※ちょっと注意






 ここ数日、何が原因か分からないけれど、もやもやしている。今朝も起きたときからずっと何かが足りないと感じている。幸運にも任務がない時期でよかった。とてもじゃないけれどこんな調子では何かとんでもないことをしでかしてしまうに違いない。
無意識に爪を噛んでいたことに気付き、眉を寄せていびつな形になってしまった爪を見つめる。そういえば随分と伸ばしっぱなしにしていたな、と思う。いつもならもう少しこまめに切っていたのに、そう考えてぶわっと頭を過ぎったのはいわゆる夜の営みというやつだった。シカマルの背中に走る幾筋もの紅に少しの独占欲が満たされはするものの、それよりも申し訳なさが勝って切ってしまうことが多かったのだ。
 そうだ。足りないのは、シカマルだ。こんなに爪が伸びてしまうくらい、会ってない。自覚してしまうと一気に思考がシカマルに奪われてしまった。そっと唇に触れる。湿らせるように舌を這わせると、もうだめだった。頭をフル回転させてシカマルの居場所を考える。任務に出るという話は聞いていないからきっと里内でなにかしらの仕事をしているはずだ。居ても立ってもいられずに走り出す。難度の高い任務かと思うくらい本気で気配を探った。見つけた、そう思ったときには今までで一番ではないかと思うようなスピードが出ていた。
 場所は少し小さい書庫室。普段よく使われている大きな資料室と違って古い資料が多く保管されている場所だった。その付近の人気は決して少ないとは言えない。しかし運のいいことに書庫室からはシカマルの気配しか感じられない。自然と荒くなっていく呼吸に苦笑しながら書庫室の扉を開けた。バタン、と少し乱暴に、後ろ手に締めてシカマルのいる方向に目を向ける。驚いたシカマルの顔が見えた。無防備に開かれた唇にどくりと心臓が跳ねて、覚束ない指でガチャリと鍵をかけた。

「サスケ? どうした?」

 悠長に返事などしていられない。全力で走ったとはいえ、あの程度で疲れてしまうほど鈍っていないはずなのに、息が上がってしまう。はやく、と心の中で呟いて半ば飛びつくようにしてシカマルに触れた。シカマルが口を開いて言葉を吐こうとするけれど、そんなのは今、いらない。

「サスっ、ん! …っ?」

 言葉を遮るように唇に噛みつく。触れた唇は少し乾燥していた。開いたままだった口に好都合と舌を伸ばす。シカマルの頭を掻き抱く手にぐっと力が入る。久々に触れる熱は生温かく、それでは足りないと舌を絡ませた。舌を吸い上げて、上顎を舐め上げて、やんわりと舌を甘噛みして、視界がぼやけるくらいに没頭する。シカマルの手が腰に回って、ぐいと引き寄せられた。離れようとするシカマルの舌を追いかけて角度を変える。飲み下せない唾液が口端を伝うのが分かった。耳に届く水音と、自分の鼻にかかった甘い声と、同じくらいに甘いシカマルの声は興奮の材料にしかなりはしない。呼吸の仕方も分からないくらいに夢中になっていると肩が押されて、しぶしぶ唇を離す。触れていた舌が離れると糸を引いて、そしてそれはぷつんと切れてしまった。お互いに荒い呼吸のせいで言葉を発することも叶わない。何かを言いたげだったシカマルは後ろのテーブルに腰を落として口元を覆った。

「……は、……死ぬ……」
「はぁ……善すぎて?」
「…馬鹿言え…は、…ふぅ」

 大きく息を吐いて、シカマルは少し上にあるオレの顔を見つめた。ゆらり、とその瞳には欲が映っているのを見逃すオレではない。テーブルに腰かけたのだって、震える膝を隠すためだとオレは知っている。腰かけたシカマルを跨ぐようにテーブルに片足を上げる。首に腕を回してちゅっと触れるだけのキスをして目を細めた。シカマルの手がオレの頭を引き寄せて再び唇が重なる。唇の柔らかさを感じるだけのキスのあとシカマルの指が頬に触れた。

「…いきなりどうした?」
「……足りなくて」

 優しい口調とは裏腹に、ぎらりとしたシカマルの目にぞくりと痺れが走る。シカマルが足りない、と掠れる声で囁くと今度はまた最初のようなねちっこいキスを仕掛けられた。オレがしたように舌を噛み、上顎を舐める。そんなシカマルの舌の動きに蕩けてしまいそうに思いながら、脚に力を入れてテーブルに乗り上げた。その力をそのまま利用して体重をシカマルの方に掛けると身体がぐらりと傾いていった。シカマルの顔のすぐ横に肘をついて、舌を押し返す。反抗するように押し返してきた舌に唇を離して、シカマルの下唇に噛みついた。そっと歯を立てて、舌でなぞる。ん、と聞こえた声に気分をよくしてやわらかく唇を食んだ。
 サスケ、と名前を呼ばれてまだ夢中になっていたい名残惜しい唇から離れて、シカマルの顔を覗きこむ。蕩けた瞳に身体が熱くなるのを感じた。

「…っ、勘弁して、くれ」
「…善くねえか?」
「…善すぎて、やべー……」

 つつ、とシカマルの指が脇腹を伝う。小さく声をもらしたのが聞こえたのか、シカマルは蕩けた瞳のままふっと口端を上げた。する、と服の中に滑り込んできた手は熱く、ただ直に触れられているだけだというのに甘い痺れを連れてくる。腰を引かれ、密着するとすでに熱を持ったそこが布越しに触れ合う。知らず知らずのうちにもれていく息に気づく暇もなく、シカマルが胸の尖りに触れ、そこに意識を持っていかれる。噛み殺そうとした声も弱々しく甘い声として出ていってしまう。びりびりと押し寄せてくる快感にそれだけで達してしまいそうになって額をシカマルの胸に押し付けた。先ほどから胸の先ばかりを弄るシカマルの指を絡め取って机に縫い付け動きを奪う。目を細めこちらを見上げるシカマルの唇に吸いついて、顔を上げた。

「イイんだろ? 何が不満なんだ」
「…、まだイきたくねえんだよ」

 オレの言葉に対して面白いとでも言うようにまだ自由のきく手でオレの腰を撫でた。その指先はベルトを外すこともなく、少しの隙間に差し入れられた。さすがに手首まで入るほどの余裕はなく、浅い部分を撫でてすぐに出ていく。そのもどかしさに腰を押し付けた。

「でもイイことしてーんだろ」
「シカマルのこれでナカぐちゃぐちゃにされてイイとこ突かれてイきてえんだよ」

 いやらしく目をぎらつかせて、ぺろりと唇を舐めたシカマルが脇腹を撫でながら言った。それに煽るようなセリフとともにシカマルの熱に腰を押し付けるとそこが反応して、シカマルの眉がぴくりと動くのが見えた。唇を吊り上げて、シカマルの首筋へ噛みつく。少し舐めたところで顎を取られ、舌を絡め取られた。思考も呼吸も奪うようなキスをされて、乱れた息をわざとシカマルの耳元で聞かせる。そのあとに耳を食んでからシカマルの顔を覗きこむと舌舐めずりをしたシカマルと目が合う。一刻も早く欲しいと手を伸ばしたとき、後ろでガチャン!、と大きな音がして一瞬にして思考がクリアになった。どくんどくんと心臓の音がうるさい。扉の向こうで人の声が聞こえる。思わず舌打ちしたい気持ちになった。サスケ、と名前を呼ばれて視線をシカマルに戻す。

「続きは仕事のあと、な」

 名残惜しそうな顔をして頬を撫でられる。たしかにシカマルは仕事中ではあったけれど。他の部屋に誰かがいるのは知っていたけれど。この書庫室はそこまで頻繁に使われる場所ではないし、一回くらいなら出来るだろうと踏んでいた。あと少なからずこのスリルを楽しんでいた節もある。だからと言って、この状況でおあずけ、なんて絶望的だった。

「…無理、って言ったら?」

 熱っぽい声でシカマルに囁くとその瞳が揺らめく。駄目押しにキスをしようと顔を傾けたところでもう一度ガタンと音がして、一瞬意識を取られた間に理性が戻ったシカマルに身体を起こされた。扉一枚を隔てて邪魔をしてくれた誰とも知れない人間に殺意を覚えつつもテーブルから降りる。鍵を締めて二人きり、なんてところを他人に見られるわけにもいかないから窓を開けてそこに足をかけ、窓枠に飛び乗る。振り返って、シカマル、と名前を呼ぶ声は自分が思っていたよりも切なげでかつ甘かった。

「そんなに待てねえから、早く」

 笑えるほどに切羽詰まった声が出て口元を歪める。シカマルの目がまた色めいたのが見えた。ガチャン、と先ほどとは違って鍵が開く音が聞こえた。シカマルの返事を聞く間もなく、窓枠を蹴って跳んだ。これだけ高まった欲望を放置するのはつらい。どう考えたって我慢出来ない。それでも一人でするくらいなら何もしない方がいい。まだ湿っていた唇を舐めて、自宅へ急ぐ。仕事を終えてやってくるシカマルをどうやって煽ってやろうかと考えながら、乱れる寝室を思い浮かべて吐息をもらした。



want you!



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