「次に第二支部ですね……此処にいる人間は一人しか居ません」

そう言って空美さんは第二支部の所に『囚我廃斗』と書いた。
「囚我廃斗…………!?」
僕はその名前に覚えがあった。むしろ覚えしかない。
「音無どうかしたですだか?」
仙人さんが心配そうに声をかけてくれた。
僕は、正直に口を開いた。

「……どうしたも何も、囚我廃斗は僕の師匠の名前です」

僕が狂偽兄さんを召喚獣にして、慌てて召喚士の資格をとろうとしていた時に、魔法を教えてくれたのが師匠だ。
凄くちゃらんぽらんな人だったけれど、やるときはやる人で、憧れの人でもある。そう、尊敬しているのだ。
だからそんな人が僕の敵であって欲しくないし、そうでないと信じたい。
「……因みに、組織ではどんな人ですか?」
少しの希望にかけてみた。悪足掻きとも言う。

「え、えーっと…………囚我先生は凄く残念な趣味を持っているというか……」
「…………」
なんだか怪しい香りがしてきた。
だから僕は確証を得るためにさらに踏み込む!
「ズバリ、口癖は!?」
「に、……『二次元に行きたい……』」
「研究の真の目的は!?」
「『この液晶という越えられない壁を越えるため!』」
「自分の周りにいる人間は!?」
「『極力、自分好みの画面から出て来たような女の子がいい!!』」
「完全に僕の師匠ですごめんなさい!!」
確信が持ててしまった。どっぷり二次元の世界に浸かった『囚我廃斗』なんて人間は、僕の師匠以外の何者でもない。
そして、師匠が組織についているという事が分かると、もう一つの事が分かってくる。
「……じゃあ、アリスさんを作ったのは師匠なんですね?」
「はい……。第二支部は、囚我先生以外は全員アリスさんみたいな人形なんです。……ただ、今の所戦闘向きなのはアリスさんだけで、人形を一体作るには時間と労力がかなり必要との事ですから、またアリスさんみたいなのが出て来るにはしばらくかかるはずです。……でも、なんで分かったんですか?」
「……簡単ですよ。師匠はどうしようもなく駄目人間ですけれど、それ以前にどうしようもなく天才的な才能を持った魔術科学者なんですから」
魔術科学者。
師匠は自分のことをそう称していた。そしてよく、『この世のものは全て魔術と科学で成り立っている。だからそれを極めれば人体の生成だって出来るんだ』……と。
師匠が何を思って人体の生成を目標にしていたのかは分からない。だけれど、あの人は必ず目標を達成する人だ。多分、アリスさんがその達成の形なのだろう。

空美さんは、壱獄煉荊さんと風見リユさんは敵対することは無いと言っていた。もしかしたら師匠もそうなのかもしれない。
でも、あの気紛れ師匠の事だ。何をしでかすかなんて分かるはずがない。もし師匠と戦うことになったら、僕は確実に負けるだろう。全く勝てる気がしない。
「師匠に勝てない……ですだか…………」
「…………一応僕に戦い方を教えてくれたのはあの人ですから」
どこからか分からないが、声に出ていたらしい。反応されてしまった。少し恥ずかしい。
「……いやいや、音無!勝てないと思っていた相手に勝つとか、弟子が師匠を打ち破る展開は王道ですだよ!!」
勢いよく立ち上がって仙人さんが叫んだ。「だから安静にしてろ!!」と、小坂君が目くじらをたてるが、お構い無しである。
「燃える展開じゃあないですだか!少なくとも儂は燃えてきたですだよ!!よし、こうなったら直ぐにでも修行を――――」
「寝てろ」
ヒートアップし続ける仙人さんを小坂君が制した。手に持っている注射器はあれだろう、多分睡眠薬だ。
即効性があるのか仙人さんは直ぐに意識を失い、小坂君がそれを支えた。
「悪い気流子、こいつを運んでくれ」
「らじゃーっ」
小坂君がずっと静かにしていた気流子さんに頼むと、気流子さんは軽く敬礼をして仙人さんを担ぎ部屋を出て行った。身長が伸びた分、少しは負担が減ったようだ。……その分、服はピチピチなのだけれど。
気流子さんが新しい服を買うまで、何か服を貸してあげた方がいいだろうか。後で本人と相談することにしよう。
「……でも、仙人が言ったように修行は必要だよな」
「そうですね……するとか言いながら結局何も出来ずに組織に乗り込みましたし」
お陰でこの様だ。笑えない。



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