「空が崩れて星たちが堕ちてくるんだ」

 夢の話であった。ここのところ眠りにつくとほぼ毎日同じ夢を見るのだと言う。
 内容はこうだ。ふと気付くとそこは暗闇であり、そして何気なく上を見上げるとまばゆいばかりに煌めく星々がある。光輝く星がある時点でその空間を暗闇と表現していいのかは分からないが、本人がそう語る以上そのように表現するほかなく、所詮夢の話なのであるからご都合主義なのは致し方ない。その美しい星々見て毎度のことながらため息が出てしまう。

「まるで、……三途の川、みたいで」

 三途の川が夜空に煌めくものを指すのか、実際それを見たこともないので確実なことは言えないが、おそらくは天の川と言いたかったのだろうと思う。夢見心地のその様子では、きっと自分が何を喋っているのか理解していない。零れるままに夢を語る。ぼんやりとまばたきを繰り返し、眠そうな表情を見せる横顔を見つめ、囁くように続きを促す。

「星たちが、」

 空を眺めていると、突然崩れだす。空が死んでいく。空の破片と共に星たちが堕ちてくるそうだ。きっとそれは星たちの死骸である。堕ちてくる星たちを眺めたまま、動くことも出来ない。ただ見つめるばかりである。その空と星たちの死に、何の感情も生まれることはない。

「星たちが堕ちた先には、世界が生まれる」

 まばゆい星の死骸が落下し、溢れんばかりの光とともに小さな世界が誕生する。それを眺めながらふと上を見上げると自分の方へ煌めく星が堕ちてくる。避けることも出来るのかもしれないが、どうしたことか身体は動こうとはしない。目を閉じる。星が身体に衝突する。薄い目蓋では遮ることが出来ないほどの光が目に飛び込んできて―――、目が覚める。

「きっとそれが誕生の瞬間なんだ。オレの、世界、の」

 夢から覚める瞬間は、なぜか理由もなく涙が流れる。赤子の誕生の瞬間と同じような理由なのかもしれない、と呟くその目には薄く涙の膜が張っていた。
 その夢で、一体何度生と死を見てきたのだろうか。空の崩壊と星たちの死と世界の誕生と、ひたすら生と死の繰り返しの夢の中に、ひとり佇み一体何を感じたのだろうか。
黒の瞳がゆるりと薄く白い目蓋で隠され、また姿を現す。ゆらゆらと涙の膜に反射する現実の世界は未だ朝を迎えていない。

「目を開けたとき、一番にお前の顔を見ることが出来たら、うれしい。初めて目にするものがお前なら、幸せなんだ」

 未だ夢見心地のようなふわふわとした言葉はいとも簡単に胸を締め付け、衝動的に抱きしめたい衝動に駆られる。こちらまでふわふわ浮き上がってしまいそうな感覚に、その身体を抱きしめた。

「ずっとそばにいる。目覚めのときも、眠りにつくときも」

 囁いて、唇を寄せた。音にすることなく、大切に大切に5文字を紡ぐ。柔らかに笑う唇を啄んでもう一度。




あいしてる
(空が死んで、世界が生まれて)(きみがいとしい)




よく考えたら別にシカサスじゃなくてもいい件について←
イメージはハ/ウ/ルの某シーンですハ/ウ/ルかっこいい(^O^)


100907


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