天女様、誰もが私をこう呼ぶ。

その言葉が何よりも私の胸の中に重くのしかかり、私を寝れなくする。

半兵衛さんは、天女が豊臣にやってきた、天は豊臣に味方しているというのが重要なんだ、と未来しかもこの戦国時代とは違う未来から来た私を天女に仕立て上げた。
実際、私は空の上から落ちてきて三成さんの上に着地した。しかもそれを何人もの人が目にしているから、みんな私が天女だと信じている。

最初は訳が解らず、ただ自分のためにこの嘘を承諾した。じゃないと生きていけないと思ったから。
だけどこうして衣食住を保障さるた生活で、みんなが私を天女と言ってよくしてくれるのに心が痛い。


「ごめんなさい」
「誰に謝っている」

眠れないからと部屋を出て、縁側で月を見ていれば後ろから声を掛けられて、肩が跳ね上がる。

「三成さん」
「こんな遅くまで起きているんじゃない、早く寝ろ」

夜着に上着を羽織っただけの三成さんは、ぶっきらぼうにそう言い放つ。その言葉の裏に見える優しさに心が少し温かくなる。
言われても動かない私に三成さんは怪訝な顔をする。

「嘘を吐いたことを謝っていました」
「嘘だと…あぁ、あれか」

言わずとも解ったのだろう。三成さんは真っ直ぐな人で嘘は嫌いだ。半兵衛さんが言い出したこの話に反論し眉間に大きく皺を寄せていたのは三成さんだ。

三成さんから視線を外して、空に目を向ける。
今日は満月だ。かぐや姫は天女に連れられて月に帰った。それじゃあ天女と呼ばれる私は一体どうしたら帰れるのだろう。

「?三成さん?」

肩に重みが掛かり、背中が温かくなった。何かと思えば三成さんの着ていた上着が私の背中に掛かっていた。

「貴様の正体がなんであろうとも、貴様は空から降ってきた。ならば貴様は天女だ」

三成さんなりに私を慰めてくれたのだろう。

空からやってくる女は天女くらいだろうし、そう半兵衛さんは言った。
だからこれは嘘じゃない。出身は空じゃなくて、未来だけど。

「そうですね、きっとそうです」

私が納得したように繰り返せば、三成さんは踵を返す。

「早く寝ろ。風邪などを引いて秀吉様の手をわずらわせるな」
「は、はい」

そう言って三成さんは部屋に戻っていく。

「あ、上着…」

すっかり上着を返すのを忘れていた。どうしようと頭を悩ませるが、きっと今から行っても迷惑なだけだと考える。

「三成さん…」

また明日返せばいいと考えて立ち上がる。
上着からは三成さんの匂いと温かさが残っている。上着を持った手から伝わる、それを感じながら部屋に戻った。


▼お題お借りしました。
たとえば僕が
100904緋色來知



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