縁側で本を読みながらお茶を飲んでいるとため息が出た。

「何をしている」
「三成さん!」

声を掛けられて弾かれたように顔を上げれば、三成さんがすぐ近くに立っていた。この人といい、この時代の人は足音も気配もないから怖い。今日は機嫌は悪くないのか、いつもの表情だ。
三成さんの視線は私に注がれていて、そういえばさっきの問いに答えてなかったな、と気付いた。

「本を読んでいました。吉継さんにお借りしたんです」

字が読めるようになって、吉継さんに借りた本は最初は兵法の本とか、読めても難しいのが多かったけれど、最近は源氏物語やら竹取物語など私でも読みやすい本を貸してくれるようになった。

今読んでいるのは先程吉継さんが持ってきてくれた伊勢物語で、これがなかなか面白い。

「そうか」

そう言うと三成さんは私の隣に腰を下ろした。

「お茶淹れてきましょうか?」
「いや、いい」

三成さんは自分に嘘をつかない人なので、本当にいらないのだろう。
少しだけ申し訳ない気がするが、隣でお茶を飲む。茶菓子として用意されたお団子は、三成さんは甘いものを好まれないので一人で食べることにする。何だか切ない。だけど昼間は鍛錬に、書類整理に色々と忙しい三成さんがどうしたのだろう。
三成さんを見れば、その視線はずっと庭に注がれたままだ。

「何か不便なことはあるか?」
「はい?」
「何か不便なことはないかと聞いている」

聞き取れなくて首を傾げれば、三成さんは今度は強く言ってくる。
不便なことと言っても、ご飯は食べさせて貰えるし、この時代は二食らしく、お昼はないけどそのかわりにお菓子を出してもらえるし、寝る所もあるし、着物は素人でも解る程上等な物を着させて貰っている。


「特にはありませんが…」
「が?」
「少し退屈です。女中さんのお仕事でも何か手伝いをさせて貰えればいいのですが、天女様にさせるわけはいかないと言われて…」

この私の知ってる戦国時代とちょっと違う戦国時代にトリップして、三成さんの上に落ちてきたあの日から私は天女として秀吉さんの所にお世話になることになった。
私付きの女中である藍(らん)さんは用事があると言って大阪城にはいなくて、天女というのは少し敷居が高いのか他の女中さんは遠巻きで、私が本物の天女ではないと知っている三成さん達はいつも忙しそうで、話をする相手はいない。一人で出来るものなんて限られていて、吉継さんや家康さんが色々持ってきてくれるけどすぐに飽きてしまう。

「なら半兵衛様の手伝いをするか?」
「半兵衛さんの…?」
「半兵衛様はお忙しい方だからな。人手を欲しがっていた。行ってみるか?」
「はい!」

三成さんの申し出に私は元気良く返事する。
今すぐ行くのだろう、立ち上がった三成さんに、私は手に持っていた本を三成さんの部屋の近くの自分の部屋に持って行く。お茶とお茶菓子は食べ終わったら置いていていいと言っていたから置いていく。


いつもより遅いスピードで歩く三成さんの後ろをついていく。
手を伸ばしたら、三成さんの着物を掴めそうな距離で、私は小さな声で「有難うございます」とお礼を言う。

歩くスピードも、きっと部屋に戻ってきて私に声をかけてくれたのも三成さんの優しさだ。

私の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、三成さんは変わらず私の前を歩いていた。


▼お題お借りしました。
たとえば僕が

100902緋色來知
書きたいことを書いていったらごちゃごちゃになったので削って、それでもごちゃごちゃ。いつかリベンジしたい。


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