「あ……で、でも、帰るって言っても、私の魔力じゃ少しずつしか進めないんですけど…………」

おずおずと、手を挙げながら空美さんが言った。
確かに、ここへ来るときも四回ぐらい休憩した。それだけ僕達の家と此処が離れているという訳で、一気に帰れないということは一つの問題を生む。
「……やっぱり今ここで決着をつけないと追われますよね…………」
そして、休憩中に襲われ僕達は為す術がないという最悪の結末をむかえかねない。
「……そんな事なら」
「ハイハイハイ!流亜ちゃんが頑張りますよー!!」
「……流亜五月蝿い。……とりあえず、家に帰るイメージで転送魔法を発動してくれ。あとはこのバカが何とかする」
気流子さん並みに元気な流亜ちゃんである。それに比べて裕君はクール過ぎる。かなり対照的な二人だと思った。

「なんでもいいから早くぅぅぅぅ!!ちょっと私そろそろ抑えきれないかも……!!」
とうとう、凄まじい攻防を展開し続けていてくれた気流子さんが叫びだした。これは危険だ。
「わ、分かりました。私はいつも通り空間移動をすればいいんですね?」
「いいのです!さあ、いつでもどうぞ!!」
空美さんは覚悟を決めたようだ。それと同時に、流亜ちゃんがずっと持っていたロッドを構えた。

一瞬、バリア内の地面に魔法陣が表れて、瞬きをした後には辺りが真っ白な光に包まれていった。





「…………あれ」
さっきの光が眩しすぎて、目がまだチカチカする。けれど、目を開いたら見えた光景は、紛れもない小坂君の家の天井だった。
つまり、帰ってきたという事でいいのだろうか。
「本当に帰ってこれた……」
首を動かしてみると驚きを隠せない空美さんがそう呟いていた。
「んー……さっきのは……増幅ですか?」
ずっと黙っていた仁王君が流亜ちゃんに聞いた。
増幅……?増幅とな……。
「ふふん、私の能力です!」
鼻を高くしてどや顔で言う流亜ちゃんだけれど、全く答えになっていないのであった。見た目的には空美さんと同い年ぐらいなのだけれど…………。

「……すまん、流亜は馬鹿なんだ」
「あ、そうなんですか……」
「……姉貴は悪質な天然だし」
「……ご苦労様です」
どうやらここにも一人、悩める苦労人がいたようだ。……うん、確かに猫さんは悪質な天然だ。

「……説明は俺がしておくから流亜は姉貴の方を頼む。えっと……そこのあんた」
「戸垂田小坂だ」
「……小坂さんはさっきの子みたいに、いつも通り治療する感じで姉貴に魔法を使ってくれ。後は流亜に任せればなんとかなる」
なんだか違和感がある会話だ。まず小坂君がさん付けされているところが違和感だ。
どうやらそれは小坂君も同じらしく、小坂君も微妙な顔をしていた。
「それで、猫神弟。さっきの猫神妹の能力ってなんなんですだか?」
「……ああ、あれは、魔術補助だ。他人の魔術を何倍にも増幅させる使い方をしたんだ」
魔術補助……なんかどっかで聞き覚えがあるような無いような…………。
「もしかしてそれって……猫さんが借りてきたっていうスキルですか?」
「ん?ああ……確か流亜が勝手に借りられたとかキレた日があったからそれか…………。どうせ姉貴の事だ。誰かの魔力でも底上げしようとしたんだろうな…………」
流石弟。姉の行動がお見通しだった。というか猫さん、勝手にスキルを借りてきたんですか……。

何気に身震いをしている空美さんを僕はスルーする事にした。
「それで、二回殺さないと死なないって言うのは…………?」
「……猫神一族の呪いの話だ。猫神一族は、一度死ぬと殺戮をすることで生命維持をする殺人人形に生まれ変わるんだ。……ただ、姉貴は例外でな」
「呪いですだか…………」
呪いと聞いて仙人が忌々しそうに呟いた。気流子さんも、雪乃さんの方を気にしながら複雑そうな顔をしている。
僕は僕で、なんとなく右目に手を当てていた。
それぞれ呪いという言葉に何らかの思いがあるという事である。
ふうむ……だから、無差別な殺戮を聞いてきたのか…………。
「例外ってどういう事ですか?」
確かに、猫さんはさっき生き返って無差別な殺戮をし始めたりはしなかったのだけれど。
「……色々あって姉貴は、呪いが半分解けているんだ。俺もよくは知らないが、雷を卸したことが原因……らしい」
ふうん……。雷を卸す…………多分過去に何かがあったのだろう。あまり詳しくは聞けそうもないため聞かない事にしておこう。そんなプライバシーにずかずか入り込む無神経さは僕には無い。

「……悪い。後で話すって言っておきながら、俺も詳しくは知らないんだ。…………雷を卸した経緯も」
少し沈黙が流れた後で、裕君は申し訳なさそうに言った。
でも、一族から例外がでたら誰だって詳しくは分からない気がする。
「お?小坂君!!猫さんはどうだった?」
なんて事をしていたら流亜ちゃんと猫さんの蘇生を試みに行った小坂君が帰ってきた。
それにいち早く気付いた気流子さんが勢いよく立ち上がり、かけていた毛布が当然のように落ちて、「あわわ」とか言いながら服がピチピチになってしまった姿を披露していた。何だかなぁ。

「…………本当に、蘇生した」

呆然としながらも、小坂君は答えた。
猫さんが生き返った事を。



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