シカマルは最近、テマリと共にいることが多くなった。
中忍試験の係員として共に任務をこなして以来、木ノ葉の案内役として同じ任務につくことが増えたのだ。
任務の人員配置は全て五代目火影である綱手様が決めている。テマリに一番歳が近いシカマルが案内役なら、行動しやすいだろうと彼女が考えついたのだろう。
実際シカマルは、はじめ彼特有の「めんどくさい」気持ちだったが、今は満更でもない様子だ。
早めに大門に向かってテマリを待ち、火影への挨拶や任務を済ませてから甘味処でテマリに甘栗を奢ってやる…というのが一つの楽しみとなってきていた。
ただ時々テマリといると、もどかしい思いをすることがシカマルにはあった。
胸が締め付けられるような痛み。
それは彼にとって決して辛いものではなかった。そしてそれは、以前にも感じたことがある。
「どんなもんだ?」
昔、危ないところを助けられ、シカマルに向けられたあの笑顔。
それを見てから、シカマルは何か胸に突っ掛かるような思いをすることが多々あるのだ。
しかし、それが自分のどんな気持ちなのか、シカマルはまだ気づいていない。
シカマルは今日もテマリを木ノ葉に迎え、彼女の任務を手伝っていた。
テマリは砂隠れの忍育成のため、木ノ葉の育成カリキュラムを学びに来ている。それを手伝うような形でシカマルは彼女の案内役についているのだ。
資料整理のために図書館へ入る。
綱手様に与えられた山のようなそれを見て、思わずシカマルは「めんどくせえ。」と呟いた。
テマリが彼を睨んだのは言うまでもない。
それからは、木ノ葉の図書館の一室に二人で篭り、黙々と作業を続けた。めんどくさがりのシカマルは、眉間にシワを寄せていた。
それを見てテマリが口元を緩めていたことは、シカマルは知らない。
日が入りはじめて空に赤みが差さった頃には、あらかた資料の整理が完了していた。シカマルは思わず伸びをして、その場に崩れ落ちた。テマリはまだ資料に目を落としている。
「はあ、んっとにめんどくせえ…。」
「おいまだ終わったわけじゃないぞ。休んでないで早くやれ。」
「はいはい、わかってるよ…。」
「"はい"は一回…って、教わらなかったか。」
「ホント一言多いぜあんたは…。それより、あんたももう少しで終わりそうか?」
「ああ、まあな。」
「そうか。……それなら今日も行くか?甘栗甘。」
「行く!」
「甘栗甘」と聞いたと同時に、テマリはガタンと大きな音を立てて立ち上がった。目を輝かせて頬を上気させ…。まるで欲しいものを買ってもらった子供のようで、シカマルは笑ってしまった。
そのときシカマルは胸が締め付けられるような思いをしたが、いつものことなので気にしない。
テマリは我に帰って恥ずかしそうに席についた。
「…でもお前に悪くないか。いつもこう、奢られてばかりでは…。」
「気にすんなよ。甘いもんそんな好きじゃねーけどよ、こうやって任務した後にあんたと甘栗食うの、俺は好きだから。」
「え?」
「………!」
シカマルは今にも逃げ出したい思いに駆られた。
俺は今何て言った?
シカマルの体温が急激に上がり、顔が火照った。恥ずかしさと焦りで何も考えられなくなって、言い訳もできない。
テマリはキョトンとして黙ってシカマルを見ていた。
何か言わなくては…。
「…その…「失礼します。」
口ごもっていると、誰かが部屋に入って来た。声からして女性のようだ。
シカマルは救われた気になった。その声のするほうに、二人は視線を移す。
声は聞き覚えがあるものだった。
暗号部のシホ。
入って来たシホはシカマルを見て、頬を赤く染めた。
「あ!シカマルさん!」
彼女はわたわたとボサボサ頭を整え、シカマルに笑ってみせる。シカマルは不思議そうに「よぉ。」と返事した。
「お…おお…お久しぶりですね…!」
「だな。」
「お元気でしたか!」
「?…おぉ、まあ…。」
不自然なシホの態度に、シカマルは苦笑する。するとシホは小さく叫んで後ろを向いてしまった。
シカマルに惚れてしまった彼女にとって、意中の彼の笑顔ならどんなものでも輝いて見えるのだ。
暫くして落ち着いたシホは、シカマルの方に向き直った。
「あ、いきなりすみません…。今の暗号解くのにここの文献が必要でして…。」
「いや、別に問題ないぜ。」
「シカマルさんは、何をなされてたんですか?」
「あー、五代目からの任務だ。資料整理の。この人の案内役も兼ねてな。」
「この人…と言いますと?」
「砂の忍のテマリだ。木ノ葉の育成カリキュラムを学びに来てんだと。」
彼女はトレードマークとも言えよう便底眼鏡を押し付け、背を丸めてテマリを見た。
そしてシカマルとテマリを交互に見つめ、何か悟ったように息を呑む。
テマリは興味がないという風に資料整理に戻ってていた。
「シカマルさん!」
「なんだ?」
「あの…!この前はあなたの任務にご一緒させていただきありがとうございました!」
「………はあ。」
いきなり話を変えられたものだから、シカマルは拍子抜けしてしまった。
シホはわざと大きな声で続ける。
「また今度ご一緒しましょう!あと…甘栗甘にも行きましょうね!」
「あ、ああ。そうだな…。」
「そ…それでは!」
シホはそれだけ言うと、勢いよく出ていってしまった。
シカマルは「用事はどうした。」と引き止めようと思ったが、止めた。これではシホが何をしに来たのかよくわからないが…。
何故シホが「甘栗甘に行った〜」だの「任務が〜」だのと言っていたのか、シカマルには到底わからなかった。
「あいつは誰だ。」
背中にテマリの声を感じた。シカマルが振り向くと、資料整理を終えたテマリがこちらをじっと見ていた。
窓際に座っているテマリは夕日のせいで、オレンジ色になっている。
シカマルはみとれてしまった。
「誰?」
「あいつは暗号部のシホだよ。前、自来也様の残した暗号を解くのに協力してもらった。」
「…そうか。それで甘栗甘にも…。」
「一回だけな。」
シカマルはおかしい、と思った。テマリの様子がいつもと違う。いつもなら余裕の笑みで何か一言言ってくる。
夕日をバックにしたテマリが余計に綺麗に見えるのも、そのせいか。
「…なんだか、おかしいんだ。」
「!」
自分が思っていることをテマリが口にし、シカマルは驚いてしまった。
「最近お前といると、おかしいんだ。お前が嬉しいと私も嬉しくなるし、お前が怒ると私も怒ってしまう。私より年下のお前に、振り回されてる。それに…」
テマリは続けた。
「モヤモヤするんだ。お前がさっきのあの女との話を聞いてると。」
「どうしてか分からないが、お前があいつと話しているのが嫌だった。私以外の女を甘栗甘に連れていってると思うと辛い。…………私何言ってんだか…悪い、我が儘だ。」
そう言ってテマリは瞼を伏せた。
シカマルは何とも言えない気持ちでいっぱいだった。だって、テマリと同じ思いをしていたのだから。それが良いことなのか悪いことなのか、わからない。
「俺と同じだ。」
シカマルが言うと、テマリは笑った。
「さて、私のほうはもう終わった。お前のほうは大丈夫か?」
「あ、わりぃ。もう少し待ってろ。すぐ終わらせっから…。」
「それ終わったら甘栗甘行くぞ。」
「分かってるよ。」
「…私だってお前と甘栗食べるのに悪い気はしない。いや、好きだぞ。」
「……!」
夕日より赤みがかった頬をして、勝ち誇ったようにテマリは言った。シカマルはただただ、俯いて顔を隠すしかなかった。
このようなやり取りをしておきながらも、二人ともまだお互いの事を好きだと気づいていない。
END
約一ヶ月…大変お待たせ致しました!なみ様リクエスト、「シカテマ←シホで甘々」でした。
やっと完成した訳ですが、何分久しぶりに書いたので分かりにくかったと思います…。これ、所謂「友達以上恋人未満(?)」というやつを書きたかったわけです。勝手にごめんなさい。
そしてシホちゃんは、さりげなく二人の邪魔をして自分をアピールしようとしてます。…そういう事しそうだなーという私の勝手な思い込みです←
グダグダですみません。
批評はなみ様のみ受付させていただきます!
なみ様ありがとうございました!これからもよろしくお願いします^^