「……ああ、すみません空美さん。話を続けてください」
気持ちが急いでもどうせ今は動けないことに気付いて、大人しく空美さんの話を聞くことにした。
空美さんは少し笑みを浮かべながら説明を再開した。
「第二支部は音無は分かると思いますが、科学魔術の研究をしています。実験の繰り返しだから囚我先生以外の人間が入ると危ないみたいですよ」
「研究って言うと……やっぱり人体実験とかが危ないのか?」
「いえ、危ないのは囚我先生の性癖です。遊び道具にされるんですよ」
「…………」
「…………」
嗚呼……師匠は全く変わっていないみたいだ。僕の知ってる師匠だ。嬉しくはないけれど。
「アリスさんの代わりをお姉ちゃんがさせられていると思うと逃げてきて本当に良かったです」
空美さんが遠い目をしていた。
その前にこの子あっさりと双子の姉を変態に売っているのだけれど…………まあ、いいか。海菜さん頑張ってと思っておこう。今だけでも。

「ああ」と、気を取り直して空美さんは説明を続ける。
「私たち第一支部と、この第二支部は基本連携しています。囚我先生の研究結果を戦闘班で実現したり、回避したりするんです」
「……それで、今回の研究結果が音無の召喚獣か」
小坂君の言葉に、空美さんはコクリと頷いた。僕は右手の魔法陣を見る。
……まさか、狂偽兄さんが世界を滅ぼせるなんて…………。
「……あれ?でも、僕が狂偽兄さんを制御していられれば大丈夫なんじゃ……」
組織は、世界を滅ぼしかねない危険因子として僕諸共処分するつもりだ。でもそんな事が分かるぐらいなのだから、僕が制御していられれば大丈夫なことぐらいも分かるはず。僕を誘拐するなりして、召喚獣の封印を強くすることだって可能なはずだ。僕諸共幽閉することだって…………。
「それが、世界の召喚獣のデータと囚我先生の実験の結果から、召喚獣を制御出来るのは、術後約3年ってことが分かって来たんです……」
「……え?じゃあ、3年経つとどうなるんですか…………?」
嫌な汗が背中を伝う。
「……召喚獣は召喚獣になる前の記憶と、術の呪縛から逃れ自由になります。……そして、召喚獣にされていたという事実に自我が耐えきれず暴走、召喚士を死に至らしめる結果が…………」
ドクンと、心臓が鳴っている。
僕が召喚士になったのが3年前。……狂偽兄さんを召喚獣にしたのが四年前だ。
つまり、何時でも狂偽兄さんが暴走する危険性が有るわけで、僕は組織から逃げられても、いつかは自由になった狂偽兄さんに殺される…………?世界を滅ぼせる、狂偽兄さんに?
「は……はは、だから今なんですね。僕諸共殺せるかもしれない、今……」
嗚呼、僕はなんて間抜けなんだろうか。僕より何でも出来るから、僕から何もかも奪うから、尊敬して嫉妬して見返すつもりで召喚獣にしたのに。結局殺される運命にあるなんて。
自分で自分の身を滅ぼすなんて。

「んん…………駄目ですよ、音無さんが死んだら……」
「仁王?」
いきなり、ずっと黙っていた声がした。しかし、声の主である仁王君はすやすやと寝息をたてていた。
「……寝言みたいだな」
謀ったようなタイミングの寝言だけれど。もしかしたら彼の空気を読む能力が影響しているのかもしれない。寝ているときぐらい、能力を使わないでいたらいいのに。

「仁王君が言うんだから、本当に音無さんが死んだらダメなんでしょうね。……生き残る未来があるんでしょうか……」
「大丈夫ですよ」
なんだか心強くなった僕は笑顔で言う。

「此処まで来たら、何処までも抗いますよ」





その後、空美さんから残りの第三、第四支部のことを聞いた。空美さんの話を纏めるとこうだ。

第三支部の動きは常に隠されて居ること。
どうやらその原因は呪いを主とする第四支部の手助けによるものであること。
最近、第三支部からたまに強い力を感じること。
そして、月明が第三支部に関与している可能性があること。

「……月明ですか…………」
「今日、あの場に第三支部長が出て来たのも怪しい点なんです。元々、九十姉妹は第四支部、月明双子は第三支部から第一支部に動いていますから。……もし、月明が第三支部と何かを企んでいるようなら、私達第一第二支部は昼夜家と手を組んで、月明と第三支部を潰さなきゃいけなくなります」
真剣な顔で空美さんは言った。
「なんだよそれ……殺し屋の全面戦争か?」
「そうなりますね。月明は、危険です。私達昼夜が依頼で動くとしたら、月明は私情で動きます」
一拍おいて、空美さんは続けた。

「漫画やアニメの世界みたいに、世界征服とか不老不死を企んでいておかしくない組織です」

僕も小坂君も、何も言うことが出来なかった。



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