ついにこの日が来た。
あいつの告白を受けてから初めての、甘ったるい行事。
バレンタイン。
教室に入ると、まだ早い時間帯だと言うのに室内が賑やかだった。クラスの女子達が所謂友チョコを交換しているのだ。
思春期真っ只中である高校生は、異性にチョコをあげるということはあまりしない。もうバレンタインは、女子だけのイベントと化していた。
他クラスからも来ていて、教室の大半が女子で占めている。
昼休みにはもっと教室が黄色い声でいっぱいになるのだろうと思いながら席に着いた。
クラスの片隅に追いやられてしまった男子は、ジトジトと女子のチョコを眺めている。
「あーあ!おい、今日って何の日だっけ!?」
「知るかよ!…あ、あれだ、体育で持久走計る日だってばよ!」
その中心にいるキバとナルトは、肩を組んでわざと大声をあげて喚いている。そして、ちょうど教室に入ってきたシカマルに目をつけた。
「シカマルお前さ!いいよな、ちゃんと貰える相手がいるんだから!」
「ずりーんだよお前だけ!」
「…はあ?」
三人が、ちら、と私の方に目を移す。
うわ、こっち見るな。
シカマルは反射的に見たのだろうが、キバとナルトはニヤついた顔をしている。
思わず隠れてしまいたくなって、三人に私の顔が見えないようにそっぽを向いた。
「ないからな。」
昼休み。いつものようにシカマルと屋上に行き、二人きりの昼食をとった。私は弁当を広げ、シカマルは菓子パンをいつもかじっている。「ちゃんとしたものもとれ。」とよく私のおかずを食べさせてやったりするが、今日はやらない。
「お前なんかにやらない。」
もう一度、そう言い放った。いきなり言われたシカマルは、きょとんと不思議そうな顔をする。私はなるべくシカマルを見ないよう、弁当に手をつけながら続けた。
「お前にやるチョコはないって言ってるんだ。」
すると、シカマルは「ああ…。」と返してそれきり話さなくなった。
本当は嘘。実は、ちゃんとシカマルに作ってある。
嘘をついた理由は、照れ臭さ半分、八つ当たり半分である。
私にとってシカマルは、初めての彼氏。だから、その人のために何かを作って渡すということがあまりなかった(弟は別だが)ので、すごく恥ずかしいのだ。
それなのにクラスの連中…というか、キバとナルトは冷やかしの目で見てくる。
日常でそうなのだから、バレンタインなんか言うまでもなくそうだ。そう推測していたものだから、余計にイライラして…。私達の事なんか、放っておいて欲しいのに。
そっと鞄の中に手を入れると、紙袋が擦れる音がした。チョコの形が崩れてないだろうか。
昼休みが終わり、屋上を出て教室に戻った。その道中、シカマルは普通と変わらない態度で私に話してきて。優しい、と思えばいいのに、ただ単に私のチョコなんかいらないのか…と考えてしまう私がいて嫌気がさした。
教室に入ると、今朝は不機嫌だったナルトとキバが嬉しそうに笑っていた。
サクラやいの、その他の女子からチョコを貰ったらしい。ナルトは幸せそうにチョコを頬張っていて、サクラに「あんた達見てると可哀相だったから。」と言われていた。
「テマリさん!」
いのが私の前の席に座る。ふいに顔をあげると、満面の笑みがあった。
「テマリさんはチョコあげた?」
「ナルト達にか?」
「違うわよぉ。シカマルに決まってんじゃない。」
「あ、ああ…シカマルか…。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「……えっ、もしかして…。」
いのに昼休みの事を話すと叱られてしまった。
「放課後に謝って絶対渡すのよ!」
しかし、そんな事言ったって今更…。謝るなんて恥ずかしいし、その後どんな顔して渡せばいいのかわからない。
そのまま放課後になってしまった。
とりあえず、シカマルと人気がなくなるまで教室に残ることにした。
そして遂に二人きりになった時、私はシカマルに背を向けて立っていた。
シカマルの視線を背中に感じ、それが余計に心臓の鼓動を速くさせる。
ああ、どうやって渡そうか。
とりあえずシカマルの方を振り向いてみる。
「……。」
シカマルは机に伏して携帯に指を走らせていた。
それにイラッとして、思わずチョコをシカマルに投げつけた。
「ん…?」
シカマルがチョコに気づく。今、自分で乱暴に扱ってしまったチョコだが、崩れてないか心配になってきた。
「これ…?」
「弟にやるのに作ったのが余った。」
「ないって言ってたくせに?」
「うるさい!つべこべ言わずに受け取りな!」
もう一度シカマルに背中を向けた。私がどんな顔してるか知れない。だんだん恥ずかしくなってきて、その場から逃げ出したい思いに駆られる。
「すげー嬉しい。」
声色からして、純粋に喜んでくれているようだ。まさかシカマルからそんな言葉が出てくるなんて思いもつかなかった。
シカマルから「嬉しい」を聞いたのは初めてなんじゃないかと思う。そうなると、顔がもっと熱を帯びた。
「大事にする。」
「いや、早く食べろ。」
「じゃあ大事に食う。」
「好きにしな…。」
「テマリ。」
「こっち向けよ。」とシカマルが言う。即座に「嫌だ。」と返すと、後ろからクスクス笑うのが聞こえた。
「わ…笑うな。」
こういう時だけ強いシカマルはずるいと思う。普段と立場が逆転し、悔しくも感じる。
シカマルが立って私の顔を見ようとするので、シカマルが動くと同時に私も動いて見せないようにする。
しかし少しもしないうちに、シカマルに捕まってしまった。私の腕を掴んで顔を覗き込む。シカマルの口角の上がった顔が見えた。
「顔赤いぜ。」
「……!」
ほら、そういう所がずるい。私をからかう時だけ思った事を口にするのが。
これ以上からかわれるのが嫌で、シカマルを押し返したが力が弱くてなんともならなかった。
それならもうやけくそだ。私だって、本心を言ってやる。
「そのチョコは私の気持ちだ…。お前の事を考えながら作った。」
「……サンキュ…。」
いきなり声のトーンが変わってふいに顔をあげると、シカマルも頬を赤くしていた。
今までの調子はどこにいったのかと思うと、シカマルに限りない愛しさが込み上げてくる。
「お前も顔赤いぞ。」
「うるせー。」
そう言って二人で笑いあった。
END
お待たせいたしました、あや様リクエストでした!「照れてるテマリさん」というお題を頂きました!バレンタインにはもってこいのお題だわということで、学パロでバレンタインです(^ω^)
シカマルくんとテマリさんはまた同い年にしました。そして所々おかしな点がございますが、あまりお気になさらずに……(^p^)オチとか最近難しいです。
そういえば、よく小説にいのを出してしまうなあと思います。シカテマに絡むいのが好きなんですかね!←
ついでに言うと付き合ってますシカマルくんとテマリさん!でもまだ手も繋いでません。
あや様ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!