一年に

4度移り変わる

木の葉の季節を

すべてアンタとみれるわけじゃねぇけど

また来年も

この場所で同じ時を過ごせたら…



〜いつの日か、また…〜





春の緑が香る、色とりどりの春の野草が茂る丘の桜の木のふもとで


俺は書物に目を通し、アンタは旨そうに団子を頬張る。


恋仲になったからと言って、特別場所を決めてデートする事は無かった。


人混みが嫌いな俺達は、特に観光名所やテーマパークに興味を持つこともなく、任務帰りに立ち寄る、何もない…
だけど誰にも邪魔されることのない、二人だけの落ち着いた空間が好きだった。



隣で本日3本目になる、みたらし団子を口に運ぶアンタの横顔は、去年より綺麗になって、こちらに向けられる眼差しは、去年より優しいモノになった。


あまりにも、美味しそうに団子を頬張るもんだから、俺は書物を捲る指を止めて、アンタとの距離を縮めた。


「ちょっと味見させて」

「良いぞ」

と微笑むアンタを引き寄せて、口の端に付いたみたらしのタレを舐めとった。



「なっ!お前、何して…」

「やっぱ甘ぇな…」


テマリは大きな瞳を丸くして、頬を紅潮させている。

キスなんて、もう何度もしてきたのに、不意をつかれる事にいつまでたっても馴れないアンタを愛しく思う。


「顔赤いぜ?」

「フン…う、うるさい!…団子ぐらい欲しければやるのに…」

テマリは串に一つ残った団子を皿の上に戻し、指先に付いたタレを舐めると、口を開いた。


「味見だけで満足か?」

好戦的な瞳を輝かせて、ニヤリと口角を上げるとテマリは俺の首元へ腕を回した。

「誘ってんの?」

「…そのつもりなんだが?」

意味深げに微笑んだあと、睫毛を伏せたのを合図に、軽く閉ざされた桃色の唇に己のそれを重ねた。

柔らかくて、甘いテマリの唇を堪能し、角度を変えて何度も、その柔らかさを味わった。


「んっ…」

名残惜しくも、離れていく唇で囁いた。

「癖になりそう…」

「フフ…馬鹿…続きは今晩だ…早く書類纏めな」

「はぁ…へいへい」

しかたなしに再び書類に目を通すが、気が散って集中出来ねぇ…

半殺しもいいところだ…


「ちょっと休憩…」


コツンとテマリの肩に頭を載せると、上下に小刻みに震え、テマリはクスクスと笑った

「集中力のないやつだな…」

「アンタのせいじゃねぇか…」


顔をあげて、少し頬を膨らしながら、答えると



「座ったままより、寝転んだ方が楽だと思うぞ」


と膝を叩きながら答えた。


「じゃあ、遠慮なく…」


テマリの膝に、そっと頭を預けると、春の陽気が眠気を誘った。

俺は、顔を覗かれるのが、なんだか照れ臭くて、体をテマリの方へ向けると黙って目を瞑った。


優しく微笑んだテマリの腕が体に乗せられ


トン…トン…


と規則正しいリズムで背中に優しい刺激を与えていく。


また子供扱いしやがって…と思いながらも、心地好くなってきてる空間を壊してしまうのが勿体無くて、そのまま、なんでもない振りを続けた。


暫くたって、うつらうつらと夢見心地になってきた頃、ゆったりとしたリズムで奏でられる、低くて澄んだ音色のテマリの声が耳に届いた。

何時も軽口を叩いている彼女からは、想像できないほど、優しくおおらかで、暖かい歌声は、きっと彼女の故郷の子守唄にあたるモノなのだろう。


俺は、膝から伝わる温もりと、耳から伝わる彼女の声に幸せを感じながら眠りに付いた。


どれくらいの間、そうしていたのだろう


「シカマル…シカマル…」


ゆさゆさと揺すられる感覚に目を覚ますと、青かった空に暖味のある色がさしていた。


「んっ…悪ぃな…」

まだ開ききらない目を擦りながら、状態を起こすと

「何時まで寝てるつもりかと思った」


と大袈裟に頬を膨らませるテマリに、けんちん汁の旨い店連れて行ってやるから…

と声をかけると、テマリは満面の笑みで「なら許してやる」と満足そうにしていた。


「それじゃ行くか…」


と立ち上がる俺に対して、テマリは一向に立ち上がろうとしない


「どうかしたか?」

「立てない」

「はぁ!?」

「足が痺れて…動けない」

今、なんつった?
俺は自分の耳を疑った、自然破壊まがいの大技を使い、一瞬で大勢の敵を倒してしまうような、やつが目の前で足が痺れて動けないなんて…


「ククッ…」

「わ、笑うなっ…誰のせいだと思ってる…」

「悪ぃ、悪ぃ…ほらよ」

俺はテマリの前で屈むと、おぶさるように背中で手招きした。

「何のつもりだ、こんなの暫くすれば…」

「店…混んじまうし早くいこうぜ」

「しょうがないな…」

テマリは、渋々俺におぶさった。

「アンタの軽ぃな」

位置を修正するために、おぶいなおすと、足に衝撃が伝わったらしく

「っ…お前…足に触る時は気を付けろ!」

と頭を叩かれた。

「へいへい…」



先程よりも、暖かい色に染まる空の下を、テマリを担いで歩いた。

風に舞う薄紅色は、空とのコントラストのせいか、やたらと白く見えた。

窮地を救った訳ではないけど、頭を使ってじゃなく、体を張って彼女の為になれていることが、珍しく男女の立場が逆転していなくて、少し嬉しかった。


この先、再びアンタをおぶさる事なんてねぇかもしれないけど、背中に乗せられた重みが、なんだか愛しくて。




「なぁ…シカマル?」

「んぁ?」

「これって、何か楽しいな?」

そういって、足を揺らす無邪気なアンタにつられて、自然と頬を緩めた。


「おい!…あんま揺らすなっつーの…」

「お前、歩くの遅いから」


俺達は忍だし、誰かをおぶさる事なんてよくあるけど

こんなあんたの無邪気な顔を見れるのは、やっぱそういう仲だからだよな…

と普段はあまり意識しないことを改めて実感することがある。


「いけッ!シカマル!」

前方に指を指しながら、叫ぶテマリに、どっちが年上だかと思いながらも、完全に攻守逆転している状況を楽しんでいた。

「走んのめんどくせぇ…」


もう足の痺れも治ったであろうテマリをそのまま担ぎ、明日には帰ってしまうアンタとの時間を楽しみながら、店屋の近くまで、ゆっくり、ゆっくりと歩いた。


また来年もこの場所で

アンタと笑い会えたら…





end


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