ある昼下がりに珍しく同期のメンバーの顔が揃い、適当に茶屋で下らない話をしている時だった。

「ブッ…!」
「うわ、シカマルきたねーってばよ!」


突然、目の前に座っていたキバの言葉に、口に含んだ茶を吹き出してしまった。

「キバ今何つった?」
「だから、お前らに結婚願望はねーのかって言ってんだよ」


2度目のキバの言葉を聞く限り、空耳ではない。オレは言葉も出ずに呆気にとられていた。

「そろそろどっちかに落ち着いた方がいいんじゃねーの?」

砂か、木ノ葉か。と呟いたキバは 珍しく面白がっている様子ではなかった。ただ、相変わらずな奴等は奴等でちゃんと存在しているわけで。

「お前らついに結婚すんのか!?」
「バカ!声がでけーんだよナルト!」
「えっ!シカマル結婚するの!?」
「はァ!?聞いてないわよ!!」

ほらみろ、と言わない内に女の方は此をネタに盛り上がりはじめてしまった。


「わ、わりーなシカマル」
「ったくめんどくせー。」

ナルトとそんなやりとりをしながら、何となくぼんやりと考えてみる。結婚願望は、言われるまでは頭の片隅にもなかった。任務や仕事に追われ、多忙な日々。そんな事を考える暇もない。それに、今の関係が一番いいんじゃないのか と正直に感じていた。


「えらい悠長だな。」
「ちょっとー、めんどくさいからなんて言ったらぶん殴るからね!」
「んなこと言わねーよ。」
「シカマル、結婚したらずっと一緒にいれるんだよ。」
「結婚だなんて素敵じゃない」
「…」
「一番大切な人と一緒になれるほど幸せなことなんてないだろ。」


確かに それはそうだ。


「放っといたらアンタ何時まで経ってもケジメつけなさそうなんだもん」
「今よりもっと楽しいんじゃないかな、きっとね。」
「チョウジ…」
「テマリさんも女の子なんだから、絶対考えてるわよ。」
「もしかして待ってたりしてね。」

…テマリは、




どう思ってんだろうか。
そういうことを考えたりしているのだろうか?


「男ならビシッと決めていきましょう!」
「お前が一番ってのは気に入らねぇけどな!」
「なんだそれ…」
「どうすんだ?シカマル。」

メンバーの視線を四方八方から感じながら、黙り込んだ。オレ自身 後悔 はしないだろうか。
まだ早い、そんな気もするのだが あの人の事を考えれば、いつも会いたくなるのが本音だ。数ヶ月に会えるか会えないか、もどかしい距離がなくなると思えば こんなに苦労することもない。


「…けど、たった今考えて する。なんか言えねーだろ」
「出た。冷静な屁理屈」
「お前、テマリと会ってなくて今何ヵ月だ?」
「3ヶ月、ぐらい」
「寂しくねえの?」
「……別に」
「ケッ、つめてー男だな。」


うるせえ、と突っ込みながら ふいに外に目をやると、視界に入ったある人物に思わず目を見開いた。

「テマリ…」

ぼそ、と呟きながら目を反らさないでいると え? と声があがりながら周りの連中も外を見始めた。
向こうは気付いている様子がなく、背を向け遠ざかっていく。

「…あ、シカマル!?」

気付いたときには走り出して、彼女の背中を追った。


──寂しくねえの?

──………別に





寂しくない、わけがない。


「テマリ!」
「…?ああ、シカマルか。」


振り向いた彼女の顔を見たのは3ヶ月ぶり。久しぶりすぎて、少し緊張感がはしる。


「久しぶりだな」
「ああ。今日は何の用で来た?」
「ん?いや、我愛羅に長期の休暇をもらったからな たまには仕事とは別で息抜きに木ノ葉へ来ようと思ってな。」
「…そうか」


何処か嬉しそうな顔をするテマリを見て無意識に眉間に皺を寄せる。

「迷惑か?」
「は?何で。」
「お前の家に向かってたところなんだ。」
「!」


予想外の言葉に 再び目を見開いた。


「…だが、何だか楽しそうだから遠慮しとく。」
「は?」

オレの奥を覗くテマリに気付き、後ろに目をやると

店からこちらを覗く同期のメンバー。


「団子食ってたのか。」
「ちげーよ。」

…いや、違わないのか。
この状況に少し動揺している自分がいる。このままこの場にいると 後ろからからかいの声が飛んできそうだと感じ、テマリを連れてその場をあとにした。






「相変わらず、木ノ葉の里の空気は好きだ。」
「そりゃどーも。」
「少し、自分の里が恋しくなることもあるけどな。」

隣を歩く彼女は色々な物を物色しているようで、いつになく楽しそうだった。

さて、これからどうしようか。
テマリを連れてきたのはいいが、目的地もくそもない。そのうち 何処に行くんだ。と 突っ込まれてしまったら、と考えながら 取り敢えず適当な道を歩いていた。


「ん、ここは。」
「あー…」
気付けば目の前にはオレの特等席。無意識にここまで来ちまったみたいだった。


「…いい眺めだ。」

柵の方へ歩いていったテマリは風を感じながら遠くを見つめていた。そんな彼女のもとへは行かず、オレは長椅子へ腰かけ 遠くからテマリの横顔を見つめる。


「…アンタ、滞在期間は?」
「3日。明日もお前に会いに行っていいか?」
「別に…好きにすれば。」
「フン。可愛くない奴」
「うるせー」


可笑しそうに笑いながら歩み寄るテマリは オレの隣に力が抜けたように腰かけた。

ゆるやかな風が吹き、テマリの匂いが鼻を掠め 少し鼓動が速くなる。何処となく緊張しているのは、久しぶりすぎるからなのか



それとも 先程あんな話をしていたからか。


「なぁ…」
「ん、何だ?」
「……」


──アンタ、結婚 とか考えてみたりしたことあるか?


すぐそこまできて グッと息を呑んだ。こんな話 本人になんか出来るわけがないだろ、バカかオレは。

ちらりと横目でテマリを見ると、怪訝な顔をして首を傾げていた。


「何だよ、先が気になるだろ。」
「やっぱ何でもねえよ」
「気持ち悪い、吐け。」
「悪い。忘れろ」

教えろ と一点張りのテマリに対し、オレも頑なに首を横に振った。口にした時の空気を想像すると恐ろしくて背筋がゾッとする。


「…それに、出来ねえ歳じゃねえんだよな。」

まだ出来ないのなら そんな話をしても ほんの夢 だと、そこで終わるかもしれない。


「シカマル。」
「…んだよ。」





「私ら、関係をもって随分経つと思わないか?」
「ああ、まあ 確かに」
「お前はさ、その先を考えたことがあるか?」
「……………え?」



突然のテマリの言葉に、どう返事をすればいいのか 頭が真っ白で考えられない。彼女の目は、微かに揺れているようで なんとなく心情が伝わってきた。


「……ある、けど。」


ついさっきまで そんな話してたし。と呟くと、驚いた顔で自分を見つめるテマリ。
オレがそんな事を考えているのは意外だったんだろう。


「…そうか。」


少し俯いたテマリはそのまま反対方向を向いてしまい、その場は沈黙になってしまった。話の続きをしようとは思わず、モヤモヤしたまま そのまま時間は流れ、やがて日がおち オレはテマリを宿まで送っていった。











「あらー、シカマルじゃない。テマリさんは?」

花屋の前を通りすぎる頃に、タイミングよく姿を現したいのは 笑顔を振り撒いてオレの背中を勢いよく叩いた。


「いってーな…」

リアクションをとるのも面倒だからと、そう呟くように発して振り返る。どことなく空気を察したか、いのは苦笑いで一言謝った。


「元気ないわねー、テマリさんとせっかく会えたのに。」
「…別に。」
「結構長く居たのね。何話してたの?」
「何って、」


他愛もない話。それから、



「………」
「シカマル?」
「………」
「ねえってば、」
「…いの」
「な、何よ。」




「…結婚、もし したらの話だぜ?」
「う、うん。」





「あの人は幸せになんのか?」


オレなんかと、この先を。



そう考えてみると、一気に不安が押し寄せる。今も昔も変わらねえ、イケてねーオレが。まだ届いてもいないあの人と。



「…いや、やっぱ「テマリさん。すっごく幸せだと思う!」







そう言っていのは満面の笑みを見せた。



「支えるのも支えられるのも怖いかもしれないけど、大好きな人とだったら私は頑張れるけどな。」

そう言ういのはオレに歩み寄り、肩を力強く叩いた。


「いって…」
「アンタねぇー、普段男が女がって煩いんだから男ならビシッといきなさいよ!アンタみたいな奴、テマリさんぐらいしか相手にしてくれないわよ。」


テマリさんが相手にしてくれてる事が奇跡かもしれない と余計な一言をつけたし、いのは笑った。


「じゃあ、明日皆を呼んで作戦会議ね!」
「…は?」
「アンタの気が変わらない内に」
「ちょっ、待てよ!オレはまだ決めてね「はいはい、お店閉めるからまた明日ね〜」
「おい いの!」


叫びも虚しく、いのは家の中へ入っていってしまった。とんだ発言をしてしまった事に後悔する。


こんなの、後戻りきかないに決まっている。


「…マジかよ。」





その場で ため息をついて空を見上げた。









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