※学パロでサスケが女子高生





 今日は朝から雨だった。
 土砂降りではなく、しとしと、梅雨に降るような雨が昼過ぎまで降り続いていた。もっともまさしく梅雨に降っている雨なのだが。放課後になった今でも一部の晴れ間もなく厚い雲が空を覆っている。
 サスケは教室から空を見上げて少し嬉しそうに口角を上げた。放課後になり、あとはもう帰るだけ。部活に所属していないサスケは鞄を手に取り後ろに振り向いた。桃色の髪を揺らすサクラの姿が見えず、教室を見回す。首を傾げていると後ろから衝撃と共に胸へ何かの感触。

「……いの」
「あれ、バレちゃった? あんまりサスケくんが可愛い仕種してるからつい、ね!」
「つい? つい、で後ろから抱き着いて人の胸をわしづかむのか?」
「掌に余るくらいがちょうどいいと思うの」
「聞いてねえよ」

 いのがにっこりと笑いサスケの前に周り込む。危うく下着が見える、と思うほど短いスカートから脚が惜し気もなく晒されている。

「サクラ、探してるんでしょ? さっき先生に呼ばれてたわよ、すぐ戻ると思うけど」
「そっか、さんきゅ。いのは部活?」
「どういたしましてー! もう予選始まるしね、練習あるのみよ」


 快活に笑ったいのはサスケに手を振って教室を出て行った。さて、サクラはどれくらいで帰ってくるのやら、とサスケは携帯を開いてメールを確認してみる。新着メール3件、サクラからのメールはない。メールを開くことなく携帯を閉じた。

「あ、サスケくんまだいた! よかったー待った? ごめんねーこれから委員会あるらしくて。先に帰ってて?」

 走って戻って来たサクラは口早にそう告げた。じゃあ先に帰るな、と言うとサクラは笑ってバイバイ、と走って行った。委員長は相変わらず忙しいようだった。
サスケは振り返ることなく教室を後にした。










 人が少なくなった教室には廊下から聞こえる生徒の話声や物音がやけに響く。シカマルは椅子から立ち上がって鞄を手に取った。

「シカマル、帰んの?」

 日誌を広げたキバがシカマルを見上げた。男子高校生が首を傾げて上目遣いをしても心に響くものは何もない。帰る、と返して、じゃーな、と続けた。

「カウンター当番は?」
「先週やったろ。そうそうあってたまるかよめんどくせー」

 図書室のカウンター当番は先週やったのでシカマルに回ってくるのは来月になる。部活は入学時から所属するつもりもない。図書委員になるつもりもなかったが、役員決めで居眠りしていた罰であえなく抜擢。正に自業自得。しかし当番さえ当たらなければ暇人同然。

「あ、シカマル」

 呼び止められだらだらと振り返り視線で続きを促す。窓の外からは部活に勤しむ生徒の声が聞こえる。昼過ぎまで降り続いていた雨にも関わらず、グランドで部活をしているらしい。

「ナルト知らね?」
「……イルカ先生に呼ばれてたな。テストのことで。遅くなるぜ、多分」

 嫌そうな顔をしながら連れて行かれたナルトを思い出してにっと笑う。呆れたように笑ったキバはしょうがねえやつだ、とこぼした。書き終えた日誌を閉じ、キバはスポーツバッグを肩にかけて立ち上がる。

「部活行くわ」
「そか。じゃーな」
「またなー」

 キバの背中を見送って、シカマルもやっと教室を出た。時間帯からして部活がある生徒は部活へ、帰宅する生徒は既に帰宅している。辺りを見渡せばジャージやTシャツ姿の生徒ばかりだ。のんびりと靴箱まで歩いていると、視線の先にサスケを見つけた。
すらりと細い脚を晒しながらも短すぎないスカートの丈からは何故か気品が感じられ、ぴんと伸びた背筋は遠くから見ても凜とした雰囲気を醸している。女子にしては少しばかり高い身長と整った容姿が相俟って男子生徒ばかりでなく女子生徒からも人気があり「サスケくん」と呼ばれるほどの彼女だが、その整った横顔は些か困ったように見えた。
 シカマルの足音に気付いたのか、サスケが顔を向ける。ばち、と目が合い二人は動きを止めた。聞こえるのは僅かな呼吸音と自分の鼓動。目を反らそうにも瞳に引き付けられ、瞬きすら出来ない。

「……あーと、何やってんだ?」

 シカマルはやっとの思いで言葉を紡ぎ出した。ふいとサスケが顔を反らし、傘立てに視線を落とす。半分くらい埋まった傘立てにさ迷うように伸ばされた手が空を切った。

「傘、が」
「傘?」
「…傘がなくて」

 眉を寄せたサスケに歩み寄り、肩越しに傘立てを覗き込む。が、サスケの傘がどんなものか、シカマルは知らない。

「どんなやつ?」
「空色の」
「空色、な…」

 傘立ての中には青い色の傘は一本もない。他の傘立てに目をやるといくつか見てとれるが、それではないのだとサスケは首を振った。傘が盗られる、なんてことはたまにあることだ。シカマルが使う傘は透明なビニール傘だからなおさら。その傘もシカマルが誰かのものを勝手に拝借したものだから他人のことはとやかく言えない。

「せっかく見付けた傘だったのに」
「気に入ってたのか」
「そ。これだって思う色の傘中々なくて、探し回ったやつ」
「こだわりでもあるのか?」
「雨が降って雲で見えなくなる空を、傘で切り取って、独り占めにすんの」

 楽しそうに薄らと笑みを浮かべたサスケは空を見上げる。厚い雲がこれでもか、と密集してとてもじゃないが空なんて見えそうにない。仕方なさそうにサスケは肩を竦めた。
 ごそ、とほとんど中身のない鞄に手を入れたシカマルは目当ての物を掴み出した。いのが以前買って寄越した折り畳み傘はシカマルが思う空色で。

「もしかしたら、誰かサスケが空を独り占めしてんの見て、嫉妬したのかもな?」
「かもな。あーあ、残念」
「なあ、」
「ん?」

 取り出した折り畳み傘を開いて、差し出す。驚いた表情を見せたサスケを盗み見て、シカマルはこっそり笑った。
 サスケの傘よりも恐らく小さな傘は、それでも十分に空色だった。

「雨は降ってねーけど空は見えねーし、ちょっと小さいけど空、切り取ったぜ? 今度は盗られねーように二人占めとか、どうよ?」
「…いいな、それ」

 歯を見せて笑ったサスケは可愛いという形容がぴったりで、シカマルは顔が熱くなるのを感じた。傘に入ったサスケとの距離は思った以上に近く、甘いような爽やかな匂いがシカマルの鼻をくすぐる。少しの身長差はサスケを僅かに上目遣いにさせ、シカマルに追い討ちをかける。顔色をころころ変えるシカマルにサスケはくすくすと笑った。笑うな、と耳元で聞こえた低い声に心臓が跳ねたが気にしないことにしてサスケはまた笑った。
 あ、とサスケの気を逸らすようにシカマルは声を上げた。何かを見付けたようなシカマルの視線に、それを追って顔を上げる。その先には雲の僅かな切れ間から、光が降りてきている。

「あれ、なんて言うか知ってるか?」
「光? 知らない」
「天使の梯子って言うらしい。今降りてきたんだな」
「へえ、なんか幸せになれそう」

 ふ、とサスケは笑ってこっそりシカマルのシャツの裾を掴んだ。シカマルは気付いていない振りをして歩き出す。
 小さな幸せを運んできた天使に心の中でありがとうを告げて、切り取った空を見上げる。二人だけの空は一見狭そうにも見えるが、二人には時々肩が触れるだけの十分な広さがあった。






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二人ともきもちわるい^^^
 
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