「ねぇ藍さん…」
「何でしょう、棗様」

縁側に正座する私の隣でお茶を入れる藍さんは、私が名前を呼べば急須を持つ手を止めて首を傾げた。

「猫の鳴き声がしない?」
「えぇ、確かに」

藍さんは私の問いの答えると、熱いお茶が入った湯飲みを私にどうぞ、と言って差し出した。

「…どうやら段々近くに来ているようですね」
「そうみたい」

鳴き声は段々大きくなっている。だけど猫はこうも絶え間なく鳴くだろうか。
途切れることなく響く猫の鳴き声に首を傾げる。

「棗」
「三成さん!と…猫?」

城門の方から草履を履いた、三成さんが庭を通ってこっちに歩いてきた。いつもなら文机にかじりついているのに外にいて、そして何故か猫を持って。

さっきから聞こえる鳴き声はこの三成さんの持っている白い子猫のもので、三成さんが片手で首の辺りだけを掴んで宙にブラブラさせているので、ずっと猫は鳴いているのだ。

「み、三成さん!子猫が!」
「やる」
「え?」

私の方まで三成さんは歩いてくると、慌てる私に子猫を投げた。とっさにキャッチすれば、子猫はにゃあ、と元気なく鳴いた。

「秀吉様の許可は取ってある」
「は、はい」

私の腕の中にいる子猫を一瞥すると、一言だけ残して三成さんは踵を返す。
建物の角を三成さんが曲がって見えなくなるまで、呆けながらそれを見送って、藍さんの笑い声で正気に返った。

「藍さん…?」
「も、申し訳ありません。棗様、つい…」

必死に耐えようとしているのか、藍さんは口に手を当てているが笑いは止まらない。

「にゃあ」

私の腕の中で子猫が鳴く。
その愛らしさに頭を撫でていれば、少し笑いが引いたのか藍さんは顔を上げた。

「申し訳ありません、棗様」
「どうしたの、藍さん」
「いえ、あの三成様が、と思いまして」

藍さんはそれだけ言うとまた笑い出してしまった。私が首を傾げると、猫はみゃあと鳴いた。

▼お題お借りしました。
たとえば僕が

100905緋色來知
「全部は伝わらなくていい」を踏まえての話。
微妙に続きます。


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