ばん、と音がして夢の中にいく一歩手前で起こされてしまった。
ほんの少しだけ振動を感じるということは、誰かが俺の机にぶつかったか、俺が寝ているのを起こそうとしてるのか。
ゆっくりと相手にわかるほどだるそうに腕の間から顔を出した。
「……奈良」
正解は後者、しかも相手は最悪。このクラスの委員長様ときた。
「なんだよ、もう今日の授業は終わって今は放課後だぜ? 俺が寝てようがイインチョーサマには関係ないと思うんですけど」
含み笑いで言えば、俺を見下している目を偉そうに細めた。夕焼けの赤が入り込んだ教室のせいで、長い睫毛が影を落としているのが、少し綺麗だと思った。
「別に私は説教をしに来たんじゃない。なぜ私が貴重な放課後を貴様なんぞのために割らなきゃいけないのだ」
「……じゃあ、なんすか」
あからさまな不機嫌そうな声に少しイラついてそう言えばぐ、と押し黙る。俺から目をそらして苦虫を噛み潰したみたいな顔をしながら口を開閉する。わけがわからん。用件があるならさっさと言えばいいのに。
しばらくそれを繰り返したあと、こちらを見据えてトントンと俺の机を指先で叩いた。なんだと思い細い指先をたどれば、1cmにも満たない、でも結構な量の紙の束が積まれていた。
「お前が寝ていた授業でとっていたノートのコピーだ。次のテストで赤点をとらないように少しでも目を通せ」
つん、としながら早口でそう言って、そっぽを向いてしまった。なんだ、と少し気が抜けた。もっと面倒くさいことかと思っていたのに。
「……はぁ、どーも」
別にそんなおせっかいいらねーのにとか思いながらも面倒くさいから言わずにお礼だけを言う。と、その瞬間勢いよく振り向いた委員長の顔が目に映ったと思った瞬間バチンとなんとも痛そうな音が自分の顔面からした。というかすごく痛い。
どうやら、ノートのコピーを挟んだ状態で、委員長の手のひらを真正面から受け止めてしまったらしい。手のひらを離されて、ぱらぱらと紙が床と机に散らばる。
「か、勘違いするんじゃないぞ!! これは先生にどうしてもと言われたのと、クラス委員長としての使命を果たそうと思ってやったことだ! 決して貴様への好意故にやったわけではない!!」
べらべらとよく舌を噛まないな、という速度で言葉を残して委員長は去って行った。ご丁寧にすごい音をたてながら扉を閉めて。廊下に響く足音がどすどす聞こえる。
「……結局あいつ、なにがしたかったんだ?」
そう一人ごちて、顔を擦る。プリントはチョウジにでも頼んで一緒に拾ってもらおう。そう考えてもう一度眠りについた。
夕焼けに負けないくらい真っ赤になった委員長の顔が、脳裏に焼きついてしばらく離れなかった。

おしまい

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