「…つーか、ムリ。」

ブーイングが響き渡る中、オレは頬杖をついて断固として頷かなかった。


「今更あの人に んな恥ずかしいこと言えるか。」
「だぁぁからそれじゃ駄目なんだってばよ!!」
「そんなのプロポーズじゃないわ!テマリさんが可哀想!!」
「そうよ!」


今ネタになっているのは昨日から引っ張る結婚話。からのプロポーズについて。


「そんなの絶対認めないからね!!」
「テマリさん女の子なのよ!」


男陣よりも遥かに立ち上がったのは女陣。女はそういうのを好むのは知っていたが、面と向かってあの人に




結婚してください




なんか言えるわけがない




「シカマルよー。そりゃ、オレだって恥ずかしいけど 人生の一大決心だぜ?そんな中途半端でいいのかよ。」
「…」


いつから んな一丁前な事を言うようになったのかは知らないが、ようよう結婚を決心した人間に次から次へと



頭が痛くなってきた。



けど、このままじゃ情けない。




「プロポーズまでの事なら任せてよ!」
「は?」
「大丈夫!私にいい考えがあるから。」
「ちょ、おい…勝手に決めんな」
「いつまでもぐずってるからよ。みんな耳かして!」
「おい、いの…痛っ」
「馬鹿!アンタもよ!!」




千切れそうな程強く耳を引っ張られ、そして変な話を叩き込まれ 数時間が経ったのちに場を解散した。


いのがたてた計画に結局同意したものの、後ろめたい気持ちは未だに残っていて



それよりも、心臓の爆音しか考えられず 時が来たときの事を考えると、恐らく耳まで真っ赤な自分が居るだろうと思った。

















一方、シカマルの家に向かったテマリは玄関まで行ったのだが、ヨシノにシカマルは不在だと伝えられ ひとりで商店街を散策していた。


(明日も会いに行くと言ったのに、)


少しふて腐れた顔をしながら歩いていると、突然 背中を叩かれテマリはゆっくりと振り返った。


「…山中。」
「お久しぶりです!来てたんですね」


少しのはしゃぎようを見て、テマリは 自分が此処に来ていることはシカマルから知らされていないのだと考え、

(まぁ、それもどうでもいいか)



と そんなことを考えている内にいのは突然ポケットから紙切れを取りだし、テマリへ差し出した。



「なに、これは…」
「書かれてる処へ向かってみてください。そうすれば分かると思います。」


状況が分からないテマリはとりあえず四つ折りにされた紙切れを開いてみる。




そこには「特別美味しい甘味処」と書かれていた。



「ん、どういう意味…」

紙切れから目を離し、顔をあげるとさっきまでテマリの目の前に立っていたいのの姿はどこにもなかった。


(何なんだ。何かのゲームか?)


不審に思いながらも、とりあえず足を進めてみる。紙に書いてある内容、「特別美味しい甘味処」について テマリがおおよそ思い当たるのは彼処しかなく、早足でその場へと向かった。





数十分が経ち、目の前には 予測されるであろう甘味屋の「甘栗甘」。店の前であたりを見回したが、特に変わった様子はなく テマリは店の中へ足を踏み入れた。


「…何なんだ。何があるっていうんだ。」


店の中で首を動かしてみるが、ただただ一般客が団子を食していたり 雑談をしているようなだけ。どうすればいいのかも分からず店を出ようと引き返すと、突然 背後から肩を叩かれた。

振り返ると 全く知らない女の人が紙切れを手にして立っていた。


「これ、アナタに渡してくれって頼まれたんだけど。」

そう言われて手渡された四つ折りの紙。

「誰に頼まれたんですか?」
「…それは秘密だって言われたから。」


渡してくれた女性本人もこの場の状況はよく把握していない様子を感じ、テマリはそれ以上は何も言わなかった。


とりあえず店を出て紙を開いてみる。そこには「空腹時にはラーメン」と書かれていた。

「汚い字だな…」

ようよう読み取れたミミズ字はそう示しており、前にシカマルに紹介された一楽へとテマリは向かう。


(誰の目的だ…?)

考えても中々思い付かず、頭もウダウダとしてきたテマリは 少し重いため息をついた。









「へいらっしゃい!お一人様かい?」
「…あ、いやちょっと別のようで」


テマリがそう途中まで話すと、察したのかテウチはポケットから紙切れを取り出した。

「…またこれか。」
「君が噂の、ねぇ。確かにしっかり手渡したぞ。」
「はぁ…。」


店を出て、四つ折りにされた紙を開く。そこには「ところで火影様のところへは行きましたか?」と書かれていた。


「はあ?ったく何なんだよ!」


先程からかれこれ3度目になるテマリは次第に苛々していた。右往左往させられ、終わりのないような紙切れを渡され。

挙げ句には特に用のない火影様のもとへ行けというような言葉。


舌打ちしながら足早に火影邸へと向かった。







「やっと来たか。」
「失礼します。」


火影室へ入ると待ちくたびれたかのように綱手が椅子に深く腰かけていた。

「これを渡せと頼まれてね。ったく私も忙しいというのに」
「あの、これは一体何なんでしょうか。」
「あーそれは秘密だよ。ほら行った行った、後に分かるんだからもう少し頑張りな。」

半ば強制的に放り出され、扉の前で立ち尽くす。4枚目となる紙切れを開いてみると、次は「上を見て。資料室。」と書かれていた。

検討もつかない、繋がらない言葉に遊ばれるようにテマリは指示にしたがいひたすら紙切れを探した。






それから資料室の天上に貼り付けられた四つ折りの紙切れを見つけ、直ぐ様開く。


「説明しなくても分かる宿の受付。」

その言葉を読み取り テマリは火影邸をあとにし、宿泊している宿へ向かった。そこで同じように受付の人から紙切れを渡され、その場で開く。



金の下。金とは駒のこと。






「は…?どういう、」

何のことだかさっぱり分からないテマリだったが、街中を歩き続ける内にピンと頭に浮かび 急いで其処へ向かった。











「…あった」

息を切らしながらテマリが辿り着いた場所はシカマルの家。そして縁側に置いてある将棋盤へ駆け寄り、駒の下へ置かれてある紙切れを見つけた。



次は何処だろうと考えながら紙切れを手にして、開いてみる。





今までの頭文字を順番に読め





そう書かれていた。



















あの人は来るんだろうか。



そんな事を考えながら、昔からのお気に入りの場所でオレはおちかけの夕日を眺めていた。時折顔を横へ向けてみるが、階段から彼女が現れる様子はない。


さすがに暗くなったら帰ろうと、適当に考えていた時だった。





反射的に肩がピクッと揺れた。






「…やはりお前だったか。」

少し息を切らしたテマリが階段から姿を現した。ピリピリした雰囲気を醸し出す彼女は恐らく不機嫌。

苦笑いしながらオレはテマリへ歩み寄った。






「よく分かったな。」
「お前こそ、こんな手の込んだ事をしやがって。」

どん、と肩をどつかれ睨まれたが 笑うしか出来なかった。



「…アンタに話がある。」







ここまできたら、言うしか ない。





心臓は今まで以上に跳ね上がり、息をするのが必死だった。




「何を、」


「…遠回しに言うのは格好ワリーし、気取ったことも言えねえから単刀直入に言う。一度しか言わねえからな。」

「……ああ、」























「結婚、しねぇ?アンタが欲しい。」














自分が今何を言ったのか、解ってるけど 分からない。




ただ、裏返らなくてよかった。とか


かんだりどもったりしなくてよかった。とか





兎に角頭が可笑しくなっちまいそうで。そんな自分も次第に冷静になり、テマリの様子を窺うと 目を丸く見開いて口をぽかんと開けていた。



「……単純すぎ?」


それとも、したくないのか。何も喋らない彼女に困惑しながらどうしようかと考えてギョッとした。


「な…何で泣くんだよ!」

普段 必ずと言っていい程見せないテマリの涙。声もすする音もなく静かに雫をこぼした。



「…ずるい。」
「は?」
「許さないって決めていたのに。この為だとされたら許す他なくなるじゃないか。」
「…んだよそれ。」
「悔しい…」










──……悔しいくらい、嬉しい。




静かに呟いた彼女はゆっくりと涙を拭って柔らかく笑った。







-了-
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