猫神一族は呪われている。

生まれた時から、お母さんやお祖母ちゃんにそんな言い伝えを聞かせられてきた。
特別な能力と、自在な氷魔法を手に入れた代わりに、人形の呪いがかけられているとかなんとか。

人形の呪いがどんなものかは知らない。
でも、呪いは誰かに殺される事で発動するらしいとは言われていて、僕達猫神一族は他との関わりを断ってひっそりと暮らしていた。





「お腹すいた…………」

お昼を過ぎた辺りで、流亜がそうこぼした。
何をしているのかわからないけれど、ここ最近大人たちは忙しいらしくて昼間はほとんどいない。おかげで僕達三兄弟はお腹を空かせる羽目になっていた。
「やっぱり、僕が何か作ろうか?」
「いやいやいやいや、お姉ちゃんがそこまでしなくても大丈夫だよ!私まだ我慢して居られるから!!」
「……その通りだ姉貴!」
多分、僕が作ればいいだけの話なのに二人はこうやって遠慮するのだ。ここまで遠慮されてしまうと、何も出来ない。キッチンへ行こうとしてもブロックされてしまうし。

「……僕にもう少し体力があればいいのにな」
背中まで伸びた黒髪を指先で弄びながら僕は呟いた。
よくはわからないけれど、僕にはまだ覚醒していないけれど、一族史上最強の魔力があるらしい。ただ、そのかわりに常人の半分以下の体力しか無いのだ。
二人が遠慮するのは、このせいかもしれない。


「…………ん?」
突然、裕が窓際に駆け寄った。
「……どうしたんだい?裕」
裕には魔力を探知する能力がある。範囲はどのくらいかは分からないが、知っている人を探すのにも便利な能力らしい。
……もっとも、僕達はこの周辺から外へ行ったことがないため、それを実際出来るのか確認する術はないのだけれど。

「……大人達が帰ってきたみたいだけど、知らない魔力が混ざってる」

ジッと外を見つめながら裕は言った。
知らない魔力。
つまり猫神一族ではない者が近くにいるということだ。
「……嫌な予感しかしないね」
「私、様子を見て来るよ」
お姉ちゃんは待っていてと、武器である五段ロッドを構えて流亜が言った。
無言のまま、裕も玄関へ向かおうとする。
「弟と妹を先に行かせる姉がいると思うかい?」
それを引き留めるように、僕は立ち上がった。ついでにさっきまで読んでいた魔術についての本も閉じる。

「お姉ちゃんは体力が無いんだから動かないで」
……おや。
ビシッと指を指して言われてしまった。
「……温存しててくれ」
裕にまで止められた。
多分これ以上動いたら、事がすんだ後に説教大会が待っている事だろう。
流亜の説教は嫌だ。

「大丈夫」

余程僕が不安そうな顔をしていたのだろうか。
流亜は僕を安心させようと笑顔で言った。

「私もお兄ちゃんも、お姉ちゃんと同じ猫神なんだから」





流亜と裕が外へ駆け出して行くと、やっぱり僕は言いようのない不安に襲われた。
何だろう、この胸騒ぎは。

「……すぐに使えそうな魔術を見ておこうかな」
僕はさっき閉じた本を再び開いた。

僕はまだ子供だ。

魔力の量も、知っている魔術の量も少ない。
一族はずっと戦うことを避けているのだから、別に魔力も知識も少なくてもいいはずなのだけれど、僕は最近勉強し始めるようになった。

大人達が、言い伝えの呪いを信じようとしないから。
大人達が、強い力がほしいと思い始めているから。

読心術を使えるのは、凄く不便だ。知りたくないことまで知らされてしまう。
お父さんもお母さんも伯父さんも伯母さんも親戚のお兄さんもお姉さんもみんな、僕を猫神一族発展の道具として見始めていることが分かってしまうから。
いつか覚醒するであろう、僕の力。
大人達はそれにしか僕の価値を見出してくれなくなった。
…………凄く、悲しいし寂しい。

だから僕は、大人達の目論見通りになる前にここを出ようと思っていた。
そのためには体力をつけなきゃいけないし、呪いが本当なら殺されないぐらいには強くないと困る。
「いつ家出出来るかな…………」
とにかくこの体力だけは何とかしたい。なんとかならないだろうか。
「雷憑りか…………こんなの出来ないかな」
魔術師には適性がある。
適性の属性以外の魔術は普通使えない。この魔術は、身体の一部を生け贄に、強制的に雷を身におろすもののようだ。


ズガァァァァンッ!!


突然、地響きと共にそんな音が外から聞こえた。
外には、裕と流亜が様子を見に行った。
「…………ッ」
不安が拭えない。
怒られてもいい。二人に何かがある前に何とかしなければと思う前に、僕の身体は動いていた。



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