※30話の辺りの話
突然部屋から飛び出したアイチをカムイはエミや仲間の騎士と一緒に追い掛けた。
やっとアイチに追い着いたのは外壁で、そのアイチの目の前で精鋭部隊が戦地と旅立っている。
もしエミ付きの騎士に選ばれていなかったらあの中にいたのだと、カムイはギュッと拳を握る。
騎士として育てられたときから、戦場に赴く覚悟はしているつもりだけれど、実際戦争が始まれば、湧いてきたのは恐怖だった。
あっという間に揺らいだ、まだ定まらない覚悟の中でカムイは一人の騎士を見つけた。
つい先日カムイを完膚無きまでに叩きのめしたユニットの背に乗った、カムイより少しだけ年上の騎士。
アイチを見付けて、その騎士が驚いたように大きくした目に、カムイは己に通じるものを感じた。
そしてあの騎士が発した言葉を、その日の記憶をなぞりながらカムイは噛み締めた。
アイチ付きのミサキとは違い、カムイにはきちんと休みが振られていた。
正しくは振られた休みを取らないミサキだが、アイチにはミサキしか騎士がいないため仕方ないのだろう。
しっかり者のエミと違って、アイチはおっとりしているから、いつだってミサキはアイチの世話を焼いている。
カムイだって休みなんていらなし、むしろずっとエミの傍で守っていたいが、エミ付きの騎士はカムイを含めて四人。子分のエイジとレイジに、最近騎士団では話題に上がっていたマイという少女騎士がエミ付きの騎士になって、誰かが休みを取っても三人は護衛に付ける。
だから、ちゃんと休みを取らなければエミは怒り出すので、カムイはエミに日課の花束を渡して、騎士団の本部をうろついていた。
廊下を歩いていると、前から騎士団の団長と最近話題に昇っている櫂トシキという騎士がやってきた。
団長はカムイを視界に入れると、カムイの前で立ち止まる。
ニコニコ笑う団長にカムイは若干引きながらも、挨拶をする。
カムイにとって、団長は父のような存在であると同時に師として恐ろしい存在だった。
カムイがこれほどまでに早く強くなり、一目惚れしたエミの騎士になれたのは団長のスパルタ教育があったからだと言っても間違いない。
けれども、強くなるためにもう一度受けるかと言われたら、全力で拒否をしたいのが本音だった。
「ところでカムイ。櫂と手合わせしないか?」
ところでも何も挨拶しか交わしていないと思っていると、言われた言葉は寝耳に水だった。
団長の後ろに立っていた櫂も驚いたように団長を見て、カムイを見た。
このやりとり、一見疑問系だと思うが、団長の中では決定事項でカムイと櫂が何かを言っても覆ることはないと知っていた。
チラッと見た櫂が小さく溜め息を吐いたのを見て、コイツも団長の理不尽さは知っているのかと、今まで敵意に近いものを抱いていたのに、一気にそれが同情に変わった。
「くそっ」
「…………」
櫂の“ドラゴニック・オーバーロード”の攻撃で、カムイのエースカード“アシュラ・カイザー”がカードに戻る。
ありったけの思いを込めた一撃は櫂の“オーバーロード”に勝てず、片膝を付きながらもカードに戻った“アシュラ・カイザー”手に取る。
観に来ていた騎士達は、カムイと櫂の戦いに声も出ない。そんな中で団長だけが双方を称えるように拍手をする。
だが、カムイにそれは苦痛でしかなかった。
“オーバーロード”も“アシュラ・カイザー”も元のユニットの力はほぼ互角。
なのにカムイが負けたのは、ユニットの力ではなく、精神力で負けたのだ。
エミ付きの騎士として、それ以上に自分のプライドが負けた気がして、例え正式な物ではなくても悔しくてたまらなかった。
“オーバーロード”が咆哮を上げて、櫂の元に戻り、そこでやっと騎士達が歓声を上げる。
凄い戦いだったと称える声の中で、出来た影に顔を上げると櫂がカムイに手を差し出した。
悔しくてたまらないけれども、これほどまでの騎士に会えたのは幸運だと考えるべきだと、櫂の手を取り立ち上がる。
「さすがはエミ姫付きの騎士というところか」
「次期騎士団団長と言うのは噂だけじゃねーみたいだな」
終わったファイトに観客がチラホラ減っていく中で、お互い素直に誉めれないらしく、憎まれ口を叩きながらお互いを称える。
「絶対負けらんねーと思ってたのによ。いくら正式なファイトじゃなくても」
「こっちだって正式じゃなくても、負けられない理由がある」
櫂が城の方を遠い目をしながら見ていた。
ずっと前、エミの騎士になる前にカムイも気が付いたらやっていたと、何故かあの頃の自分と重なる。
呆けて櫂を見ていると、向こうから団長がやってきた。
またニコニコと笑いながらやってくる団長と、団長の後ろに並ぶ騎士達。各々カードを取り出す騎士達と、団長の笑顔に思わず櫂と同時に回れ右をすれば、団長に襟を掴まれる。
「団長…?」
「おまえ達二人と手合わせしたいと順番待ちだ」
その後は日が暮れるまで騎士達の相手をさせられた。
その時は団長に絡まれてすぐに忘れていたけれども、あの櫂の表情も言葉もカムイにもわかった気がした。
I could if would
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2012/02/29 緋色来知
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