話が一段落ついたところで、僕は気になっていたことを聞いてみた。
「……空美さん、なんでちょっと楽しそうなんですか?」
勿論真面目な顔をしているのだけれど、それでもたまに楽しそうに口元が緩んでいるときがある。
僕のそんな素朴な疑問に、空美さんは素晴らしい笑顔で答えた。
「だって敵の内部事情を漏らすなんてスパイみたいじゃ無いですか。それに、自分の所属に背いて独断で行動するのがなんだか楽しくって」
不謹慎なのは分かっているんです。と、空美さんは付け加えた。
まあでも確かに、空美さんぐらいの年齢で空美さんの状況に立たされていたら僕でも楽しんでしまうかもしれない。……だけど、誰かが傷ついたときの痛みは倍になっていることもあるわけで、明るく振る舞おうとする空美さんの性格が垣間見えた気がした。

「……話は終わったから入ってこいよ気流子」
立ち上がって伸びをしながら、小坂君が言った。
「えっへっへ……」と笑いながら、壁の影から気流子さんが現れた。うん、ピチピチだ。
「誰かが誰かと話してる中に入りにくいよねっ……って、ワトゥサ君!今気流りんを見てなんて思った!?」
「ピチピチ」
「そうだと思ったよバカぁぁぁぁっ!」
正直に答えたら跳び蹴りをかまされた。戦いでかなりダメージを負った僕は当然よけられる訳もなく直撃ふぐおう。
「気流……子、さん…………」
「なにかね変態ワトゥサ君」
「ピチピチだからそんなに激しく動くと余計にパンツが……」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
床と熱烈なキスをする羽目になった。嗚呼……床…………。
というか気流子さん、ぎゃぁぁぁぁはないでしょうぎゃぁぁぁぁは。パンツで恥じらう女の子ならもっと叫び方に気を使ってほしい。そしてワトゥサって誰だ。
「そんな事言うなら助けてよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「……ですってよ、そこで顔を赤くしてるムッツリ小坂君」
「なッ……オープンな変態のお前にとやかく言われたくねーよ!!」
「うわぁぁぁぁバカぁぁぁぁ!!」
アホなやり取りをしていたら小坂君まで床と熱烈なキスをする羽目になった。
まったく、これでも僕達は男だということを忘れないでほしい。それにしてもオープンな変態とは失礼な。僕は葉折君じゃ無いのに。

「……服か…………俺の服でも一応着とくか?」
立ち上がった小坂君が言った。
「服って何があるのかなっ?」
「ジャージ」
「ジャージ以外で持ってないのかよぉぉぉぉっ!!」
パァンッと、いい音がして小坂君の頬にビンタが炸裂した。
いくらなんでもTシャツ位は持っているだろうに…………待てよ?もしかして本当にジャージ以外の服を持っていないのか?
「音無君は?」
質問をする前に質問をされてしまったためあえなく断念。
僕は「Tシャツでいいですよね?」と聞いてから、服を取りに行った。





僕がTシャツを気流子さんに手渡してから二分ぐらい。
脱衣所から気流子さんが出て来た。ダボダボの、僕のTシャツを着て。
「男女の体格差を此処で出さなくてもっ!女顔の癖にぃぃぃぃ!!」
「理不尽なッ!?」
ビンタされた。理不尽過ぎる。
「ダメですね、お二人とも。まず、お年頃の女の子にメンズ服を渡すことが間違っています」
空美さんが乗ってきた。何時の間にかメガネまでかけている。……はて、空美さんはメガネなんて持っていただろうか。
「なんで俺のメガネかけてるんだよ」
「拝借しました。正直度が合いません」
「当たり前だろ……」
小坂君のものだった。そう言われてみると、そのメガネに見覚えがあるような気がする。

「いいですか?気流子さんには女の子らしい服を!よって此処は葉折さんの服を渡すべきなのです!!」

空美さんはビシッと決めポーズまでつけて言った。
確かに。それは盲点だった。
「と、言うわけで持ってきました。気流子さん、着替えてください」
気流子さんに葉折君の服を渡すと、空美さんは無駄にキレのある動きで敬礼をした。ははん、これはもう気流子さんは完璧に遊ばれているな。

それから二分程で気流子さんは出て来た。
「二人よりもサイズおっきいよぉぉぉぉッ!!」
出てくるなり、更にダボダボのパーカーとベルトが意味をなさないショートパンツ姿の気流子さんは床に手をついた。うなだれた。
「……まあ、葉折君が一番身長高いですからね」
「女装してるけどあいつガタイ良いもんな」
「筋肉質ですもんねー」
そんな気流子さんを見て、うんうんと僕達は頷いた。
女装をしているからと言って、華奢なわけでは無いのだ。真っ当な男なら誰もが羨む体格なのだ。

「私!で、遊ぶなぁぁぁぁッ!!」

気流子さんが此処一番の全力で叫んでいた。いやぁ、ボケに回るとこんなに楽しいんですね。



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