どこか遠くで名前を呼ばれてふっと意識が浮上した。長期任務をこなしたあとそのまま報告をして、なんとか家に辿り着いてたしかシャワーを浴びた。そして力尽きるようにベッドに倒れこんだところまでは覚えている。おそらく、そのまま眠ってしまったのだろう。重たい目蓋を押し上げて、開けた視界に入ったのはシカマルの顔だった。少し疲れているようにも見えるけれど、それは多分連日の仕事のせいなのだろう。年末であると言えども、仕事が無くなるわけではない。

「そのままで寝てたのか?」

 目蓋と同じく重い身体を起こして、ふうと息をつく。どれくらい寝ていたのかは分からないけれど、この季節に目覚めたときのしんとした空気の冷たさはなく、ほんのりと肌をすべる温かさがある。部屋全体を暖めている古いストーブには火が灯っていた。シカマルが部屋に入ったときはきっと冷え切っていたのを、わざわざ暖めてくれたらしい。その上部屋が暖まってから起こすという気づかいにじんわりと胸の中心が温かくなった。
 そのまま、と言うシカマルの言葉に首を傾げ、自分が何も着ていないことに気付いた。シャワーを浴びたあと、服を着る気力もなかったのだろうか。よくこの季節にこんな寝かたをして体調を崩さなかったなと思う。

「……そうらしい」

 起きぬけの掠れた声でそう答えたあと、起こした身体をばふんとベッドに沈めた。滑らかなシーツが肌に心地好い。覚醒しきらない頭を起こすようにその場で伸びをした。シカマルがオレの返事に呆れたような返事をして、こちらに背を向ける。クローゼットを開けたシカマルはそこからいくつかの服をつかんでこちらに投げて寄越した。それを受け取って、取りあえず一番最初に手に触れた着心地の気に入っているセーターを頭からかぶった。

「下から履けよ……」

 セーターだけを身につけて、何も着ていないときよりも際どくシカマルの目に映ったのか、そんなシカマルの言葉が耳に入る。しかし先に下を履けと言われても、下着もなしにジャージを着るような習慣はない。オレの無言の訴えに気付いたのか今度は下着を投げて寄越した。大人しくそれを履いて、それからジャージに足を通す。起毛素材が肌に触れる感覚は何度体験しても心地好い。
 歩いてベッド脇まで寄ってきたシカマルはそのままベッドに腰を下ろす。手がこちらに伸びて、頬と少し寝ぐせのついた髪を滑っていった。

「お前昨日何してたんだ?」
「昨日…って、任務から帰ってきてからか?」
「いやそのあと……は?」

 シカマルの質問の意味が分からずにそのまま疑問で返してしまう。昨日任務から帰ってきたばかりで、そしてシカマルも知っている通りたった今目覚めたところなのだ。何をするもなにも、そんな暇などどこにもなかった。
 シカマルは怪訝そうに眉をひそめたあと、少し沈黙して、口を開く。

「帰ってきてから、ずっと寝てたのか?」

 その言葉にひとつの可能性を見出す。もしかしなくても、そうなのかもしれない。窺うようにちらりと時計に目をやり、それから壁にかかったカレンダーへ視線を移す。里へ帰還したのは二十二日。長期任務後の休暇を考えると年末年始は、急きょ当日人手不足で任務を言い渡されない限りはゆっくり過ごせると思いながら帰ってきた。ついでに言うとクリスマスも任務の予定がないから、シカマルの都合さえつけば一緒に過ごせるな、とも考えたから間違いない。

「…今日って何日だ?」
「二十四日だ」

 間髪入れないシカマルの答えに、自分の、そしておそらくシカマルも考えついていたであろうひとつの可能性が現実だったと分かり自分でも苦笑した。帰ったのは二十二日の夜で、そして今が二十四日の夕方。丸一日どころか、それ以上を睡眠で浪費してしまっていた。たしかに疲れてはいたけれど、まさかそこまでの惰眠を貪ってしまうほどとは思っていなかった。それなら一日以上何も食べていないのか、そう意識した途端に腹が大きな音を立てて鳴った。

「腹減った……」
「だろうな。何食抜いてんだよ。一応オードブルとか買ってきた。あといるか知らねーけどケーキも」
「ん…腹減ってるから食えるかもしんねえ」

 驚いたシカマルに多分無理だけどな、と答えるとそうだろうと返事がかえってきた。少し早いけど、と言って立ち上がろうとするシカマルの腕を掴んで引き寄せる。不意打ちのように重ねた唇はすぐに離れていってしまった。何か言いたげな目をしているのを無視してもう一度唇に触れる。すんなりと侵入を許してくれたシカマルに満足しつつ久々に感じる舌の温度に酔いしれた。少し強めに舌を噛むとシカマルは咎めるような目でオレの目を覗きこんだあと同じようにして舌を噛んだ。ぞわ、と背中に痺れが走った。名残惜しいけれど、今は空腹感の方が勝ってしまっている。唇を離して、立ち上がった。

「飯食う前にシャワー浴びる」
「……は、……っ、そうか」

 息を乱したままのシカマルに触れるだけのキスをして風呂場へ向かう。そういえばせっかく服を着たのに二度手間だった。服を脱いでコックを捻ると熱い湯が降りそそぐ。身体が芯から温まっていく感覚に目を閉じる。普通ならこの心地好い感覚に眠気が訪れてしまうのだけれど、一日以上寝ていた今は眠気の片鱗すら見えない。ぐう、と鳴った腹にシカマルが買ってきたというオードブルを想像してさらに空腹感が増す。
 ケーキはシカマルが食べるとして、オレのデザートは言うまでもない。セイなる夜だな、と頭を過ぎった言葉にうんざりした。あまりに頭が悪い。自分で思いついておいてなんだけれど。しかし、あれだけ寝てしまえば夜なんて眠れるはずもないから、シカマルには付き合ってもらうしかない。長期任務で長く会えなかったこともあるし、食事のあと食欲が満たされ、睡眠欲については考えるまでもない。残る三大欲求最後のひとつを存分に満たすしかない。幸運なことに、おそらく食事は早いうちに終わってしまう。セイなる夜は長い。少し念入りに身体を流して、風呂場をあとにした。



セイなる夜に!



101225


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