やっぱり…今日のコイツ、なんかおかしい。
ぶっきらぼうとか、なんか冷たいとか。…そんなのはもう、いつものことなんだが。
今日は、違う。
明らかに、違う。
* * * * *
火影への報告を済ませたコイツを門の前まで送り届けてやるのは、もはや俺の義務みたいなもんだ。
テマリが木の葉に来たときの案内役は必ずお前がやれ、とあの世話好きな火影に言われてしまったから、この仕事はいわゆる拒否権のない決定事項。
だが、コイツが木の葉に来たときに、コイツに毎回最初に会えるのが俺だっていうのも、なんか…役得なのかもしんねぇ。
なーんて、いつしかそんなことを思ってる自分もいた。
コイツが火影に報告をしたあとは、二人で木の葉の里をぶらぶらして、なんか食べて、そして他愛もない話をして。
コイツと過ごすそんな時間は、俺にとってすげぇ心地よくて……いつの間にか、当たり前のようになっていて。
…だから俺は、なんで今、こんな状況になってしまったのかが…まったく、理解できずにいる。
「…」
「…おい、」
「…」
「…おい、聞こえてるか」
「…ああ。…何か用か」
…やっぱ、聞こえてんのかよ。普通に聞こえてたのに、俺は無視されてたわけか。
さっきから、いくら会話をふってみても、『ああ』とか『いいや』とか。
まるで、『何も用がないなら話しかけるな』って言っているようなコイツの態度。
そんなコイツに、俺はすっかり困り果てていた。
「…なあ、…なんか俺、お前に悪いことでもしたっけか?」
「……別に」
だったらなんで、こっち向いてくれねぇんだよ。
ほんと、わかんねぇ。
…今日のコイツ、なんでこんなに不機嫌なんだ?
横から、コイツの顔をちらりと覗いてみるが…その表情からは、何も読み取れない。
もしかして俺…実はコイツに、すっげぇ嫌われてるとか?
最近、いい感じとか、お似合いとか、周りの奴らにもてはやされることも増えて……いつの間にか俺、一人で勘違いしてたのか?
なんて考えて、…少し、切なくなる。
マジ、かっこわりぃけど。結構、ショックでけぇな、これ。
ため息が出そうだ。
するといきなり、さっきからずっと押し黙って無視を決め込んでいたコイツが、口を開いた。
「お前のIQは?」
「…は?」
「お前のIQは…200もあるんだろ?」
…いきなり、何を言い出すのかと思えば。
「そりゃ…そう言われたことも、無くはねぇけど…」
だからってこんなときに、何でそんな話が出てきやがるんだ…?
…ったく…これだから、女の考えてることってのはわかんねぇ。
「だったら…今、私が考えてること、お前のIQで当ててみろよ」
「………はぁ!?」
…そんなの、わかるわけねぇだろ。
さっきからなんかずっと不機嫌で、態度も冷たくて、俺への扱いも、いつもより何割か増しで適当で…。
それの理由すらわからないのに…あんたが今、何を考えてるかなんて…当然、思い浮かんでこない。
「わっかん…ねぇ…よ、ていうかそれ、IQ関係ないだろ」
…あんたの問いに、俺はそう答えるので、精一杯…だったんだが、
「ふーん。やっぱりお前にはわからないよな、私のことなんて」
…こう言われてしまえば、さらに落ち込みもするわけで。
「…わりぃな。…けど、ぶっちゃけあんたが何考えてるかなんて…俺、わかんねぇし」
何を意図して言っているのかわからないあんたの態度に、なんだかイライラしたりもする。
そして、
「…お前は、私のことをわかってくれてる奴だと思って、信用もしていたが。…そういうわけじゃ、ないみたいだな」
その言葉に……冷静じゃ、いられなくなった。
「だったら、…だったら何で、俺のこと無視すんだよ!」
ついつい、荒い口調になってしまった俺。
言ってしまったあと、『ああ、こんな言い方するんじゃなかった…』とか、『ああ、なんでこんなこと言っちまったんだか…』って、すっげぇ後悔するっていうのに。
コイツの顔を恐る恐る見上げれば…なんだか、複雑な表情をしていて。
「…あ、の…わりぃ。」
そう、言うしかなかった。
あとからくる、罪悪感。気まずくて、コイツの顔を直視できない。
…くそ。かっこわりぃ。
「…なるほどな。…ってことは、お前は私に無視されるのは、辛いってことか」
「…!……ああ、まあ…そうなのかも…しんねぇ」
ズバリと当てられた。
随分、弱気になってしまった声。その声に、情けねぇなって…なんか笑えてくる。
ふとコイツの顔を見上げてみれば、深く俯いている。
ああ、呆れられたかもしれねぇ。俺、終わったな。
諦めにも似た、なげやりな気持ちになった。
するとコイツは、俯いていた顔を上げ俺を真っ正面から見据えて、そして…こう言った。
「…だったら、お前は…私と同じなんだって、思ってもいいのか?」
…え?
いきなりの予想外な言葉に、脳がついていけない。
「…それって、どういう…」
そう、言いかけた瞬間。
それまで一定に保たれていた俺との距離を、ぐっと縮められ…いつの間にか、あんたの顔がかなり近くにあって。
「…お前が、」
そう言って、更に近づけられた顔は…俺の耳元で止まった。
信じられないこの状況。
思わず、唾を飲む。
心臓はバクバクで…今の俺に、余裕なんて全然、なかった。
「お前が、私をどう思ってるか、正直な気持ちが知りたかった」
…俺の…正直な、気持ち?
「…私は、お前にそっけなくされると…辛くなるんだ。…嫌だった、お前に冷たくされるのは」
「…!……おい、それって…」
それって…もしかして、俺のこと…?
これ…俺、自惚れてもいいのか?
そして、さっきよりももっと、壮絶に甘い声で…囁かれた、言葉は。
「だから…お前に、し・か・え・し」
耳元で息がかかって…背筋が、ゾクっとした。
「……テマリ」
やっとの思いで絞り出した、あんたの名前。かっこわりぃけど、かなり震えてる。
「…なんだ?怒ったのか?」
そう言ってあんたは、さっきまでとは違って、ニヤリと口角を上げてみせてきて。
そんな顔して…年上ぶりやがって。
俺の顔が今、かなり真っ赤になっていること、わかってるくせに。なんで、赤くなってんのかも…わかってんだろ、あんたなら。
あんたにはいつだって、すっげぇ余裕な顔されて、…そして結局は、気づかされるんだ。
――ああ、いつまでたっても、やっぱり。
「……降参。」
俺は…あんたには、敵わないみたいだ。
say“give up.”
俺にとってあんたは
やっぱり、どうしても
勝てる相手じゃ
ない…らしいな。