中忍シカマルと暗部サスケ









 シカマルの中忍服姿は、まるで元々シカマルのためにあつらえられたものであるかのように、非常にしっくりとくる、実にお似合いの姿だった。皮肉でもなく、純粋に似合うと思う。あのベストを着る自分の姿はどうしても想像出来ず――きっと似合わない気がする――支給はされているベストを一瞥してもう一度シカマルの姿を思い浮かべた。最初にその姿を見たときは、随分と差をつけられたようで、悔しいやら寂しいやら複雑な気持ちになったなあと昔の記憶を懐かしむ。事実忙しくなったシカマルと会える頻度は減ってしまったし、それが寂しくなかったと言えば嘘になる。今はむしろオレの方が忙しくなって、思い返せば最後に会ったのはいつだったか、なんて溜息をついた。

 ちらりと時計を見て、やることも特にないしもう着替えるか、と立ち上がる。先ほどまで着ていた服を脱ぎ捨てて、黒衣を身にまとえば徐々に指先から冷えていくように感じる。その冷えが全身に及んで心を凍りつかせれば準備は整ったようなものだ。この服を着て、明るい任務をこなすことはありえない。待っているのは目を背けたくなるような行為ただそれだけだったが、そもそもそれに心を痛めるくらいなら初めからそんな任務受けなければいいのだ。――暗部なんて、やめてしまえばいいのだ。
 シカマルの中忍ベストを思い浮かべ、そして鏡に映る自分の姿を見て、その差に苦笑する。まったく物騒な目をした自分が映っているではないか。今にも人を殺しそうだ。まあ、時間の問題か、と笑った。しかし、中忍ベストよりよっぽど似合うように思う。ちょうどそんなとき焦がれる気配を近くに感じて俯きかけていた顔を上げた。気配は押し殺されているけれど、それに気付けないオレではない。

「これから任務か?」
「……ああ」

 まるで今気付きました、とでも言うように驚きに目を見開いてそのあと肩をすくめる仕草をした。そんなオレの姿にシカマルは薄らと隈の出来た目を細めた。

「らしくねー演技してんなよ。気付いてたろ」
「まあな」

 シカマルの指摘に今度は本当に肩をすくめた。今すぐに行かなければならないわけではない。少なくともしばらくは家でゆっくり出来る。その時間もシカマルと過ごすにしてはあまりにも短い時間ではあるけれど。どうせだったら休日に会えたらよかったのに、と心のどこかで思うものの、会えて嬉しいと身体が反応してしまって気付けばその背に手を回していた。すう、と大きく息を吸えば欲しかったシカマルの温もりも香りもすべて自分のものに出来るような気がした。

「……任務か」

 耳元で囁くような声にふっと目を細める。さきほどとは違うトーンで同じ言葉を繰り返したシカマルに、今度はおどける仕草はなく吐息交じりに同じ答えを返す。しばらく無言を通すシカマルに大人しく抱きしめられていると小さな声でそうか、という声が聞こえた。
 オレが暗部として任務をしていることに対して、シカマルが快い感情を持っていないことは十分に知っている。死ぬ確率は嫌でも跳ね上がるし、任務内容が内容だけに評判だって良くはない。普通の感覚が削り取られて少しずつ狂っていってしまうかもしれない、そんな環境だ。オレにやめるつもりなんてないことは承知しているのだろうけれど、シカマルはいつも暗部服姿のオレを見ると複雑そうに眉を寄せるのだった。

「似合わねーな」

 それ、と言って示すのはもちろん暗部服。この言葉を投げかけられるのが何度目になるのかもはや分からない。シカマルの指が右肩の刺青をなぞる。そこが赤みを帯びていたのははるか昔のことのように思えた。自分でも嫌になるようなどうやっても焼けない白い肌の上に存在を主張する暗部としての証が、シカマルにとっては苦く重い気持ちを連れてくるのだろう。

「中忍ベストよりは似合うと思うけどな」

 冗談めいた口調で返せば咎めるような視線がこちらに向かう。不意に奪われた唇に、なされるがまま目を閉じる。押し付けるだけのそれに物足りなさを感じて、背に回していた腕の力を強める。目蓋を薄く開くと、黒の瞳がこちらを見つめていた。そのままあっさりと離れてしまった唇は濡れることなく、わずかに開いて細く息を吐き出した。

「やっぱり、似合わねーよ」

 そう紡いだシカマルは噛みつくようなキスをしかけてくる。時間なんて忘れてしまえばいいのに、なんて想いが伝わるようで笑みがこぼれてしまう。それでも、オレが時間を違えることなど出来るはずもなく。濡れたシカマルの唇をねっとり舐め上げ、ちゅっと音を立ててキスをしたあと、背に回した手を離してシカマルの腕からすり抜ける。

「行く」

 テーブルの上に置きっぱなしにしてあった仮面に手を伸ばして、掴む。黒衣に仮面、なんてオレのためにあるようなもんだなあと自嘲気味に笑えば疲れた顔をしたシカマルの顔が視界に入る。そんな顔させたいわけじゃないのだけれど。

「脱いじまえ、そんなもん」

 そんなシカマルの言葉を背に受けて、笑う。シカマルがその言葉をオレに投げかける限り、オレは暗部服に同化してしまうことはない。いつかな、と呟いてオレは床を蹴る。



07:制服


101128



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