※付き合う前の話





 アカデミーに通っていたころや下忍だった時代にはさして意識もすることはなかったけれど、第二次性徴が訪れはじめてからというもの、男女の身体の差が如実に表れはじめた。そして十代後半に差し掛かるころにはオレの身長もそれなりに伸びたし(もう少し伸びると思う)身体つきも多少はがっしりしてきた。一番近くで見てきた女と言えば幼馴染のいのではある。しかしいのは小さいころから女らしいというか、一般的に言う女性らしさとは多少違うかもしれないけれど髪は長かったし見た目も気にしていたし、口調も女のそれだった。だから、いのが成長するにつれて女の子から女性と言った方がいいのか、と思うような姿になるのを見て感慨深いとは思いこそすれ女として意識してしまうとか、そういうのはまったくもってなかった。問題は、サスケだ。

 女にしては成長期がくるのが少し遅かった。同期の男連中が成長期を迎えたころにもまだ少し身長が伸びている、と本人が言っていたからこれはたしかだ。それから、当たり前ではあるのだけれど、体つきが女性のものになってきた、と思う。とくに、最近それを強く感じてしまう。下忍のころまでは服装は露出も少ない上に男と変わらなかった。というのにここ最近のサスケの服装は非常に際どい。細く締まった、それでいてつい視線を奪われてしまいそうになるくらいにくびれた腰が露わになっているし、ショートパンツを穿いているせいですらりと長く細い脚が惜しげもなく晒されている。一番目に毒だと思うのは胸元だった。五代目とまではいかないにしても、胸元が開き過ぎではないだろうか、と思ってしまう。腰は細いくせに胸は大きくて、そして少し開き過ぎの胸元は少し窮屈そうに谷間がちらりと見えていて、これでヨコシマな気持ちにならない男なんているのだろうか。それはオレがサスケをそういう目で見ているからだと言われてしまえば返す言葉もないのだけれど、かなり参っていた。下忍のころは男みたいに振る舞っていたくせに、今になって見た目がどんどん女らしくなって言って、不覚にもときめいてしまったのだ。女に触りたい、なんて思春期の男らしいことを考えながらその対象となっている人間を視界の真ん中に捉えてはあ、と大きい溜息をついた。

「辛気くせえな…近くで溜息つくなよ」

 サスケが眉を寄せて言った言葉に誰のせいだよ、と返しそうになるのを堪えてサスケから視線を無理矢理逸らす。口調は相変わらず男のものなのに、見た目は気の強そうな美女だからそのギャップにまた胸の内をくすぐられてしまう。キスしたらどんな顔するんだろうなんていう本人を前にして考えるには危険な思考が渦巻いて頭を振る。なんとも幸運なことに今この場にオレとサスケ以外の人間がいない状態で、つまり二人きりというオレ的においしすぎる状況ではあるのだけれど、実力を考えると返り討ちにあうのは目に見えていて、それに今の関係を修復不可能なものにはしたくない。オレを見てヘタレだと笑うやつがいたとしても、結局オレは一人悶々とするしかない。

「つーかなあ、お前…胸元開き過ぎだろ」
「っどこ見てんだよ変態!」

 老婆心ながら伝えたというのにサスケに変態呼ばわりされる始末だった。オレの言葉に胸元を押さえて唇を尖らせ、少し顔を赤くしているようにも見えた。指摘されて恥ずかしいと思うのなら頼むからその凶器をしまって欲しい。いつかそれにオレの理性が殺されてしまわないかといつだって不安なのだ。

「オレがどこでどうやって乳出そうが関係ねえだろ」
「乳言うな。お前な…」

 そんな言い方ではまるでどこかでは胸を露出しているように聞こえる。なんだ、そういうことなのか? 知らないところで男とどうこうなってそれをきっかけに女らしくなってきた、そういうわけなのか? そりゃたしかに恋愛したらきれいになるとかは聞いたりするし、そういう行為をしてオトナの女になると色気が増すとか、言ったりするけれど。残念ながらそれを実証しようにも近くに恋愛中の女はいないしそういう行為はしたことがないから分からない。

「お前、まあ…あれだ…自分の身体は大切にしろ、よ……?」

 口を濁しつつ、ごにょごにょと言葉を紡ぐと唇を尖らせ眉を寄せていたサスケがきょとんとした顔になる。少し首を傾げてから思い当たったのかまた不愉快そうに眉を寄せた。じとりとこちらを見たサスケはふん、と鼻で笑う。

「何勘違いしてんだよ。言っとくけどオレまだ処女だからな」

 堂々と胸を張って言ったサスケに頭を抱えたくなった。否、項垂れる頭を抱えた。そんなことは聞いちゃいねーんだよ…と思うけれど言葉を発することも出来ないくらいに脱力してしまった。安心した、というのももちろんある。しかし、それ以上にそんなことを事も無げに口にしてしまうサスケに対して強い危機感を抱いてしまう。そんなんでよくもまあ今まで純潔を保ってきたな、とむしろ感心しそうだ。

「……悪かったなまだ処女で! どうせその歳で未だに処女かよとか思ってんだろ!」

 オレが何も言わなかったことに対して馬鹿にされているのかと思ったのかサスケは少し不満そうに怒鳴った。だから女が何度も「処女」って単語使うなって。第一そんなこと言ってしまえばオレはこの歳で未だに童貞ってことになる。別に遅くはない、だろう、と、思うけれど。実際のところどうなのか、知りたくない。
 ともかく、オレは処女を馬鹿になんかしてない。それよりもサスケがまだ誰の手にもかかっていないことの方が意外だった。吉報では、ある。だからといってどうするということもないけれど。

「思ってねーよ…」
「どうだかな」

 いやそこは信じろよ。訝しげな目をしてこちらを見るサスケから思わず目線を逸らす。やましいことがあるからオレの目が見れないんだろう、と言ってくるサスケだったがまったくもってその通りだ。やましい気持ちを持っているからこんな風にちゃんと目を見ることも出来ない。どうしたものかと思っていると無遠慮にサスケの手がこちらに伸びてきた。両手でオレの顔を包んで自分の方に向かせ、固定する。視線はどうやってもサスケから外せない。目と目が合って、想いが見透かされる気がして目を細めた。途端、ばっと手を離されてほっと息をつく。

「まあどうでもいいか」
「いいのかよ」

 本当にどうでもよさそうに呟いたサスケはオレに背を向けてしまった。腕を上げてぐっと伸びをしたサスケの肩甲骨が浮き出て、思わず触れようと伸ばしてしまった手に気づき引っ込める。これだから、二人きりはいけない。誰かの目があると思えば気持ちも引き締まるというものだったけれど、どうにも二人だけだと気が緩む。一番、気をつけなくてはならないのに。

「ちょっと寝るかな、ひまだし」

 シカマルも寝る?、と振り返って小首を傾げて言うサスケに断りを入れる。その仕草が可愛くて一緒に寝るとか、そんなことは考えられない。第一何もしないという保障が出来ない。思うに、サスケはオレのことを男として考えていないのだろう。そうでなくては先のセリフは出てこない。もっとも、このセリフはオレだけでなく、同期の男に対してでも平気で言っていそうだけれど。それはそれで、面白くない。

「じゃあ、ちょっと膝貸して?」
「……はぁ?」

 上目づかいに首を傾げるなんて高度なテクいつのまに覚えたんだろうか。それからちょっと口調が女の子らしくて可愛かった。そんなことを考えていたせいでサスケの言葉の理解が遅くなって、返事が一拍遅れてしまう。膝貸すってことはつまり、膝枕ということなのだろうけれど、どうしてそうなる。オレの困惑をよそにいいだろ?、と有無を言わせぬように言ったサスケは返事も待たずにオレの座っていた三人掛けのソファーに腰掛けて、身体をこちらに倒してきた。サスケの小さい頭が膝に乗って重みを感じる。上を見上げるサスケと目が合って、心臓が早鐘を打つのが分かった。

「しばらくしたら起こして」

 サスケはそう言って目を閉じた。無防備に寝顔を晒す様子を見て相変わらず心臓は早鐘を打っている。この位置からだとただでさえ危なかった胸元がぎりぎりアウトにしたいくらいのところまで見えてしまう。いや、肝心なところは見えていないからセーフだろう。誰にともなく弁明して、また胸元に視線をやってしまうのは、男の性だと理解して欲しい。すう、と聞こえてきた呼吸音に胸を撫で下ろす。不用意に薄く開いた唇に目をやって、ぎりぎりセーフな胸元に視線を滑らせ、すらりとした脚まで眺める。
 はあ、と大きな溜息をついた。今度は文句をいうやつはいない。その相手はオレの膝を枕にすやすやと眠っている。無防備な寝姿に「据え膳食わぬは――」という言葉が浮かんだけれど、それを打ち消すために昨日指した将棋の内容を必死で反芻した。



お願いハニー
(無防備な姿さらさないで)





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