「っ痛ェ!」

 シカマルの声にふっと顔をそちらに向けると、口元を押さえ目を細めている姿が見えた。どうした、と視線で問うとシカマルは押さえていた手を離し指先を見つめたあと舌を打った。

「唇切れた」

 そう苦々しく言ったシカマルの唇はたしかに切れていて、少し出血をしていた。その出血のせいでどこが切れたのかはよく分からない。立ち上がってそばに寄り、すっと顔を寄せる。下唇の中央より若干左のあたりが裂けてしまっている。唇全体を見てみると、そりゃ切れるだろ、と思うくらいに乾燥していた。思い出してみれば昨日触れた感覚もざらりとしていたように思う。季節は冬だ、なんのケアもしなければ乾燥してしまうのは当然だ。

「塗っとけ、遅えけど」

 常に携帯しているリップクリームをシカマルに差し出す。それを受け取ったシカマルは大人しく唇にすべらせていくが、その表情は浮かない。

「リップ好きじゃねーんだよな。なんか気になって」
「そうか?」

 シカマルからリップクリームを受け取って、弄ぶ。荒れて痛い目を見るよりはよっぽど利口であるように思えるのだけれど。たしかに違和感を持ってしまうという言い分も理解は出来たが、幼いころからの習慣でリップクリームを欠かすことのないオレからするとその感覚は分からなかった。

「お前の唇荒れてるとこは見ねーな、そういや」

 シカマルの親指がオレの唇を撫でる。その感触を楽しむかのように動いた親指はオレの言葉のために離れていった。

「荒れると色々困るからな」

 色々?、と疑問を返してきたシカマルに笑みを返す。些細な唇の変化ですら火遁は影響を受けるのだと言うとシカマルはへえ、と声をもらした。唇のわずかな動きで火力や方向を調節する以上、常に万全の状態でなくてはならない。だから、戦闘中に顔、とくに口元へ攻撃を受けると火遁の精度が下がってしまってかなわないのだ。その都度微調整をしながらではあるけれど、コントロールが簡単なことにこしたことはない。

「だからいっつも柔らかいのか」
「お前はざらざらしてる」

 悪かったなと笑うシカマルに舐めるからそうなるんだ、と言ってリップクリームで潤うシカマルの唇に手を伸ばした。つ、と触れるとしっとりとした感触が返ってくる。珍しい感覚に思わず笑ってしまった。
 シカマルの手のひらがオレの頬を包んで、気付けば唇を食まれていた。やわらかく、愛おしむように施される口づけになされるがまま目を閉じる。それはただ触れ合うだけで、濃密に絡んだりはしないが、十分に熱を持っていた。

「くせになる」
 
 唇を少しだけ離して、息がかかってしまう距離でシカマルが吐息とともに囁いた。背中を走る痺れを感じながらシカマルの背に手を伸ばす。身体を密着させて、再び重なる唇に少しずつ思考が溶かされていくのを感じる。ひた、と熱い粘膜を唇に感じて目を開けるとぎらりとした瞳と目が合った。

「舐めたら荒れるぜ」

 オレの焦らすような言葉に目を細めたシカマルは、一度触れるだけの口づけを落とした。一体どうするのか、様子を窺っていると後頭部をやんわりと撫でられ、背に回していた腕に力がこもる。

「……乾く暇もねーようにしたら、いいだろ」

 そう言ったシカマルはそれが合図だったかのように唇に噛みついた。招くように開いた唇から容赦なく侵入してきた舌はひどく熱い。触れる唇はいつもの感覚とは違い、しっとりとしてはいるが、まだ乾燥の名残を持っていた。唇にリップクリームが移ってくるのに気付いて、これだけならむしろ潤うな、と思っていたところに絡んでいた舌が不意に離れ、オレの唇を舐めていった。だから、荒れるんだって。空気に触れると途端に乾き始めてしまうそこは、すぐにシカマルの唇で押さえられた。たしかに、乾燥はしねえな、と蕩けた思考の中で呟いて、シカマルの唇を思い切り舐め上げた。




12:唇


110112



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