こっちに来て、もう何日も経ったけど帰れる方法は見つからない。
今日も半兵衛さんが集めた書物を藍さんに手伝ってもらって読んでみるけれど手掛かりは見つからない。


「もう帰れないのかなぁ」

半兵衛さんは秀吉さんの所に、藍さんは他の女中さんに呼ばれて二人が席を外した時に思わず口からこぼれた。

一言口に出してみると、頭の中をその一言が占めてしまう。その考えを吹っ切ろうと頭を振るけれど大した気分転換にもならない。

せめて藍さんか半兵衛さん、どちらかが戻って来てくれればいいのにとぼんやり考える。きっと話し相手がいればこんなに一人でくよくよすることはなくて、そしてちょっとしか読めないこの書物だって教えて貰ってちゃんと読めるようになるのに。

「お母さん…お父さん…みんな…」

肩の力を抜いて、後ろの壁に背をもたれれば、少しだけ気が抜ける。閉じてはいけないと思うのに瞼は段々閉じてきて、私は完全に閉じてしまった。



フワフワ、ユラユラ。
水の中に居るように、私の身体が浮いている。でも水の中ではないと思うのは、私の背中と膝下を力強い何かが支えているから。

冷たくもない、熱くもない、そんな優しい何かに支えられて、これは何かに似ていると思った。

宙を浮くような感覚がなくなって、支えているものが離れて、そこでやっと解った。

あの、夜に降り注ぐ月の光に似ている。冷たいようで、優しくてそんな月の光に。

そこまで考えて私の意識は深い所に沈んだ。



君は空を見ている
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▼お題お借りしました。
たとえば僕が
100906緋色來知
タイトルは支えている人の視点ですかね。


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