夜着にショールを羽織った姿で、アイチはバルコニーに出てきた。
「櫂君!」
「よっ、アイチ」
デッキのカードを見ていた櫂は、アイチの声に顔を上げて、デッキをなおす。
そしてアイチの顔を見て、困ったように笑う。
「そんな格好で乗るつもりか?」
「え、もうちょっと着た方がいいかな?」
「ああ。ちょっとボロいけど、コイツを着てればあったかいぜ」
櫂が着ている外套と同じものを取り出すと、櫂はアイチに渡す。
アイチがショールを脱いで、外套を着ている間に櫂はいつものように“ワイバーンストライク テージャス”を呼び出した。
外套を着たアイチに、櫂は外套のフードを被らせると、ショールは飛んでしまうからと部屋に置かせる。
それから手袋やマフラー、ゴーグルなど準備していたものをアイチに付けさせると、“テージャス”に飛び乗った。
「よし。それじゃ行くぞ」
「うん」
櫂から差し出された手をアイチが握れば、櫂がアイチの手を引いて、アイチを“テージャス”に乗せる。
アイチを自分の前に座らせて、アイチの後ろから“テージャス”の手綱を握る。
「“テージャス”!!」
櫂が声を掛けると、“テージャス”は一声鳴いて、一気に白の上空まで飛ぶ。
ぐんっと一気に来た風圧にアイチが思わず目を瞑る。
風圧を感じなくなったところでアイチが恐る恐る目を開ければ、そこは雲の上だった。
「すごいっ」
「城からちょっと離れたら、雲の下に行くからな」
アイチが周りをキョロキョロ見ている中で、櫂はゴーグル越しに鋭い視線を辺りに走らせる。
周りに騎士団のメンバーが飛んでいないかを、また危険そうなユニットが飛んでいないかを確認するためだ。
前回アイチを軽はずみで連れ出してから、アイチがお姫様であること、そしてお姫様を連れ出したことがバレれば大目玉を食らうことに気付いて思わずヒヤッとした櫂の反省が今回生かされている。
けれども、今回櫂が危険を冒してでもアイチを連れ出したのは、偏にあまり自分の意見を言わず、ワガママを言わないアイチが櫂にお願いしてきたことが嬉しかったからだ。
近場ならいいが、遠出すればその分防寒対策もいるし、何より騎士団のメンバーがその日夜間訓練を行っているのを聞いていたから、その場で連れて行くことは出来なかった。
次に櫂が来たときと、約束を取り付けて、騎士団の夜間訓練やら巡回などを徹底的に調べて、なおかつ幼少からの友人である三和に防寒具を借りて約束を果たしたのだ。
もちろん三和には怪しまれたが、最終的には何も聞かずに貸してくれた。
そんな櫂の涙ぐましい努力も知らず、アイチはただ外の世界を見れることに喜んでいた。
初めての雲の上の世界に、ずっと続く雲の中を飽きもせず眺めていると、アイチの耳元で櫂の声がした。
「降りるぞ」
「うん」
アイチの返事を聞いて、雲の合間を縫って、雲から出た。
「わぁっ」
「あれは王都の近くの街で、王都には負けるけれど賑わってる街なんだ」
眼下に広がる夜の明かりが付いた街の姿に、アイチは歓声を上げる。
声を上げて喜ぶアイチに気を良くした櫂は、この上空から見えるところをあれはなんだと説明する。
ほとんどが前に一緒に来た三和の受け売りだったが、三和の話を聞いていて良かったと感謝する。
「櫂君って何でも知ってるんだね」
「こ、こんくらい騎士なら当たり前だぜ」
「でもやっぱり櫂君はすごいよ!」
アイチに褒められて櫂は照れる。
騎士団の見習いの中でも優秀な櫂は褒められなれているハズなのに、何故かアイチに褒められて、今までにないくらい照れてしまう。
照れ隠しのように櫂はアイチが前に行きたがっていた場所を口に出した。
「もうちょっとしたら海だからな」
「海!」
「ああ、ちょっと早く飛ぶから」
「うん!」
始終楽しそうなアイチに櫂は笑みを浮かべると、“テージャス”に海へと向かうように命じた。
Promise with god(神様との約束)
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お題:)たとえば僕が様
いつもはアイチ中心ですが、今回は櫂中心にしてみました。
by10万打and一周年企画
11/12/24 緋色来知
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