間、僕の左腕とドアが文字通り吹っ飛んだ。 「うああああぁぁぁぁッ!?」 吹っ飛んだ左腕が床に落ちて、漸く僕は左肩の痛みと左腕が飛んだ驚きに気付いた。咄嗟に左肩を凍らせて止血をするが、痛みは引いてはくれない。 そんな僕を見下すように、お母さんだったものが掌を突き出したまま僕の後ろに立っていた。 「……コロ……ス……」 彼女の思考が僕に流れ込んでくるけれど、何かを殺すことしか考えていないようだ。どす黒い殺意が気持ち悪く僕の中を渦巻く。 さて、万事休すだ。 攻撃が出来れば話は別だけれど、僕の氷は無効化されてしまう。更に左肩の激痛に耐えなければならない上に、アンバランスになった身体を右腕でなんとか支えなければならない。 つまり、動けないし何も出来ない。
「…………いや、まだ一つあったよ……」
肩のせいで息をするのも辛くなってきたけれど、皮肉にも左腕が無くなったお陰で一つの希望が今見えた。
「ふ、ふふ……ここが室内で良かった」 僕はそう呟くと、最後の力を振り絞って、家全体を氷で冷やしながら転がった左腕を持って駆け出した。
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