世界が、止まったのだ。
先ほど言われた言葉を頭の中で反復しながら、一度瞬きをする。口を薄ら開いて我ながら情けない表情をしていると思う。
だけれども、そんなことを気にしている場合ではない。その間にも目の前の愛妻は長いまつげを震わせながら頬を薄紅に染めて、だけど青い顔をして俺の返事を待っている。
両手を愛しむ様に下腹部に当てるその意味を、俺は先ほど知ったというのに。……昨日から少しおかしいとは思っていたのだ。声をかけるとやたらびくつくし下腹部を撫でる手をとめようとはしなかった。腹痛かと聞けばそうではないとごもるし、しまいには毎晩のようにやっている……まぁその、……情事でさえも拒まれてしまっ ていたのだ。
そうか、その理由が、これだったのか。すべてをゆっくりかみしめるように理解して、一度目蓋を閉じた。

「……テマリ」

愛しい人の名前を呼ぶ。うつむいていた顔がこちらの目を捉える。うっすら潤んだ瞳が彼女の心の不安を感じさせて俺の涙腺をくすぐる。あぁ、違うんだ。そんな顔しないでくれたのむから。俺がその顔に弱いの知ってるくせに。
座っている彼女にゆっくり近づいた。先ほどまでキッチンで入れていたコーヒーのことなんてすっかり忘れて。頭を一撫でして、こめかみに口付ける。細っこい、両手に左手を当てて、今日はじめてみる至近距離の彼女の顔を見つめる。

「っおれ、しあわせで、しにそうだ……!」

声を出せば情けないほど震えていて、恥ずかしくて彼女の肩に顔をうずめる。下腹部から離れた彼女の片手が、俺の頭を撫でる。
「ばかだなぁ、お父さんになるやつが泣き虫で、どうするんだ」
そういいながら自分も泣いてるくせに。そう思ったけど何も言わずに愛しい妻とわが子をまとめて抱きしめた。
幸せで蕩けた朝の中、キスをする。いまより幸せな未来への形が、俺たちを呼んでるような気がした。


終わり
まさかの夫婦&懐妊ネタ

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