互いに仕事がある中での恋愛において、会いたいけれど会えない、そんな状況が適度に続くことは互いの気持ちを強くするためのアクセントになるらしい。会えない時間が愛を育てる、という言葉がそれを如実に表している。そして会えない時間が続き、焦がれに焦がれて胸を痛めるのが恋愛の醍醐味なのだ。そう豪語したのは幼馴染のいのだった。

「やっぱりこの切なさあってこそでしょ?」
「や、知らねー」
「なんでよ付き合ってんでしょ! サスケくんと!」

 誰にも言っていないのになぜか当然のようにサスケとの関係はバレていた。そういう素振りを見せたつもりもなければ口にしたはずもないというのに。いの曰く、分からないわけがない、らしい。どうやら論理的に理解することは難しいと判断したのは記憶に新しい。
 会えなくて、寂しい…? 浮かぶ疑問符に頬杖をついた。

「女だけだろ」
「違うわよ! あんた半端な気持ちで付き合ってんじゃないでしょーね?」
「いやあ……真面目だけどよ」


***


 そんな会話がなされたのが今日の昼下がり。少し休憩、といって紅茶を淹れてもらったときのことだ。ふわりと香った紅茶にアールグレイかと問えばそれしか知らないんでしょ、と返ってきた。その通りだと苦笑しながらカップを受け取って口をつけた。あのときの紅茶はなんと言ったか、何度言われてもぴんとこないから仕方がない。サスケの家にもたくさんの茶葉があって、いつも淹れてもらう度に名前を聞くのだけれどなかなか名称と香りが一致しないのだった。
 そういったことを思い出し、そして会話を反芻する。しかし、だ。会いたい気持ちが募りに募って苦しいと思ったことなど、一度もないというのが本音だった。
 互いに仕事は忙しい。サスケはよく里を離れてしまい、オレも砂へ行ったりデスクワークが忙しかったりで会えない時間は長いはずだ。それでも仕事終わりの夜半すぎに顔を合わせたりするものだから、会っているような気になっているのだろうか。それとも、会わなくてもとくに気にしない性質なのだろうか。
 こんなことを考えるうちに自分の気持ちが不安になった。サスケのことは、好きだ。出来ることならいつもそばにいたいと思う。サスケを前にしたら少しの距離ももどかしく思うし、キスもしたいしセックスだってしたい。サスケがオレ以外の人間と親しくしているのを見ると大人げないとは分かっていても嫉妬してしまう。ほら、こんなにも好きだと思っている、はずなのに。

 焦がれるほど会いたいと、苦しいと思ったことが一度たりともないなんて。

 オレは自分で思っているよりもサスケのこと好きではないのだろうか。もしそうだとしたら、いのの言う通りオレは半端な気持ちなのだろうか。こんな気持ちのまま、あのサスケを独占していてもいいのか、もやもやとしながらベッドに転がって天井を見上げる。電気の点いていない部屋はカーテンが開いたままで、外の街灯から僅かな明かりが入ってきて辛うじて周りを認識出来る。暗い部屋の中で思い浮かべたサスケの顔は普段の澄ました顔だった。
 今頃何をしているのだろうか、そう考えると会いたくなってしまった。数日前に任務に出たからそろそろ帰ってくる頃だろうとは思うけれど、疲れているその身体で会うというのは酷というものだろう。それから久しぶりに会うような気がするから何もしない、という自信がない。こういう気持ちがもっと長く続くと苦しくなってくるのか、ほんの少し垣間見た気がして目を閉じ、笑みをもらした。

 かつん、と窓の外で音がした気がして目を開けそちらに視線をやると人影があった。反射的に身を起こしたところでその人影がサスケであることに気付き力が抜ける。鍵を開けるとすぐに窓が全開にされ、サスケは桟に腰を下ろした。

「どうしたいきなり、任務帰りだろ?」

 任務服を着たままのサスケはおそらくまだ家に帰っていない。手首に巻かれた包帯は少しほつれているから病院にも行ってないのだろう。多分報告くらいは行ってはいるのだろうけれど。手首に視線を受けたのに気付いたサスケは大したことない、と呟いてふっと笑った。

「シカマルがオレに会いたがってる気がしてな」

 嫌味っぽく言ったサスケは目を細めて喉の奥で笑った。それは皮肉でもなんでもなく、奇しくも本当にそう思っていたものだから笑ってしまう。そういえば夜半すぎに、任務帰りだったり任務前であったり、その途中でサスケはよくオレを訪ねてきていた。それで顔を見て二、三話をするとすぐに行ってしまうのだけれど、と考えが至るとすとんと納得する心地がした。

「ああ、ちょうど今会いたくて仕方ねーって思ってたとこだ」

 オレの言葉に驚いて目を見開いたサスケの怪我をしていない方の手首を掴んで引き寄せる。窓のすぐ下にあるベッドに引き倒して、サスケが土足であるということを一瞬思い出したがまあいいかと切り捨ててサスケの腰を跨いだ。押さえていた手首から手を離して指先を絡めた。黒の柔らかい髪が白いシーツに散らばって、見上げるサスケの瞳が周りのわずかな光を反射してきらりと光った。ぺろ、と自分の唇を舐めたサスケに引き寄せられるように唇を啄んで、それから目元にキスをして首筋に顔を埋めた。空いた腕をサスケの身体の下に滑り込ませて抱き寄せ、首筋に鼻先を押し付けて深く息を吸った。

「なんだよ…そんなに寂しかったかよ?」

 からかうように言う言葉とは裏腹に優しく回された腕が宥めるように背中を撫で、頭を抱き寄せられた。ぎゅう、と抱きしめているというよりは抱きついているといったように身体の隙間を埋めた。

 どうしても会いたい、耐えられない、そんな風に思うことがないのはいつだってこうしてサスケがオレのところへやってきてくれていたからだ。胸の奥をくすぐられる感覚に頬が緩んで、笑いがこぼれてしまう。この優しさに気づいていなかったオレは相当馬鹿だな、と優しくてそれでいてそんなところをなかなか悟らせない恋人をどうしようもなく愛しく思った。



会いたいときは



元ネタは「チョコミミ」という少女漫画の『ヨルにナイト』です。とてもかわいいんです。

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