▽▲ 焦れったいシカテマ



彼奴が私の案内役を来る度務めるのも、もう慣れてしまった。

今じゃ 彼奴じゃないと、つまらないと感じたり。


特別視。しているわけではない。彼奴はただの木ノ葉の中忍。そして私は砂の上忍。


だが、そんな私の感覚も何時やらに覆された。そんな気がする。




「はあ…」


今回の会議はやけに力が入っていたと、本部の外へ出て風に当たりながら溜め息をついた。

こうして使者として、役に立てるのは嬉しいが 本音は疲れる。
上忍としてそうも言っていられないのだが。

「…」


扉の横で座り込んで居眠りをしている平和ボケのこの男を見ると、そんな刹那る想いが込み上げてくる。


「ったく…」

だらしがないし、どうしようもない。面倒見がいいと 以前カンクロウに言われたが本当にそうかもしれない。

昔は何事にも淡白で、今のこの状況あれば放っといて宿へひとりで帰るだろうに。


「おい、起きろ」


立ったまま膝で身体を揺すってみるが、起きる気配がない。

時々、甘ったるい声で唸ったかと思うとまた寝息をたてている。


困ったもんだ、この男は。


「…おい!」

しゃがんで先程より強くそう呼んでも、起きない。観念した私は無駄な労力だと隣に座って空を仰いだ。

いつの間にか私にも諦め癖がついたかもしれない。だとしたら、厄介な虫だなコイツは。


「…」

横ですやすやと眠る男をちらりと盗み見る。


厄介な虫。だが、離れたくない。

こうして近くに居れる事が素直に嬉しくて、そんな素振り コイツには断じて見せる事はしないが胸の内でしっかり自覚している。


───好き、という感情を。


かといって、気持ちを伝える事も出来ず。大胆、だとか淡々としている。とか。

よく他人からそう評価されがちだが、本来こんな私の姿を見てみろ。可笑しくて笑ってしまう。




「…奈良、」


普段呼ばない 彼奴の名前を口にしてみる。

それだけでくすぐったいのに、隣に本人が居ると思うと 更に胸が高まる。
どうにか気持ちが伝わらないかと、時間があればよく考えてしまう。

好き、だとサラリと言えたなら。


「…」


人混みが多くなれば無言で立場を代わってみたり、一歩先を歩いてみたり。

困って居ると、何故か彼奴はそれにいち早く気付く。


普段、女は面倒だと ブツブツ文句を言うくせ に何かと女を優しく扱って。


そんな姿に気が付けば悔しいほど恋い焦がれてしまった。

もう、何をするにしても 奈良が居たら。とか、こいつの事ばかりで。

私だけの一方通行だと、認めたとき何れ程悲しかったか。


偶々手が当たった時も、彼奴は何くわぬ顔で歩いているだけだった。私は高まる鼓動で意識がとんでしまいそうだったというのに。



「奈良…」


しんと静まり返ったこの場でもう一度名前を小さく呼んでみる。

なあ、とか お前、しか普段言わないから 寝ている内になら言える。


だから。


「んん…」

突然反応するかのように、こもった声でモゾッと動いた奈良は 眉間に皺を作って唸り始め


それも束の間、再び寝息を立て始める。


一体何時まで寝るつもりだ、コイツは。


「ったく…」

いい加減痺れも切れ、叩き起こそうと身体に触れようとした瞬間だった。






「…テマリ」


ぽつりと呟いた奈良の声は、こもっていたが ハッキリと聞こえた。

「え…」


行き場のない手は固まったままで、頭の働きも鈍くなる。

気のせいでも何でもない。確かにコイツは今、私の名前を呟いた。


胸の騒ぎが、おさまらない。


私の夢でも見ているんだろうか?

そう考えると、更に胸が騒ぎ始めた。



「テマ…」

もう一度私の名前を呟いた頃に、突然手を掴まれ 思わず息が止まる。

私の手を掴んだのは、恐らく偶々だろう。だが、


何の夢を見ている。



「…ん?」

意識もすっかり戻ったのか、ゆっくり顔を上げて目を覚ました奈良は、私と掴んでいる手を交互に見た後に 大声を上げて立ち上がった。


「わ…悪い…!!」

切れ長の目を丸くして、徐々に紅潮していく顔は素直に驚いていた。

「…別に、いいよ。行くぞ」


こっぱずかしくて顔を逸らして立ち上がる。行くぞ、とは言ったものの 足が前に出なくてふたりしてその場に留まっていた。


「…オレ、いや…何つーか」

取り敢えず、やべーな。と頭を掻きながら呟いた奈良は柄にもなくひとりで忙しない動きをしていて

そんな姿を見て、つられるように私も視線を泳がしては 普段触ることのない前髪をといてみたり、服装を整える真似をしてみたり。


「アンタが呼んだ気がしたからよ…あ、つっても夢の中だけどな」
「…ふーん?」
「いや、その…」

此処へ来る時や、今までに こんなにも胸が煩くなったり気まずく思う事なんかあったか?と考えてみる。

どうも今の私も、奈良も。可笑しい。


「…オレ、口に出してたか?」
「な、何を?」
「いや…テマリ、て。」
「う、」


そんな、そんな 顔を真っ赤にして呼ばれたら どうすればいい。

きっと、いつもは彼奴もアンタ呼ばわりだからだ。私の名前を呼ばないし、私も 奈良 とは言わない。


「呼んでいたな…そう言えば」

出来る限り平常心を取り繕って、そう口にしてみるが 多分無意味だ。顔が果てしなく熱い。

盛大なため息をついた奈良は壁にもたれ掛かり、空を仰いでいた。

恐らく、奈良にも同じように余裕はないから 私のそんな行動には気付かないだろう。


「宿まで送ってくれ」
「ああ、」


重たいのか軽いのか、いまいち分からない足取りで ギクシャクと歩く。隣にコイツが居るだけで、おかしくなりそうだ。


「あっち…」

顔を背けながらそうぼやく奈良を見つめながら、考える。


お前を好きだという、この感情を どうしたらいい。

伝えるべきか?いや、それにはかなりの勇気がいる。

世の恋人たちはどうやって 結び付いたんだろう。


お前はどう思っている。

奈良 シカマル。



何なんだ、この居たたまれない程の緊張感は。どこから湧き出てくる。


「団子屋、近場にあるけど寄るか?」
「いや今日はやめとく…」
「ああ…だな」


額から流れる汗を拭おうと手を挙げる。

「「!!」」

その瞬間に 手が触れ合い、慌てて手を胸に引き寄せると、また何とも言えない空気が流れ始めた。

ああ、もう 一体どうすればいい。


私らしくもなければコイツらしくもない。



ちらりと横目で奈良の顔を確認すると、煮詰まったような 難しい顔をして考え込んでいるようだった。



「じゃ、明日見送り行くんで」
「すまないな。」


宿の前で立ち止まって一言交わす。中に入ろうとは思うのに、奈良の目とぶつかった瞬間にタイミングを逃し 再び動けなくなった。


「アンタ入らねぇの?」
「…いや、入る。入るんだが」

まだ昼間なのに、勿体無い気がして。


もっとコイツと色んな話をしていたいと思ったりして。


「見送り、本当にいらないぞ?」

だがそんな本音を裏返したような言葉しか出てこない。


奈良の顔を見ると、仏頂面で目線を下へ落としていた。


「…あのなぁ、オレも任務だからよ。地形はある程度知ってんのかもしれねーが、木ノ葉で何かあったら困るんだよ」
「いやだが…」
「うるせー。アンタは黙って頷いてろ」

横暴な言い方でそう言った奈良は片手を挙げて去っていく。そんな後ろ姿を見ながら、直立不動。

だがそれも束の間、無言で奈良の隣まで走った。


「何かあんの?」
「団子屋に連れてってくれ」
「…はぁ!?」


今はお前の気持ちを考えるのはやめる。それが私の一方通行だとしても、今こうして居るのが任務上だとしても、普段会えないと思うと それでもいい。

出来れば気持ちを伝えたいが、戸惑う内はやめておく事にした。



「あ、期間限定なんだってよ」
「バカ!!そんなものは早く言え」







「…鈍い」
「本当、見てるこっちが苛々する。」
「言いにいってもいいかしら?」
「駄目よ!それはシカマルとテマリさんの問題なんだから!」
「だってー…あのままだと一生無理なんじゃない?」
「任せて!シカマルに恋が何なのかこの私が教えとくから!」
「そうね、そうして。」
「だけどねー…」
「お互い一緒に居たいのを遠回しに喋ってちゃ、鈍いんだから気付かないわよね」
「シカマルのバカが…!」
「あと少しなのに、こっちがウズウズしてくるわ!」
「ほんと…」
「…」




「「はぁー…」」



-了-



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